「えっ?」私は少し驚いた。「この顧客って……」
「少し気難しいところはありますが、あなたにとっては素晴らしい成長の機会よ」純子は顧客の資料を私の手に押し込みながら、まるで良き指導者のような表情を浮かべていた。「若い人は、たくさんの挑戦を受け入れることで成長するものでしょう?」
私の前に、同じように才能ある新人デザイナーが純子にこんな風に「育成」されたことがあった。彼女は最も扱いにくい顧客をすべて担当させられ、散々苦しめられた末、心身ともに疲れ果てて辞職してしまったのだ。
それは去年の出来事だった。まさか、こんなに早く私の番が来るとは思わなかった。
胸の内は言い尽くせないほど辛かったが、副社長たちの視線の中で、純子の期待に満ちた笑顔の前で、選択肢はなかった。渋々受け入れるしかなかった。
「絵麻、CEOも幹部全員もあなたを見ているわよ。しっかり頑張りなさいね」
私が覚悟を決めてこの仕事を引き受けようとした、まさにその時だった。
一本の手が伸びてきて、私の手から資料を取り上げた。「この顧客は彼女には向いていない」
暁だった。
純子は驚いて瞬きをし、すぐに笑顔を作った。「あら、暁さん、いらしたのね!確かにこの顧客は要求が厳しいけど、絵麻さんにはいい挑戦になると思って」
だが暁は真剣な表情で彼女を見つめた。「彼女の強みはクリエイティビティであって、扱いにくい顧客への対応ではない。この顧客はカスタマーサービス部に回しなさい」
周囲の人々は視線を交わし合った。誰もCEOとデザイン部長の対立に巻き込まれたくなかった。
純子はためらいながら、少しでも面目を保とうとした。「無理強いはしていないわ。彼女自身が挑戦したいと言ったのよ」
皆、実際はどういうことか分かっていたが、暁は公の場でそれを明かそうとはしなかった。ただ意味深な視線を彼女に向けただけだった。「今回限りにしておきなさい」
純子の笑顔が凍りついた。彼女が何か言おうとした時、暁はすでに私の手首を引いて立ち去っていた。
暁が現れた瞬間、私は不味いことになると悟った。彼に手を引かれて歩いている時、本能的に振り解こうとしたが、少し迷った末、彼についていくことにした。
彼は私を空いている会議室に連れて行き、ドアを閉めると、沈黙に陥った。