章 11: 第11章 ゲームでもしよう
二時間が過ぎ、宮崎葵は顔を赤らめながら急いで削除ボタンを押した後、ため息をついた。
「夜長夢多を避けるため、今週末には手術を予約しなければ」
彼女は小さなベッドに横たわり、あちこち寝返りを打ち、何かが足りないと感じて眠れなかった。
「おじいさんは今夜はまだメッセージをくれないのかな？」
葵はようやく思い出した。ここ数日、森田輝「おじいさん」は毎晩「おやすみ」と一言送ってきていた。
数日で、彼女はすっかりそれに慣れてしまっていた。
葵は携帯を手に取り、WeChatでメッセージを送った。
青木遥：明日は何を食べる？
森田輝：食べる気がしない。腹が立って満腹だ。
青木遥：まだ怒ってるの？
葵は覚えていた。今日の昼食時、おじいさんはひどく不機嫌で、孫にまた怒らせられたと言っており、まだ怒りが収まっていないようだった。
お年寄りがよく怒るのは良くない、特におじいさんは高血圧、高血糖、高脂血症の三高患者なのだ。
青木遥：ゲームでもしませんか？
森田輝：いいとも。
仕事から帰ったばかりの高橋健太は好奇心をそそられた。
おやまあ、病院に入院したお爺さんがゲームまでするようになったとは。
葵は考えた。おじいさんは年を取っているから、普通のゲームは反応が遅すぎてできないだろう。
よく考えると、お年寄りに適したゲームが一つあった。
青木遥：漢字当てゲームをしましょう。「口」一つ。
森田輝：口。
青木遥：「口」二つ。
森田輝：吕。
青木遥：「口」三つ。
森田輝：品。
青木遥：「口」四つ。
森田輝：田。
青木遥：「口」五つ。
森田輝：……
森田輝：もう寝るよ。
青木遥：おやすみなさい。
高橋健太は「地下鉄のお年寄りがスマホを見る」といった表情を浮かべた。なんてくだらないゲームだ。祖父が遊びたいと言わなければ、即ブロックして削除していただろう。
「おやすみ」という言葉を見た時、彼の心は温かくなった。入院中でも、祖父は彼のことを気にかけてくれていて、気分がずっと良くなった。
おじいさんにおやすみを言った後、葵はぐっすりと眠った。
翌朝、彼女は斎藤霞からのメッセージを受け取った。手術の時間が日曜日の午前中に設定されたという。
今日は金曜日で、あと二日で彼女はこの子を下ろすことができる。
このことで、葵は午前中ずっと気分が優れなかった。
正午になり、またおじいさんと一緒に食事をする時間になった。葵は弁当を持っておじいさんを探しに行った。
一時まで待ったが、ここ数日早めに来ていたおじいさんが現れなかった。
葵は携帯を見たが、彼女が送った「食事の時間です」と昼食の写真に対する返事はまだなかった。
葵は少し心配になり、おじいさんを探すことにした。
ただ、彼女はおじいさんの名前も聞いていなかったし、どの病棟にいるのかも分からなかった。
葵は病院の庭園を通り抜けると、おじいさんが地面に横たわっているのを見つけた。
彼女はびっくりして、すぐに駆け寄り、おじいさんを助け起こした。
「おじいさん、転んだんですか？」
「大丈夫だよ、年を取ると、歩くのがおぼつかなくなってね、ちょっと転んだだけだ」
おじいさんはそう言いながら、急いでお尻の下に敷いていた芸能雑誌をポケットに押し込んだ。小さな看護師に、あの不届き者の孫のスキャンダル記事を見られるわけにはいかない。
お昼頃、高橋様はいつものように早めに外に出て食事を待っていた。
ちょうどナースステーションで数人の看護師が芸能雑誌を見ており、「高橋氏の若社長がまたニュースのトップに」「あの女性インフルエンサーは本当に運がいいわね」などと話しているのが聞こえた。
高橋様はそれを聞いて、二人の若い看護師が食事に行った隙にその芸能雑誌を持ち去った。
それを見た高橋様は血圧が上がり、めまいがして転んでしまった。
「おじいさん、救急外来に連れて行きます。転倒は小さなことではありませんよ」
「いやいや、君に背負えるわけが…何も言わなかったことにしてくれ」
高橋様が言い終わらないうちに、葵は軽々と高橋様を背負い上げ、颯爽と歩き出した。
「おじいさん、ここで待っていてください。受付に行ってきます」
葵は救急外来の入り口に列ができているのを見て、先に高橋様に座る場所を見つけ、名前を聞いてから受付に向かった。
葵が受付を終えて戻ってくると、ちょうど彼女たちの番になり、彼女は高橋様を背負って中に入ろうとした。
「どいて」
後ろから若い女性の声が聞こえた。女性はとても若く見え、サングラスをかけ、傲慢な口調だった。
彼女は列に並んでいる他の患者を無視して、直接葵の後ろに割り込んできた。
葵が動かないのを見て、彼女はさらに葵を押した。
「番号順に並んでください。今は、このおじいさんの番です」
葵は譲らなかった。高齢者の転倒は大小様々な問題を引き起こす可能性があり、脳出血がないか確認する必要があった。
「私は妊婦よ。お腹の調子が悪いから、当然私が先でしょ」
その女性は当然のような顔をしていた。
葵は女性を見たが、彼女は少しも具合が悪そうには見えなかった。
「お嬢さん、この方はたった今転倒されたばかりで、状況は緊急です。まずは受付で順番を取ってください」
その女性は葵がナース服を着ていることに気づいた。
「あなた、この病院の看護師？患者にどう話しかけてるの？私が誰か知ってる？」
女性はそう言いながら、サングラスを外した。
葵は彼女の長い付けまつげと濃いスモーキーメイク、そして極端に高いヒールを履いていることに気づいた。
「姉さん、彼女は希子っていう有名なインフルエンサーで、オンラインで100万人のフォロワーがいるのよ」
ちょうど食事から戻ってきた宮崎由紀が、希子を認識した。
葵が背中に土や草の葉で汚れた老人を背負っているのを見て、由紀は葵が本当に馬鹿だと思った。年寄りのために、妊娠中の有名インフルエンサーを怒らせるなんて、ネット炎上は避けられないだろう。
「インフルエンサーでも順番を待つ必要があります。今は私たちの番です」
「私のお腹の子が誰の子か知ってて、そんな口のきき方ができるの？」
「誰の子供でも、順番を待たなければなりません」
「言っておくけど、私のお腹の中にいるのは高橋氏の若社長の息子、高橋家の未来の跡取りよ。賢いなら、背中のその老いぼれを連れて消えなさい」
希子は自分のお腹を指さした。
由紀はそれを聞いて、意地悪そうな顔で葵を見た。
彼女は思い出した。あの夢の中で、高橋健太は憧れの人と駆け落ちする前は、プレイボーイで、多くの女優やインフルエンサーとスキャンダルがあった。
現実はさらにひどかった。この希子はもう子供までいるのだ。
どうやら葵は今回、お金持ちに捨てられるだけでなく、継母にもなることになりそうだ。
「今なんて言った？お前のお腹の中にいるのは何だと？」
高橋様はもう我慢できなかった。
「怖くなった？老いぼれ、もし私のお腹の赤ちゃんに何かあったら、あなたもこの看護師も責任逃れはできないわよ」
インフルエンサーの希子は老人の顔色が青白くなっているのを見て、彼が怯えていると思ったのだ。
「ふん、私は全然怖くないね。私が誰か知ってるかい？私は高橋氏若社長の祖父だよ」
高橋様は、あのけばけばしい女が小さな看護師をいじめるのを見過ごせなかった。
「プッ」
インフルエンサーの希子と宮崎由紀は吹き出した。由紀は高橋様を見たことがなかった。彼女が高橋家に嫁ぐ前に、老人は脳卒中で亡くなっていたのだ。
由紀は葵が背負っているこの汚くて貧相な老人が高橋様だとは到底信じられなかった。
希子はさらに笑いを堪えられず、前後に身体を揺らした。
「笑わせるわね。あなたが高橋健太の祖父なら、私は高橋家の若奥様よ」
希子が言い終わるか終わらないかのうちに、背後から冷たい声が聞こえてきた。
「ほう？僕はいつ結婚したんだ？」
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