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26.31% 許した夫に、奈落へ落とされた / Chapter 5: 第5話:決別の準備

章 5: 第5話:決別の準備

第5話:決別の準備

[竜ヶ崎詩の視点]

「隣の住宅街にある空き家、刹那さんに使ってもらったらどう?」

リビングで朝食の海鮮粥を前にして、私は蓮にそう提案した。

蓮の箸が止まる。

「え?」

「私名義の家よ。空いてるし、リフォーム中なら丁度いいでしょう」

あっさりとした口調で言う。本当に、どうでもよかった。

蓮は困惑したような表情を浮かべた。

「詩、お前……」

「海鮮粥、いらない」

蓮が作った粥を押しやる。

「体調が悪いのか?」

「別に」

立ち上がって、リビングを出ようとする。

「詩」

振り返ると、蓮が不安そうな顔をしていた。

でも、もう遅い。

----

蓮は妻の変化に戸惑いを隠せずにいた。いつもなら、刹那の話題になると詩は不機嫌になるのに、今日は違った。

まるで、何もかもがどうでもいいような。

「奥様、お疲れのようですね」

家政婦が心配そうに声をかけてきた。

「そうだな……最近、様子がおかしい」

蓮は首を振った。妊娠のせいだろうか。でも、何かが違う。

「旦那様と刹那様、隣のお家に行かれましたよ」

家政婦の報告に、蓮は頷いた。

----

[竜ヶ崎詩の視点]

家政婦から二人が隣家に行ったと聞いた夕方、蓮から電話がかかってきた。

「詩、今日は帰らない」

「そう」

「刹那が暗いのを怖がるから、付き添ってやる」

妻の誕生日前夜に。

「明日はお前の誕生日だろ?必ず帰るから」

電話が切れた。

静寂が部屋を支配する。

私は脚立を持ち出して、壁に向かった。

子供の写真。赤ちゃんのイラスト。妊娠を願って飾った全てのものを、一枚ずつ剥がしていく。

ビリビリと音を立てて破れる紙。

ゴミ袋に詰め込む。

「奥様……」

家政婦が心配そうに見ている。

「もう、いいの」

静かに言った。

本当に、もういい。

翌日の午後、神楽坂(かぐらざか)先生が来た。

竜ヶ崎家の顧問弁護士。

「離婚協議書の件で」

「はい」

応接室で向かい合う。

「財産分与についてですが」

「何もいりません」

きっぱりと答えた。

「本当によろしいのですか?相当な額になりますが」

「はい。何もいりません」

神楽坂先生が書類をまとめ始めた時、玄関の音が響いた。

蓮が帰ってきた。

「神楽坂先生?なぜここに?」

蓮が応接室に入ってくる。

「大したことじゃないわ」

私は立ち上がった。

「刹那さんは?」

「ああ、映画を見てるよ。ホラー映画なんだ。怖がりなくせに、なぜか見たがるんだよな」

蓮は楽しそうに笑った。

刹那の話をするとき、彼は本当に嬉しそうに笑っていた。あんな笑顔、最後に私に向けて見せたのは、妊娠を伝えたあの日。それ以来、一度も向けられたことがなかった。

「明日、誕生日プレゼント買いに行こうか」

蓮が私に向かって言った。

でも、もう遅い。

神楽坂先生が帰った後、私は蓮を見つめた。

「蓮、明日私たちは——」

その時、蓮の携帯が鳴った。

「刹那からだ。ちょっと待ってくれ」

電話に出る蓮。

「どうした?映画、怖かった?」

優しい声。

私には決して向けられない、優しさ。

電話を切った蓮が振り返る。

「詩、何か言いかけてたな?」

私は微笑んだ。

「何でもないわ。お疲れさま」

蓮は安堵したような表情を浮かべた。

でも、彼は知らない。

明日、全てが変わることを。


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