翌日の発表会、夏目静香はかなり早めに会場に到着した。彼女が到着したとき、現場には監督とカメラマンが数名いるだけだった。
夏目静香は原田吉彦を見つけると、彼に向かって笑みを浮かべ、恭しく「原田監督」と呼びかけた。
原田吉彦は彼女をちらりと見て、そして上から下までじろりと眺め、視線には少し不自然さと不満が漂っていた。最後には返事もせず、そのまま立ち去った。
夏目静香は彼の反応を不思議に思ったが、自分が新人だから評価が低いのも当然かと思い、それ以上深く考えず、人気のない場所を見つけて静かに座り、発表会の開始を待った。
関係者がほぼ揃った後、夏目静香と小川美果は立ち上がって一人ひとりに挨拶をして回った。半分以上の人が取り合わなかったが、夏目静香と小川美果はそれでも一人ひとりに挨拶した。何と言っても新人だ。初日から全員を敵に回したくはない。
「静香、ちょっとこっちに来て」
夏目静香が加藤直人(カトウ・ナオト)の姿を見つけ、これから挨拶に行こうとしたところで、原田の声が聞こえた。仕方なく、彼女は加藤直人に微笑みかけると、人混みから離れた。
原田吉彦の前まで来たとき、彼女はようやく彼の隣に座っている人物に気づいた。足を止めたが、反応する間もなく、原田吉彦が紹介し始めた。
「静香、こちらは千城メディアの遠藤社長だ。昨日イギリスから帰国したばかりでな」
原田吉彦は遠藤彰人を見てから続けた。
「遠藤社長、彼女は夏目静香といいます。彼女の出演した多くのCMを見て、なかなか良い感じだったので、今回のドラマで第二のヒロインを頼むことにしました」
原田吉彦の顔には、恭しい笑みが浮かんでいた。
遠藤彰人は動じることなく、口元をわずかに緩めた。彼は原田吉彦を見もせず、直接立ち上がると、夏目静香に紳士的に手を差し出し、ゆっくりと口を開いた。
「夏目さん、はじめまして」
夏目静香は彼の「夏目さん」という呼び方に一瞬たじろいだ。その後、無理やり笑顔を作り、彼の口調を真似て恭々しく言った。
「遠藤社長、はじめまして」
夏目静香の手が遠藤彰人に触れようとした瞬間、遠藤彰人は何か汚いものに触れたかのように、さっと手を引っ込めた。そして振り返って原田吉彦の方を向き、さも当然のように言い放った。
「彼女がこのドラマの第二ヒロインに適任とは考えない。率直に言って、彼女の演技の素質そのものに疑問がある。彼女は国内でモデルとして名は知れているが、演技はやっぱり無理だろう」
遠藤彰人はそう言い終えると、平静な表情で夏目静香を一瞥した。その眼差しには一片の揺らぎもなく、口元にはかすかな嘲笑さえ浮かべていた。
夏目静香は一瞬浮いた手を引っ込め、彼の言葉で笑みが顔から引いていった。
原田吉彦は遠藤彰人と夏目静香を交互に見て、難しい顔をした。彼は夏目静香を高く評価していた。正確に言えば、夏目静香を落としたかったが、遠藤彰人を怒らせるわけにもいかなかった。
せっかくの良い機会だったのに、彼は少しばかり無念だった。昨夜、彼は人に頼んで夏目静香に薬を盛らせたが、結局彼女を見つけられなかった。もう一度機会があれば、きっと成功するはずなのに。
「遠藤社長、やはり静香に一度チャンスを与えて、試させてみるべきだと思います」
原田吉彦は気まずそうに笑いながら夏目静香を見て、遠藤彰人の前で何か言うよう促した。
原田吉彦の視線を受け、夏目静香は唇を噛み、顔を上げて遠藤彰人を見つめ、少し不機嫌そうに言った。
「遠藤社長、どうして私が演じられないとおわかりになるのですか?確かにこれは私が初めて受けた役ですが、この役を絶対にうまく演じられると自信があります!」
原田吉彦が夏目静香に向けた視線は、遠藤彰人の心中の怒りをかき立てた。彼が夏目静香に向ける目つきも、それに連れてますます凶悪なものに変わった。
「夏目さん、その自信が、ひょっとすると作品全体を台無しにするかもしれない。諦めた方がいい。このドラマはお前には向いていない」