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15.38% 補聴器を踏み砕かれ、全てを失った私 / Chapter 4: 第4話:絶望の底で

章 4: 第4話:絶望の底で

第4話:絶望の底で

雫の世界が、完全に崩壊した。

踏み砕かれた補聴器の破片が、床に散らばっている。十万円で購入した、彼女にとって唯一の音との繋がりが、無残に破壊されていた。

見上げると、蓮が冷たい目で見下ろしていた。

「もういい、雫、何をしているんだ?同情を引こうとしているのか?俺が心配すると思っているのか?言っとくけど、手術室から出て、その手紙を見た時から、俺はお前を憎んでいる。殺したいくらいだ!心配するなんてこと、絶対にない!」

蓮の口が激しく動いているのが見えた。憎悪に満ちた表情から、罵倒の言葉を浴びせられているのは明らかだった。しかし雫には、一言も聞こえない。

彼は雫の腕を掴み、激しく地面に投げつけた。顔に浮かんだ憎しみは恐ろしいものだった。

雫は床に倒れ込み、涙が止まらなくなった。音のない世界で、ただ涙だけが頬を伝っていく。

蓮は綾香の手を取り、部屋を出て行った。残されたのは、血を流し、補聴器の破片に囲まれた雫だけだった。

マネージャーが何かを叫んでいるが、もう何も聞こえない。

雫は震える手で補聴器の破片を拾い集めた。しかし、もう修理は不可能だった。

――――

三日後、雫は狭く暗いアパートの一室にいた。

窓もなく、湿気がひどい部屋。以前のアパートから引っ越さざるを得なかった。家賃を滞納し、ホテルの仕事も失った今、これが精一杯だった。

わずかなチップで購入した安物の補聴器を装着している。音質は悪く、雑音が多いが、それでも無音の世界よりはましだった。

ドアがノックされた。

「雫?いる?」

相沢(あいざわ)由美(ゆみ)の声だった。雫は重い体を起こし、ドアを開ける。

「由美……」

「ひどい顔してるじゃない」由美が心配そうに眉をひそめた。「何があったの?」

雫は黙って由美を部屋に招き入れた。

「この部屋……」由美が絶句した。「雫、まさかここに住んでるの?」

「家賃が安いから」

「バカ!こんなところに住んだら体を壊すわよ」

由美はバッグからキャッシュカードを取り出した。

「これ、私の貯金と親からもらったお金。二百万円入ってる」

雫の目が見開かれた。

「受け取れない」

「私たちは友達でしょ。受け取らないと怒るよ」由美が強引にカードを雫の手に握らせた。「それと、いい仕事があるの」

「仕事?」

「『アンブロシア』ホテルでダンスができる女の子が必要なんだ。でも、衣装はちょっと露出が多いけど」

雫の心臓が早鐘を打った。二百万円があっても、手術費にはまだ三百万円足りない。

「行きたい」

即答だった。

「雫……」

「お金を稼いで、耳を治すためには、何でもしなければならない」

雫の目に、悲壮な決意が宿っていた。

――――

『アンブロシア』ホテルの更衣室で、雫は鏡を見つめていた。

バニーガールのコスチュームに身を包んだ自分の姿が、そこにあった。濃い化粧をした顔は、普段の清純な彼女とはまったく違っている。

「新人ね」隣の女性が挑発的に言った。「客に気に入られるといいわね」

雫は無視した。プライドなど、もうどうでもよかった。

野口(のぐち)マネジャーが手を叩いた。

「さあ、行くわよ。今夜は特別なパーティーよ」

雫たちは廊下を歩き、大きな個室の前で止まった。中から若い男性たちの笑い声が聞こえてくる。

ドアが開かれ、雫たちが部屋に入った。

豪華な内装の個室には、既に多くの若者がいた。皆、高級スーツに身を包んだ富裕層の息子たちのようだった。

「おお、来たな!」誰かが歓声を上げた。

雫は視線を下に向けたまま、部屋の隅に立った。

「でも、俺たちの特別ゲストがまだ来てないよ!」

その時だった。

部屋のドアが、再び開いた。


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