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26.92% 補聴器を踏み砕かれ、全てを失った私 / Chapter 7: 第7話:血の代償

章 7: 第7話:血の代償

第7話:血の代償

「ダーツの的?」

雫の声が震えた。蓮の言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。

「そうだ」蓮が立ち上がり、壁際のダーツボードを指差した。「あそこに立て。俺がダーツを投げる。一発ごとに二十万円だ」

綾香が手を叩いて笑った。

「面白そう!やってみなさいよ」

周囲の客たちも興味深そうに身を乗り出した。誰も止めようとしない。むしろ、娯楽として楽しんでいる。

雫は立ち上がり、ダーツボードの前に歩いた。

「月城さんはお金さえくれれば、それでいい」

感情のない声で呟く。額から流れる血を拭おうともしない。

蓮の顔が歪んだ。雫の金銭への執着が、彼の怒りをさらに煽る。

「壁に背中をつけろ」

雫は言われた通り、壁に背中をつけて立った。ダーツボードの真下で、完全に無防備な状態だった。

蓮がダーツを手に取った。

「百倍返しだ」蓮が呟いた。「お前が俺を傷つけた分、百倍にして返してやる」

最初のダーツが放たれた。

シュッ!

雫の頬をかすめ、壁に突き刺さる。頬に一筋の血が流れた。

「一発目、二十万円」蓮が冷たく言った。

雫は微動だにしなかった。痛みを感じているはずなのに、表情一つ変えない。

二発目。

今度は雫の肩をかすめた。衣装が裂け、肌に赤い線が走る。

「四十万円」

三発目は耳元を通り過ぎた。雫の髪が数本切れて、床に落ちる。

「六十万円」

観客たちが歓声を上げた。まるでサーカスでも見ているかのように、手を叩いて楽しんでいる。

蓮は四発目のダーツを構えた。今度は雫の心臓を狙っている。

「次は外さない」蓮の目に狂気が宿った。「心臓に向けて投げる」

雫の体が硬直した。しかし、それでも壁から離れようとしない。

蓮の腕が振り上げられた——

「正気か!」

突然、部屋のドアが勢いよく開かれた。

由美が駆け込んできた。雫の顔の傷を見て、顔色を変える。

「月城!」由美が蓮を睨みつけた。「何をしている!」

蓮の手が止まった。

「雫の友人か」

「そうよ!」由美が雫の前に立ちはだかった。「雫がお金のためにこんな仕打ちに耐えてるって聞いて、飛んできたの」

由美の目に涙が浮かんだ。

「月城、あんたは本当に知らないの?」由美が叫んだ。「五年前、雫は無理矢理別れさせられたのよ!あんたの母親がいなければ——」

「やめて!」

雫が必死に叫んだ。由美の言葉を遮ろうと、彼女の腕を掴む。

「何も言わないで!」

蓮の目が鋭くなった。

「お前は何か隠しているのか!」

雫は首を振った。

「何も隠していません」雫が立ち上がった。「約束の四百万円をください。そうすれば、二度とあなたの前には現れません」

蓮は冷笑した。

「やっぱり、お前は金しか目に入ってない」

ポケットから小切手を取り出し、雫の足元に投げつけた。

「四百万円だ。持って失せろ」

雫は小切手を拾い上げた。振り返ることなく、部屋を出て行く。

蓮は再び得体の知れない怒りを感じていた。綾香が彼の腕に寄り添う。

「雫のことが忘れられないの?」

「あいつはこの世で一番嫌いな人間だ」蓮が吐き捨てた。

しかし内心では、復讐心が燃え上がっていた。

「お前が二千万円のために俺を捨てたことが、どれだけ愚かな決断だったか思い知らせてやる」

——————

雫のアパートで、由美が傷の手当てをしていた。

「なぜ真実を言わないの?」由美が涙を流した。「あなたが蓮の病気を治すために貯金を使い果たしたこと、なぜ黙ってるの?」

雫は静かに答えた。

「もう彼に迷惑をかけたくない」

「明日、耳の治療のために出発する」雫が続けた。「耳が聞こえなくなりたくない」

これまで堪えていた涙が、ついに溢れ出した。声を上げて泣く雫を、由美は抱きしめた。

——————

翌朝。

雫は小切手を現金化し、空港へ向かった。

出発ゲート前で、彼女は首にかけていたネックレスを外した。五年前、蓮がくれたものだった。

ネックレスをゴミ箱に投げ入れる。

「さよなら、蓮」

スーツケースを引きながら、後ろを振り向くことなく出発ゲートに入って行く。

しかし雫は知らなかった。

空港の向こう側で、蓮が彼女の姿を見つめていることを——


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