間違っていたのは彼女ではなかった。
秋山彰の顔に薄い怒りと濃厚な失望と嫌悪の色が浮かんだ。
「間違ったことをしておいて、よくそんな態度がとれるな。美咲、お前は本当に反省というものを知らないのか」
中村美咲は全身を震わせ、両目から急に色が失せた。
彼の言葉は、遠くなったり近くなったりした。
彼女の耳には別の言葉に変わって聞こえた。
「お前は詩織を死なせておいて、こんなにも平然とこの世界で生きている。美咲、お前には罪悪感も後悔もないのか?どうして平気でいられるんだ?」
恍惚の中、美咲は胸を刃物で貫かれたような痛みが全身に広がるのを感じた。
まるで死人のように、体は冷たく、動くことができなかった。
涙で目が曇り、目の前の二人の姿がはっきり見えない中、美咲は無意識に唇を震わせながら言った。「ごめんなさい」
突然の謝罪に須藤里奈は驚いた。
顔色の青ざめた美咲を見て、それから彰を一瞥し、躊躇いながら小さな声で答えた。「大丈夫ですよ、お姉さん。気にしていませんから」
しかし、美咲には聞こえていなかった。
里奈は「あっ」と声を上げ、彼女の膝を指差して叫んだ。「お姉さん、足から血が出てます!」
美咲は急に我に返り、怪我を見下ろした。
両方の膝が擦りむけており、右側の方がより深刻で、肉が露出し、鮮血が細い脚を伝って流れていた。
「彰兄さん、お姉さんは足を怪我してるから、とても不便だと思います。先に送ったらどうですか?私たちは後で会ってもいいですし」と里奈が提案した。
「……」
美咲は唇を引き締め、真っ白な顔に無言の拒絶を映し出した。
里奈は彰の腕を揺すり、甘えるように懇願した。「彰兄さん、先にお姉さんを送ってあげてくださいよ、お願いします〜」
女の声が耳障りで、美咲の顔は冷たさに覆われた。
「結構です」
甘えた声が突然止んだ。
美咲は無表情で言った。「あなたたちは行ってください。私のことは気にしないで」
「……」
彰の手がゆっくりと締まり、怒りは退いて、触れることのできない冷たさだけが残った。
彼は目の前の惨めな女を見つめた。彼女のわざと伸ばした背筋は、その強情さと不屈の精神を示していた。
彰は薄い唇を引き、冷ややかに皮肉った。「さすがはお前だな、美咲。その気前の良さには感謝するよ」
美咲の作り笑顔が急に硬直した。
男は目を伏せ、彼女を見ることをやめ、優しい声で隣の女性に言った。「行こう」
「でもお姉さんが……」
彰は足を止め、唇の端に深い皮肉を浮かべた。「秋山奥様は気が利いて思いやりがあるから、こんな小さなことは気にしない」
最後の二文字は、彼は特に強く噛んだ。
里奈は目的を達成し、表情には残念そうな様子を浮かべたが、声色は喜びと得意を隠しきれていなかった。
「ごめんなさいね、お姉さん。彰兄さんがこうなると私にも手がありません。それじゃ、先に行きます」
二人は彼女を避けて車に乗り、去っていった。
美咲は胸に手を当てた。そこは空っぽで、冷たい風が吹き抜け、痛みはなくとも、息苦しく感じた。
予兆なく涙がこぼれ落ちた。
彼女は慌てて、顔を乱暴に拭き取り、やっと足を引きずりながら道端に行き、タクシーを拾おうとした。
しかし、長い時間待っても、空車は一台も来なかった。
美咲は苦々しく微笑み、喪失感と無力感が徐々に彼女の心を蝕んでいった。
まるで世界全体が彼女を見捨てたかのようだった。
彼女は交差点に長い間立ち、最後には諦めて、両足を引きずりながら住まいの方へ歩き始めた。
しかし、少し歩いたところで、一台の車が彼女の横に停まった。
美咲は疑問に思い、足を止めた。
窓が下がり、神のような容貌の男性が目に入った。
彰の口調は相変わらず冷たく、言葉はまるで命令のようだった。
「乗れ」
美咲は彼がなぜ戻ってきたのか分からなかったし、彼の行動に関心を持つ余裕もなかった。結局のところ、十数分前に彼は別の女性が彼女をいじめるのを冷たい目で見ていたのだから。
彼女は息を止め、言った。「須藤さんと一緒にいてください。あなたたちの施しなんていりません」