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章 8: 私を仕組んだ人

編集者: Inschain-JA

流産してからというもの、畑中家の彼女に対する態度は日ごとに冷え込んでいった。大学進学の道を閉ざされ、さらに子を失った瑠那は、最初の二年間、ほとんど口を閉ざしがちで、姑からの当たりも強かった。

今さら小林由美にその過去を蒸し返され、全身が針で刺されるような痛みに襲われる。

畑中颯太は幾度となく彼女に言った――「自分がなぜ畑中家に入ったのか忘れるな」と。死んでしまったあの子がいなければ、彼女がこの家に足を踏み入れることは決してなかったのだ。

顔は蒼白に染まり、当時の記憶が甦るたび、由美と顔を合わせることすら苦痛だった。

見るだけで思い出してしまう――あの屈辱の夜を。

由美は昔から「良家に嫁ぐ」ことを夢見ていた。だが、瑠那にはそんな願望はなかった。ただ静かに大学生活を送りたかっただけ。未来を夢見ていたはずが、あの夜を境に人生は粉々に壊れた。

「仕組んだのがあなたじゃないなら、あなたを責める理由はないわ」

瑠那の声は平板で、この件について深く語る気はなさそうだった。

由美の瞳に怨念が一瞬浮かんだが、すぐに笑みを繕って口を開く。「お金はすぐ振り込むわ。でも瑠那、一つだけ約束してほしいの」

瞳孔がわずかに縮み、瑠那は心の底で冷笑した。――やっぱり条件付きか。

祖母に育てられた十数年、その恩に報いるのは当然のはずなのに、今となっては取引材料にされる。

「颯太の心にずっと私がいること、分かってるでしょ?だから離婚したこの機会に、寧崎市を離れてちょうだい。お祖母さまの手術は私が手配するし、まとまったお金も渡す。寧崎は、あなたにとって傷しか残さない場所なのよ」

瑠那は、あの出来事の責任を由美に問うつもりはなかった。結局、自分の意思で助けに行ったのだから。だが、目の前の女の顔を見るたび、心が冷え込む。――だってこの人こそ、夫が五年間思い続けてきた最愛なのだから。

「手術が終わったら……寧崎を出るわ」

結局、瑠那は折れた。

「良かった」

由美は満足げに通話を切り、唇の端をわずかに吊り上げる。振り返ると、背後に一人の男が立っていた。いつからそこにいたのか分からない。

「由美……」

畑中颯太の瞳は切なさに濡れている。近づきたいのに、立場がそれを許さず、足を止めたまま身を固くしている。

「颯太……」由美は儚げに微笑み、声を震わせた。

涙に濡れた美しい姿が、颯太の理性を揺さぶる。だがここは畑中家の本邸。欲望を押し殺すしかなかった。

「颯太と瑠那がうまくいかないのは……私のせいよね。ごめんなさい。あなたがそこまで思い詰めているなんて知らなかった。でも見ての通り、私はもう結婚して、幸せに暮らしているの」

胸が軋み、息すら苦しい。颯太は瑠那と形式的に結ばれただけで、彼女に触れたことは一度きり。それ以降は一切触れなかった。目の前のこの女のために、身を清めてきた――今思えば、なんと愚かしい。

「由美……君を愛せるだけでいいんだ。返してくれなくても」

ゆっくりと歩み寄り、彼女の傍らに立つ。顔はあの頃のまま、美しく、蕾がほころぶように華やかだった。

由美は感極まったように見せかけながら、瞳の奥でわずかに勝ち誇った色を浮かべ、それをすぐに消した。

「さっき彰から呼ばれたの。渉の件らしいわ。だから行かなくちゃ」

そう告げて去ろうとする由美の手首を、颯太はどうしても放せなかった。


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