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星が降る夜、全てを生まれ変わる 星が降る夜、全てを生まれ変わる

星が降る夜、全てを生まれ変わる

作者: 青竹蒼々

© WebNovel

章 1: 再生

編集者: Pactera-novel

終末世界が訪れる以前の、高速道路の料金所に似た詰所が三つ、ずうっと車列の前に幅を利かせている。どのゲートの手前にも、くねくねと長蛇の列。

視線を遠くへ投げると、威容を誇る城門とそびえ立つ城壁が闇に重なり、その手前には人工の堀が帯のように巡らされ、さらに堀の前面には巨大な落とし穴が幾重にも仕掛けられていた。

終末世界から数えて一年。栄閑仙は幾度となく死地をくぐり抜け、ついにここまでたどり着いた。胸に抱く幼い息子を一度見下ろし、背に負った娘を振り返る。長い間さまよい続けたせいで、娘の頰は、かつてのふっくらとした丸みを失い、影を帯びている。

危険はいくつも襲いかかった。奇跡的に生き延びては来たものの、心は擦り切れ、息をつく間もない。

目の前の重水町安全区は、一見したところ整然としており、治安も悪くなさそうだ。数日は腰を落ち着け、次の目的地へと体力を取り戻せるだろう――そう、思いたかった。

噂によれば、ここから安全区をふたつ越えれば、終末世界前の京城にあたる国内最大の安全区に辿り着く。人口一千万。終末後の規定では五百万を超えた安全区のみが「城」を名乗れるという。

京城安全区は幾度も協議を重ね、「金城」と命名された。

そこは終末世界前の権力体系をほぼ維持し、最速で秩序を回復させた。だからこそ末世初期の混乱の中、生き残った人間が桁違いに多い。最も困難な時期を乗り越えられたのだ。

京城安全区から派遣された傭兵部隊が、大勢の市民を最寄りの安全区まで護送してくれた。

栄閑仙も、その護送ルートに紛れ込みながら金城へと移動していた。

郷愁と不安がないまぜになり、胸の鼓動が早くなる。何か得体の知れない出来事が、もうすぐ起こるのではないか――そんなざわめきが静かに栄閑仙の体内で鳴った。

思索に沈んでいるうちに、長い列は案外すばやく進み、栄閑仙たちの番が来た。

さまざまの安全区を転々としてきた彼女にとって、入域の手続きは慣れたものだ。だが重水町の書式には見慣れぬ欄があった。霊獣の有無、修練法の有無と等級、個人の修行状況。

袖に隠した薄い紙片が、ひたりと肌に触れる。偶然手に入れた、命綱とも呼べる秘伝。逡巡は一瞬だけ。筆先は静かに、その修練法と霊獣の有無の欄に「無」の字を記す。

所持金などとうに底をつき、彼女が向かったのは、安全区が無料で提供するテント区だ。

広大な空き地には粗末なテントが隙間なく張られ、土埃と臭気がよどむ。無感情な視線があちこちに浮遊し、空気はねっとりと重い。

遠くに見える赤煉瓦の家並みと青石造りの小楼――整然と並ぶそれを見遣り、栄閑仙はほんの一瞬、心を攫われる。

修練法を差し出せば、あの安全区の中で安全に暮らせるのかもしれない……

「ママ」幼い声に思考を遮られ、二人の子供に目を向ける。「だめ」——その考えを心の中で否定した。ここまでの道のりで、修練法がいかに希少で重要かを思い知った。今の母子3人は弱く、等価の報酬など望めないだろう。

せめてあと一月。金城へ着くまでは守り抜く。そこでこそ、真の価値を見極められるはずだ。

テント区は荒れていても、黒い制服の巡回者が秩序だけは保っている。支給された小さなテントを張り終えると、三人にはぎりぎりの寝場所が確保できた。

栄閑仙背嚢を開き、採取してきた朱い木の実と、正体不明の卵を数個。

それが今夜の全てである。

栄閑仙は娘に弟を頼み、自分は短い時間を修練に宛てる。ここが安全区に見えても、警戒を解くわけにはいかない。野には獣、人の中にも獣はいる。

薄布一枚のテントは、外の視線を完全には遮れない。眠れぬ夜は、今日も続く。

半年前、栄閑仙はようやく霊気を体内に取り込めるようになっていたが、それ以降、霊気の成長は遅々として進まず、感覚が少し鋭くなり、四肢にわずかな力が宿った程度。

日々の逃避行で修練の暇はなく、野宿の日々では食事にありつくことさえ難しい。

そこまで思い至り、栄閑仙はあの日の選択を、またしてもかみしめた。あのとき、寧青雲に救われると信じて受け身でいなければ、きっと違う現在があったのではないか。

「お嬢様、情報班が戻りました」麗らかな灯りの下、短髪の女が緻密な旗袍を纏う長身の女へと恭しく報告した。

窓辺のバーカウンターでは、黒と白の大理石が夜気を照り返す。その前で、長い黒髪の女が赤ワインを傾けている。眉目は端正、真紅の唇が艶めく。

来訪者の言葉を聞いて、わずかに振り返った。

「ふうん。連中、どこまで来たの」気怠げに、しかし瞳だけが鋭く動く。

「現在は重水町安全区に」

「青竜小隊は?」

「間もなく合流します。ただ、夜白はこちらの関与が露呈し、拘束されました。もっとも、お嬢様があらかじめ夜白に寧傾凝を接触させておいたおかげで、尻尾は掴ませておりません。青竜小隊が戻り次第、寧傾凝を告発するはずです。寧会長がどう反応するか、楽しみで」短髪の女性は災いを喜ぶような表情を浮かべた。

「証拠は確保してある?」

「ええ、夜白の手中に。寧傾凝には逃げ場がありません」

「よろしい。それで、あの女は?」

「用心深く、腕も立つ様子で。何度か仕掛けるも躱され、とうとう政府隊の車列に紛れ込まれました。公式の護送車では流石に手が出せませんが、重水町には我々の息がかかった者も多い。まさに虎の口へ飛び込んだようなものです」

「寧家の随行は?」

「以前一名おりましたが、既に死亡。今は同行者ゼロです」

「今回で決めるわ。ふふ、長引くのは面倒だもの。私自身が動くわ」

「お嬢様、それは――我々の実力は悪くありませんが、野外の危険は計り知れません。どうかご再考を」短髪の女性は反対した。

「大げさね」女は艶やかに笑む。「潭市で受け取る物資があるの。本人確認が必要で、私が行くしかないわけ。ついでに例の女とやら、どれほどのものか見物するだけよ」

ぐらりと、炎の匂いが鼻腔を刺し、栄閑仙は跳ね起きた。外はまだ薄闇。やはり来たか。

目前に立つ男女。男は寧青雲の秘書だった雲山。女は、どこかで見た顔。

雲山は無表情のままで栄閑仙を一見、隣の女へ声を投げる。「龔さん、なぜ起こす必要が。社長は、静かに逝かせろと言っていました」

「青雲と夫婦だった情け、せめて事実を教えてあげたいじゃない?」女は微笑む。

「奥様」雲山は栄閑仙に目を戻す。「社長がオフィスに飾っている肖像画の女性、それが龔さんです。おわかりでしょう。お二人は幼い頃からの許嫁。龔さんが海外に行かれましたことで誤解が生じ、社長は家の縁談から逃げるためにあなたと結婚しました。今、寧家と龔家は正式に婚姻を結ぶ。――あなたは、邪魔なのです」

四方の壁に火が回り、子どもたちは煙にむせて意識を失いかけている。雲山は霧状の液体が入ったスプレーを取り出した。「これで痛みなく逝けます」

冷たい霧が肌を覆い、瞼が重く沈む。それでも、憎しみが胸を灼く。栄閑仙が必死に這い寄りながら、子どもたちへ手を伸ばした。

「気前がいいね。口は塞いでるんだし、麻酔はいらないだろうに」

「念のためだ。これが最後の機会かもしれん。以前の事故はことごとく逃げられたからな」それが耳に聞こえた最後の会話だ。

どれほど眠ったのか。ほう、と息を呑み、栄閑仙は闇の天井を見つめた。水晶のシャンデリアがかすかに輪郭を光らせる。跳ね起きて両脇を確かめる。左の小さなベッドでは息子が、右の子ども用ベッドでは娘がぐうぐうと安らかな寝息。夢か? いや、あれほど鮮烈な悪夢が、ただの幻影で済むはずが――

「ドォン!」と、爆音が夜気を裂く。栄閑仙は窓辺に駆け寄り、カーテンを捲ると、漆黒の空を無数の光点が走った。星屑が滝のように降り注ぎ、地平へと燃え落ちていく。

星落の夜。霊気の奔流。それは世界が変わる兆し――終末世界の始まりへ、彼女は戻ってきた。


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