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章 5: 第5章

「あ!私、わざとじゃないの!」

「ただ中に何があるか見たかっただけ……」

雲井佳乃の驚きの声が聞こえてきた。

城戸洸也の手にあった小犬の骨壷が地面にひっくり返された。

一陣の風が吹き、壷の中の骨灰がプールの中へと舞い散った。

灰色の骨灰が水面に漂っている。

私の目から涙が零れ落ち、視界が霞む中、電話の向こうの洸也に最後の言葉を告げた。

「洸也、今度は死んで謝罪すれば、もうあなたに借りはできないわ……」

言い終えると、私は別荘の三階から身を躍らせた。

体が急速に落下していく。

風の音が耳元で唸り声を上げる。

記憶が脳裏に浮かび上がる。

初めて会った洸也の姿が見える、陽気で正義感あふれる顔で私を背後に守っていた。

初めて生理用品を届けてくれた洸也の姿が見える、顔を真っ赤にしながらも私が痛くないか心配してくれた。

九十九通の恋文を書いてくれた洸也の姿が見える、愛に満ちた表情で一生愛すると誓ってくれた。

走馬灯の最後に、私は短い人生で唯一の甘い思い出を見た。

最後に意識が消え、プールに叩きつけられる瞬間、私は二十八歳の洸也の、驚愕と慌てに満ちた表情を見た。

……

プールサイドで、洸也の顔がプールから跳ね上がった水で濡れた。

骨身に染みる冷たさが、彼を我に返らせた。

骨壷の中の灰色の骨灰を見下ろす。

洸也は私の先ほどの言葉を何度も思い返していた。

彼の頭の中が一瞬真っ白になった。

「洸也、佐々木先輩が飛び降りるときの表情、すごく面白いわ。これを写真展に出したら、絶対話題になるわ!」

佳乃はカメラを手に、何でもないように笑っていた。

「あれ、佐々木先輩、まだ上がってこないの?」

「こんなに寒いし、早く戻りましょうよ!」

佳乃は勝手に洸也の腕を引っ張り、別荘へ向かおうとした。

しかし洸也は微動だにしなかった。

彼はプールを凝視していた。

数秒経っても何の動きもなく、彼は慌てた。

躊躇なくプールに飛び込み、洸也は徐々に硬直していく私の遺体を抱えて岸に上がった。

「きゃあ!」

「洸也、佐々木先輩の体、どうしてこんな状態に…!?」

佳乃は恐怖に震え、私の遺体を指さしながら、恐ろしそうに後退した。

洸也は目の上の水を拭い、私の姿をはっきりと見た。

彼の全身の血が凍りつき、頭の中が真っ白になった。


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