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0.58% 悪役の憧れの人になってしまった / Chapter 3: クールなお父様

章 3: クールなお父様

編集者: Inschain-JA

彼女はただ、普通に生きていきたかっただけだった……。

もしも原作『兄弟たちは皆絶世』に、高橋浩の本当の姿が蛟龍だと書かれていなかったなら、

おそらく彼女は、浩を恐ろしい大蛇だと思い込んでいたことだろう。

渡辺水紀は、その血に飢えたような冷たい紫の瞳を直視することすら怖かった。

なぜなら――

この世界において、神力の天賦は「赤・橙・金・緑・青・藍・紫」の順に分けられていたからだ。

瞳の色こそが、神力の資質を示していた。

その頂点に立つ象徴――紫瞳。

砂都では、たった一人だけがその持ち主だった。

——

高橋浩。まさしく王の名にふさわしい存在。

万獣から崇拝される彼は、まるですべての命を意のままに操ることができた。

なにしろ、一般的な獣人は皆、赤い瞳をしている。

最低位の赤は、獣としての殺気がまだ収まりきっていない証。

それ以外の色を持つ獣人は、極めて稀だった。

渡辺水紀の黒い瞳は、この獣世で唯一無二のものであり、不吉のしるしと見なされていた……

要するに、ヒロインに出会えば、それは不幸の始まりになりかねない。

ならば、死ぬ前に――

生き残る道を探しておくべきだ。

そう考え抜いた末、水紀は……命知らずな決断をした。彼に、執着し続けること。

なにがなんでも、高橋浩に先に自分を好きにさせる。

そうすれば、生き延びる可能性もあるかもしれない。

そこで水紀は、思い切って声を発した。

「ふ……おと……お父さん」

これは、この間で彼女が初めて覚えた言葉だった。

だが――

浩は答えず、視線を上げることすらなかった。

相変わらず冷淡な表情のまま。

依然として奏章に目を落とし、筆を走らせていた。

けれど、不思議なことに――

彼は膝の上の渡辺水紀を、そのまま放っておいたのだった……

しばらくすると、突然扉を叩く音が響いた。

長老が、さらに多くの奏上書を抱えてきたのだ……

その尊敬を集める長老は、見るからに年老いていた。

白い髭を蓄えた古稀の翁のような風貌であった。

浩の袖をつかんでいた水紀は、

首をかしげて新しく差し出された奏章をのぞき込んだ。

その機に乗じて、より多くの古文字を目にすることもできた。

ここの文字は、奇怪な形をした甲骨文に似ていた……

だが驚くべきことに――彼女にはそれがすべて読めたのだ!

信じられないことだった。

奏上書に「王様」という二文字が書かれているのに気づいた。

そこで水紀は、自らの才能を示そうと、必死に音をつなげて言葉を紡いだ。

どもりながらも声を絞り出す。

「お、おとうさん……こ、れ、は(これはあなた)」

奏上書を指差し、

さらにもう片方の手で、高橋浩本人をはっきりと指した。

その瞬間、傍らにいた長老は驚愕に目を見開いた。

そして羨望を込めて言った。

「姫様の才能は、まるで王様の若かりし頃のようです」

その媚びた言葉に、水紀は心の中で鼻であしらった。

すると、今度は

浩もついに反応を示した。

「ふむ、まあまあ」

……まあまあ、とはどういう意味だ?

この年齢で、独学でこれほど多くの字を読めるというのに?

それを「まあまあ」と言うのか?

水紀は少し落胆した。

だが――そのとき気づいてしまった。

浩の冷たかった唇の端が、

ほんのわずかに、見えないほど小さく……上がっていたことに。

========

——『兄弟たちは皆絶世』原作抜粋。

「高橋浩は、生まれながらに冷ややかな男だった。

最初に一目見てから……

次第に、渡辺水紀という存在をも忘れていった。

王宮での時間は、もっぱら奏上書の批閲に費やされる。

そんな退屈で硬直した彼の世界に、いつの間にか渡辺琴音という存在が現れた。

琴音はまだ言葉を話せなかった。

だが彼を見ると、いつも瞳を輝かせて笑いかけてきた。

そのたびに、彼は初めて知ったのだ。――父親になる喜びというものを。


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