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0.92% 悪役ですが、死んで成り上がる / Chapter 2: 出会いは帝都の道すがら

章 2: 出会いは帝都の道すがら

編集者: Pactera-novel

瞬く間に数日が過ぎ、いよいよ登校の日がやってきた。

目に痛いほどの青空が、地上のすべてを映し出す鏡のように澄み渡っている。太陽に炙られて溶け出したような細切れの白い雲が、風に流され、ゆっくりと空を横切っていく。

タロは今、四輪の箱型馬車に揺られていた。賑やかな帝国大通りを抜け、船に乗って学校へ向かうため、ゆっくりと港を目指している。

手綱を握るのは、タリス家に三代にわたって仕える老執事、タルス・セーフだ。

セーフとは「……に献身する者」を意味し、この世界で亡くなったタロの祖父が授けた名である。

老執事は執事服の上からでもわかるほど痩身で、どこか猫背気味に見えるが、その実力は正真正銘のゴールド級。

タロが暮らすこの帝都で、老執事と正面から渡り合える者など10人にも満たず、物心ついた頃から彼の護衛を務めてきた。

両親の放任と、この老執事の際限のない溺愛。それらが組み合わさって、かつてのタロの、あの傍若無人な性格は形成されたのだ。

「放蕩息子」。その汚名をタロが背負うに至った経緯を考えれば、タリス家の人間は誰一人として無実じゃない。全員が共犯者だ。

車内はそれなりに広く、小さなテーブルを一つ置けるほどの余裕がある。

今回の旅に、大した荷物は持ってきていない。フィドラ魔法学校は完全全寮制で、衣食住のすべては学校側が管理することになっている。

タロは座席に深くもたれかかり、目を閉じていた。頭の中では【神秘の門】の能力を使い、前世で見た脳が溶けるようなCGマシマシのポップコーンムービーを再生している。

まさに物語が盛り上がってきた、その時だった。馬車が不意に、ゆっくりと路肩に停止した。車外から、老執事が誰かと話す声が聞こえてくる。

好奇心に駆られ、手で窓のカーテンをめくると、馬車を停めた二人の姿が目に入った。

一人は、執事服に身を包み、シルクハットを被った小太りの中年男。

彼はこちらから顔を覗かせたタロの姿を認めるや、見るからに顔色を変えた。大きな鼻の下にたくわえられた、手入れの行き届いたカイゼル髭が、ぴくぴくと二度、三度と痙攣している。

もう一人は、その傍らに佇む、人形のように可憐な少女だった。地味な色合いの淑女ドレスを着て、防寒用の真っ白なケープを羽織り、緩くウェーブのかかった金髪が肩まで流れている。

タロの視線に気づくと、少女はスカートの裾を軽くつまみ、優雅に一礼した。綺麗だが、まだあどけなさの残る顔に、完璧な貴族の笑みが浮かんでいる。

アイリス伯爵が手塩にかけて育てた一人娘、グレース・フルーレ。そして、フルーレ家の大執事であるフルーレセーフ。

道半ばで馬に不測の事態が起きたらしい。しかし、令嬢の旅程を遅らせるわけにはいかない。そこでフルーレセーフは、通りがかった見栄えの良い馬車を適当に停め、拝借して先を急ごうと考えたのだろう。

フルーレ家の権勢を考えれば、たとえ帝都の中であろうと、この申し出を断れる者などそうはいない。目の前の存在を除けば……

タリス家とフルーレ家は、『ロミオとジュリエット』のキャピュレット家とモンタギュー家のような不倶戴天の敵というわけではないが、昨今の情勢を鑑みれば、それに近いものがある。

アイリス伯爵を筆頭とする貴族派閥は、タロの父であるタリス大公と、政治信条、交易路、領地の線引きなど、あらゆる面で対立していた。この状況は、もう百年近く続いている。

皇帝による仲裁がなければ、両家はとうの昔に大義名分を掲げ、貴族間戦争の口火を切っていただろう。

フルーレセーフは、御者がタルス・セーフであると知った時点で、胸中に警鐘が鳴り響くのを感じていた。そして、車内にいるのがタロだとわかった瞬間、彼はもう頭が割れそうだった。

なにしろ、タリス家の若君、タロ・タリスの悪名ときたら、北方連合諸国からメガラニカに至るまで、知らぬ者はいないのだから。

「フルーレ嬢も、私と同じくフィドラの入学許可証を受け取ったと伺っていますが、何かお困りごとでも?」タロは単刀直入に尋ねた。

フルーレセーフの肥えた体が、慌てて主人の前に立ちはだかる。彼は頭のシルクハットを脱いで胸に当て、深く腰を折った。その礼儀作法に、一点の隙も見当たらない。

「はい、尊貴なるタリス卿閣下。我々の馬車が、道中にて少々のアクシデントに見舞われまして」

この悪名高き放蕩息子が、まさか「伺っています」だと!?噂ではただの乱暴者だと聞いていたが、いつの間に、その人好きのする仮面の下に悪意を隠す術を身につけたのだ!

フルーレセーフの頭が、猛烈な勢いで回転する。いかにして、この場から自然に離脱すべきか。

タロは心得たように頷き、フルーレセーフの背後にいるグレースに目をやった。

前世の記憶によれば、彼女もまた物語の主要人物の一人。そして、他のヒロインたちと同様、終盤で悲惨な目に遭う運命だ。なんとも、まあ、不憫なことだ。

おっと、待てよ。そのヒロインたちを地獄に突き落とした元凶は、何を隠そう、この俺自身じゃないか……

直接手を下したにせよ、間接的に誰かを操ったにせよ、そのすべてはタロが画策したものだ。タロの数ある死亡フラグのうち、実に六割以上がヒロインたちの手によってもたらされるのは、それが原因だった。

根拠のない罪悪感を覚えながら、タロは口を開いた。「僕も港へ向かうところです。もしよろしければ、お送りしましょう」

フルーレセーフの唇が、数回、意味もなく動いた。だが、ついに断りの言葉が出てくることはなかった。両家が少なくとも表面上の平和を保っているという事実もさることながら、

万が一この放蕩息子の顔に泥を塗ったと見なされた場合、その後の展開はフルーレセーフが想像したくない類のものだった。

彼は振り返ってグレースに視線を送る。彼女が静かに頷くのが見えた。

溜め息を一つ。フルーレセーフは再びタロに向かって頭を下げた。「望外の光栄に存じます。アイリス伯爵も、閣下のこの度の善意に、必ずや報いることでしょう」

感謝の言葉の中で、「アイリス伯爵」という単語の発音だけが、明らかに重く響いた。伯爵の名に免じて、タロか無用なちょっかいは出さないでいただきたい。そんな彼の切なる願いが込められている。

グレースもタロと同様、荷物は少なかった。フルーレセーフの手によって、馬車の後部にあるトランクに収められる。

すべての準備が整うと、フルーレセーフはタルス・セーフと共に御者台に上がった。

かくして、タロとグレースは、テーブルを挟んで向かい合い、車内に二人きりとなった。

タロはグレースの優雅な横顔を眺めながら、半ば目を閉じ、意識を【神秘の門】へと集中させる。前世の記憶の海を、再び泳ぎ始める。

ここ数日の探索と訓練のおかげで、もはやシステムが要求する厳密な手順を踏まずとも、少し意識を向けるだけで、自在に過去を追体験できるまでになっていた。

呼吸を整える。雑念が、煙のように立ち上っては消えていく。

それらが来るに任せ、去るに任せる。

静寂のただ中で、ゆっくりと神秘の門が姿を現した。

感情の波を鎮め、扉を見つめる。タロは、過去のすべてを見た。

無数の映像と文字が明滅する。かつて読んだ本の、句読点一つに至るまでが鮮明に浮かび上がり、夢中になった映画やアニメが、再び一から上映されていく。

だが、不可解なことに、このゲーム世界に関する記憶だけは、まるで薄い紗を通して見るように、どこまでも曖昧で、はっきりとしない。

唯一の慰めは、前世で絵を描いていたことだった。人体構造の技術を磨くという名目で、批判的な眼差しを向けながらも、ゲームに登場する数々の美麗なCGを専門的に模写した経験がある。

グレースも、当然その一人だった。

今の華奢な体つきとは裏腹に、成長したグレースが、その慎ましい衣服の下にいかに豊満な果実を隠し持っているか、タロは隅々まで知り尽くしていた。


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