翌日、光男は私を昨夜話していたクルーズ船に連れて行った。
しかし、レストランに着くとすぐ、お腹の大きくなった中島美咲も入ってきた。
妊娠した美咲が一人だと見るや、光男はすぐに立ち上がって彼女を迎えた。
「妊娠6ヶ月なのに一人なの?佐藤誠一は?なぜ一緒じゃないの?」
光男の口から漏れる心配は隠しようもなかった。
私は目を伏せて自嘲した。こんなに明らかなことに、どうして気づかなかったのだろう。
光男の演技が上手すぎたのか、それとも私が本当に光男の言うように愚かだったのか?
美咲は笑顔で私の前に歩み寄り、口では光男の質問に答えながらも、視線は私に向けていた。
「最近、会社が忙しくて、亦明が急遽地方の支社に飛んだの。数日後に戻ってくるわ」
「こんなに偶然出会ったんだから、智子、私たちが一緒のテーブルでも構わないよね?」
光男の目には同意の意思が満ちていたが、それでも困ったように私を見た。
彼の表情を見なかったふりをして、私は笑いながら言った。
「今日は私と光男の結婚5周年記念日で、光男が特別に予約したレストランだから、ちょっと難しいわ」
光男の目には、私が中島美咲の髪の毛一本にも値しないことを分かっていた。でも一瞬だけでも、自分の尊厳を取り戻したかった。
案の定、私の言葉を聞いて、美咲の表情が変わった。
しかし次の瞬間、彼女はすぐに表情を取り繕い、優しい笑顔を浮かべた。
「このクルーズレストランは私のお気に入りなの。昔、このクルーズ船でプロポーズされる夢を見たことがあるのよ。光男はあなたに本当に優しいのね」
「じゃあ、ごゆっくり。私は部屋に戻るわ。ちょうどお腹の調子が悪いの」
この言葉を聞いて、私の肩が強張った。
そうか、このクルーズ船も美咲のお気に入りだったのか。
では、あの時光男が私にしたクルーズ船でのプロポーズも、美咲が好きだからなのか?
テーブルの下で両手を固く握りしめ、ほとんどすべての力を使って自制し、光男に問いかけるのをこらえた。
プロポーズした時、あなたの目に映っていたのは上野智子だったの?それとも中島美咲?
光男は私の様子がおかしいことに全く気づかず、ただ美咲が去っていく方向に急いだ視線を向けた。
「智子、ちょっと待っててくれ。美咲はお腹の調子が悪いから、先に送って行く。彼女一人では危険だ」
私が答える前に、光男はすでに焦って追いかけていた。
しばらくして、私も二人が去った方向に続いた。
案の定、レストランの外のデッキで、抱き合う二人を見つけた。
美咲の美しい目には不満が満ちていた。
「あなたは彼女のこと好きじゃないって言ったのに、どうして彼女と記念日を過ごすの?しかも私の一番好きな場所で?」
光男は溺愛する表情で、長い指で彼女の眉間のしわを伸ばした。
「君が一番好きな場所だからこそ、ここしかないんだ」
「それに、彼女の両親は俺の手で死んだんだ。彼女に優しくするのは、君のお腹の子のためでもある」
「もういい、こんな嫌なことは言うな。君が悲しむと俺も辛い」
私の耳にはもう声が聞こえなくなり、よろめきながら席に戻った。頭の中では光男の言葉が繰り返し響いていた。
嫌なこと?
私と記念日を過ごすことが嫌なことなのか、それとも私の両親の死が嫌なことなのか?
「智子、料理はまだ来てないのか?催促してくる」
私は光男の手を引き、真っ直ぐに彼の目を見つめた。
「佐藤光男、一度だけ聞くから、正直に答えて」
光男は訳が分からない様子だったが、それでも真剣に頷いた。
私はゆっくりと言葉を発した。
「私と一緒にいて、あなたは本当に幸せ?」