私は空中に浮かび、無言のままのお母さんと妹を見ていた。
お母さんはもう昔のように歌を歌い、顔に笑みを浮かべることもなくなった。
妹ももう以前のように食卓で学校のことをぺちゃくちゃと話さなくなった。
すべての変化は私が篠原健司の愛人になったことから始まったようだ。
あの出来事以来、健司はしょっちゅう私を探しに来るようになった。
彼はいつも様々な口実を設けて、私を外に連れ出しては犯した。
深い絶望を感じたが、誰にも打ち明けられなかった。
毎日とても怖かった。彼が妹に手を出すのではないかと。
私は狂ったように健司を警戒し、精神状態も問題があるように思えた。
私はお母さんにほのめかしたことがある。健司はいい人間じゃないと。
だが怒ったお母さんに遮られた。
「詩織。どうしてそんなこと篠原おじさんについて言えるの」
「あのとき篠原おじさんが私たち母子三人を助けてくれなかったら、とっくに路頭に迷っていたのよ」
「もうそんなこと言うんじゃないよ。言うなら家から出ていきなさい」
傍らにいた妹も怒った様子で私を見ていた。彼女はずっと健司のことを自分にとても優しいおじさんだと思っていた。
「お姉ちゃんは篠原おじさんのことをそんな風に言っちゃダメ。おじさんはいつもお菓子をくれるし、いい人だよ」
実は私にはわかっていた。お母さんも妹も信じてくれないだろうと。
また、もしあの日の経験を話せたら、お母さんはきっと警察に通報して私を守ってくれるだろうということも。
でも私は怖くて、賭けられなかった。
やっと父の死の苦しみから抜け出したお母さんが再び苦難に陥るのが怖かった。
純粋な妹があの悪魔に傷つけられるのが怖かった。
だから、耐えることを選んだ。
すでに幽霊になった私はまだ当時の絶望と無力感を感じることができるようだ。
休日に、お母さんは健司と彼の妻である鈴木宏美を家に夕食に招いた。
私は台所でお母さんの料理を手伝い、料理を運んでいくと、ちょうど健司が妹を膝の上に座らせているのを見た。
「ああ、見てよ、咲良ちゃんはほんとに可愛いね。おじさんにチューさせてくれるかな」
妹は健司の膝の上でくすくす笑い、とても楽しそうだった。
私は料理を持って台所のドアに立ち、健司は私に気づいた。
彼は皆に背を向け、妹の頬にキスをした。その濁った目で私を見ながら、目には悪意の光がすべて詰まっていた。
一瞬、私は氷の穴に落ちたかのように感じた。
よくもそんなことを!よくも妹にそんなことができる!
私は飛びかかって妹を抱き上げ、健司から遠ざけた。
そして健司の顔を平手打ちした。
「この野郎、私の妹に触れるな」
居間に座っていた宏美は飛び上がった。
「正気かあんた、この小娘。誰があんたの妹に何かしたって?」
お母さんは慌てて台所から駆けつけ、何も言わずに私を平手打ちした。
「詩織、頭がおかしいの?どうして篠原おじさんを殴るの。出ていきなさい」
「早く篠原おじさんに謝りなさい。恩知らずの馬鹿娘」
妹は傍らで怯えて大泣きし、泣きながら私を罵った。
「お姉ちゃん、どうして篠原おじさんを叩くの?お姉ちゃんが悪い人だよ」
宏美もまだ傍らで私のことを散々に悪く言い、恩知らずだと叫んでいた。
しかし健司は寛大に大丈夫だと言った。
「いやいや、大丈夫ですよ。たぶん俺が咲良ちゃんを可愛いと思ってキスしたから、詩織が気に入らなかったんだろう」
「大丈夫、子供だからね、みんなそうさ。詩織ちゃん、おじさんが謝るよ。もう怒らないで」
健司の善人ぶりを見て、私は吐き気がしそうになったが、お母さんは彼に感謝の言葉を述べていた。
私はお母さんに健司の正体を伝えたかった。真実を話したかったが、言葉は喉に詰まって出てこなかった。
お母さんは居間でその悪魔に何度も謝り、彼は大丈夫だと言っていたが、誰もいない角度から彼の目に明らかな悪意を見た。
彼は私に向かって無言で言った:
「お前の妹の写真」
その瞬間、私はこの人渣を始末しなければならないと悟った。
前回の夕食の件以来、健司はもう我が家に来なくなった。
お母さんと妹はとても怒り、数日間私と口を利かなかった。
「詩織、お前は本当に畜生だ。篠原社長は私たちにこれほどの恩があるのに、感謝するどころか人を殴るなんて、お前は...お前は恩知らずだ」
「言っておくけど、もう一度こんなことがあったら家から出て行きなさい。外で死ぬといい」
私はこの罵声を飲み込んで、少し我慢すれば良いと思っていた。
しかし思いもよらなかったのは、宏美が学校にまで押しかけてきて、私が彼女の夫である健司を誘惑したと言い出したことだった。