離婚後、国民的嫌われ者の私がバラエティで無双する
作者: 容鶯© WebNovel
章 1: 全ネット炎上タレントに転生
編集者: Pactera-novel
「このアマ……全ネットで炎上してるくせに、俺の前でまだお高くとまってるのか？ 今日、俺の言うことを聞けばちょっとは仕事回してやるよ。逆らったら……どうなるか分かってんだろうな」
「俺とやるって言ってんだ、ありがたく思えよ。分をわきまえろ」
重く響く平手打ちが、早森詩織「はやもりしおり」を昏睡から無理やり引き戻した。耳元で響くのは、下卑た色気と耳障りな響きを混ぜた男の声。
鼻先に押し寄せる、酒とタバコの臭い。分厚い男の手が、乱暴に彼女の服の胸元を引き裂いていく。
見知らぬ空間。だが今は状況を考えている暇などない。詩織の指先が本能的に動き、男の腰のあたりにある急所を正確に突いた。直後、獣の悲鳴のような叫び声が響き渡る。
ドサッ――男はベッドから転げ落ち、床でのたうち回った。
詩織は立ち上がる。衣服は乱れ、裂けてしまっていたが、軽く整えると鋭い視線を床の男へと向けた。
「……っ、くそアマ……お、お前……何を……」
男の顔色は真っ白だが、その目だけは毒蛇のような陰険さを失っていない。
詩織は一歩踏み出し、見下ろす位置から男を見据えると、足先で正確に足首を踏み抜いた。 ――パキン、と骨がずれる乾いた音。
「ぎゃあああ！！！」
またも絶叫が響く。詩織はしゃがみ込み、白く細い指で男の顎を強制的に押さえ込む。「さっきの暴言、楽しかった？まだ続けたい？」
男は声も出せず、額から滲む冷や汗がポタポタと落ちる。目には、さっきまでの陰険さの代わりに恐怖が浮かんでいた。
次の瞬間、詩織はあっさりと顎から手を離した。
そして足首に触れ、――パキン、と今度は元の位置に戻す。痛みが一気に引いた。
男は呆然と詩織を見つめた。詩織は床に落ちていたジャケットを拾い、肩に羽織ってドアへ向かう。男は安堵しかけたが、振り返った詩織の視線にビクリと身を強張らせた。
「今日のこと、口外しないほうが身のためよ。さもないと――」
その視線が、男の股間へと落ちる。男は反射的に脚をすばやく閉じた。
「その『大事な相棒』は、二度と立ち上がれなくなるわ」
赤い唇が小さく弧を描く。男の顔は血の気を失い、詩織はドアを開けて去った。
数歩進んだところで、表情が一気に険しくなる。
一体どういうこと？
宮廷の政変で、皇后を庇って剣を受けた――そこまでは覚えている。大量出血で意識を失い、次に目覚めたら、見知らぬ部屋で、見知らぬ奇妙な服装の男が……
周囲は全てが異質だった。奇妙な建物、奇妙な人々、奇妙な服装。道を行き交う「速すぎる小さな箱」――中には人が座っている。
どうやらこの時代の馬車らしい。
これは一体どういうことなのか？
その時、不意に膨大な記憶が頭に押し寄せた。まるで異物を無理やり詰め込まれるような痛みに、しばらくうずくまる。
「……そういうことね」
詩織は目を伏せ、小さく呟いた。
この身体の元の持ち主も「早森詩織」という名前。だがこの時代では、婚前出産をした悪名高いネットタレントで、全ネットから叩かれる炎上の的。
それでも彼女には最低限の矜持があった。身体を売って仕事を取るなど論外――だからこそ、さっきのホテルの事件になったのだ。
元の詩織は、所属するMCN事務所のマネージャーに「投資家との契約の話」と騙され、薬入りの酒を飲まされていた。
彼女の記憶を受け取った詩織は、何とも言えない表情になった。
元の詩織は本当にお人好しすぎるわね。だから何をやっても誤解されて、ここまで嫌われたんだわ
元の詩織の身の上を思うと、詩織は軽く息をついた。
その時、ポケットのスマホが鳴り、記憶を頼りに通話ボタンを押した。
また何も言わないうちに、電話の向こうから鋭い女性の声が聞こえ、激怒した調子で怒鳴った。
「早森詩織！アンタ、高橋社長に何をしたの！このチャンス、私がどれだけ苦労して取ってきたと思ってるの！今すぐ事務所に来なさい！」
返事をする間もなく、電話は一方的に切られた。
スマホを見つめる詩織は眉をひそめ、記憶を探り、タクシーで指定の会社へ向かった。
星森メディア。
業界でも有名なネットタレント育成の拠点で、
美容系、食レポ系、お笑い系など様々な人気配信者を輩出してきた。
だが元の詩織は特殊だ。“炎上枠”――数々の奇行や失態でネット民に叩かれ、その結果として逆に名前が売れたタイプ。
事務所もそれを利用し、“炎上商法”で売り出していた。
「山口マネージャー」
ドアを閉めるや否や、山口が怒鳴りつけてきた。
「詩織、あんた、立派になったね？一体高橋社長に何をやったの！？今すぐ謝りに行きなさい。じゃないと、本当に終わりよ！」
詩織が眉を顰め、返そうとした瞬間、デスクの電話が鳴った。
表示を見た山口は、態度を一変させる。「あっ、高橋社長ですか！ええ、はい。今ちょうど本人をそちらに……え？直接話したい？はい……」
差し出された受話器。山口の目は警告そのものだった。
「大人しくしろ！」
詩織は相手の意図を察し、心の中で冷笑しながら電話を取った。
「高橋社長……その、相棒はお元気ですか？」
向こうは沈黙だった……
「貴様…俺に何をやった！」
「私の言った通り、大人しくしていれば「相棒さん」は大丈夫。でも、また何かしようとすれば――相棒さんが許さないでしょうね」
「貴様！」
最後まで言わせず、詩織は受話器を山口に戻す。
「はい、高橋社長……あ、はい……分かりました」
通話を終えた山口の視線は一転して探るような色を帯びた。
不気味な声でーー「あんた……高橋社長の弟と繋がってるの？ だからあの人、あんなに怯えて……」と言った。
何度も「相棒さん」を言及したことから見れば、詩織の背後には高橋社長にも勝る者がいるのは確かなものだ。
詩織「……」
崔さんの目に浮かぶ好奇と下世話な興味を見て、温棠の口元がほんのわずかに引きつった。
「相棒は……弟のことですよ」
「弟……高橋社長にそんな弟いたかしら？」
山口は首をかしげたが、詩織はもう興味を失っていた。まだこの身体に慣れる必要がある。
「用がないなら帰ります」
背を向けかけたとき、山口の声が飛ぶ。
「待ちなさい！」
振り返ると、山口は書類を手にしていた。
「『対照組』、明日からロケよ。アンタは橋本楓の引き立て役なんだから、しっかりやんなさい。そうすればチャンスはいくらでもあるわ」
「『対照組』って？」
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