章 11: 第11章 彼は公私混同して復讐したりしないよね？

温井彩乃が『失聲症』という映画の撮影チームを選んだのは、ただ単に監督が新人俳優を募集していたからではなかった。

本に入る者として、彩乃はこの映画が公開後に数多くの賞を受賞することをよく知っていた。

間違いなければ、この作品は当時の映画祭で黒馬として一気に八つの賞を獲得したのだ。

唯一最優秀女優賞だけは取れなかった。その栄冠は原作の女主人公に取られてしまったのだ。

『失聲症』という映画には厳密に言えば女主人公は存在せず、その他の賞が何だったのかは彩乃もよく知らなかった。結局原作でも詳しく列挙されてはいなかったからだ。

しかし、どんな賞であれ、とにかくこの映画は大ヒットしたのだ。

彩乃はすでに計画を立てていた。今回は全力で挑戦し、どんな役でもいいから出演できるよう頑張るつもりだった。

メールに記載された面接の時間と場所をもう一度確認すると、彩乃は興奮のあまり眠気が吹き飛んだ。

一晩中、彼女は『失聲症』に関する情報を検索していた。

最終的に集めた有用な情報はそれほど多くなかったが、大まかな方向性は理解できていた。

この映画は、熱血青年弁護士が困難や危険を顧みず、聴覚障害者のために裁判で戦い、正義を実現する物語だった。

ただ、具体的にどのような事件が描かれるのかまでは分からなかった。しかし彩乃が確信していたのは、これが間違いなく社会の底辺にいる人々の物語だということだった。

この方向性が分かった後、彩乃は即座に準備を始め、5日後の面接に合格できるよう全力を尽くした。

彼女は聴覚障害者に関する多くのドキュメンタリーを見て、さらに手話教室にも何度か通った。

手話クラスでは様々な生徒と接した。彼らの多くは裕福ではなく、老若男女問わず、家族の聴覚障害者とより良くコミュニケーションを取るために手話を学んでいた。

授業後、彩乃はよくスイーツショップでデザートを買っていた。

ここ数日は自分のアパートに住んでおり、鈴木家の別荘には戻っていなかった。

杉山千佳からは頻繁に電話があり、戻ってくるよう言われていたが、彼女は三人家族の邪魔をしたくなかったので、代わりに千佳のアトリエにお菓子を届けることにしていた。

千佳は彩乃をとても大切にしており、取引先から送られてくる素敵な服や装飾品があると、彩乃に好きなものを選ばせ、断ると怒るほどだった。