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章 3: 3

道中、渡辺彰の携帯が何度か振動し、全て伊藤麻衣からの「無事に家に着いた?」という問い合わせだった。

私は画面のロックを解除し、礼儀として返信しようとした。

しかし、彼と友人のチャットが目に入った。

【偽装結婚は最後のチャンスだ。それでも彼女が戻ってこなければ、本当に諦めるしかない】

【クラスのグループに俺が結婚したって知らせてくれ。他の人には詳しく話さないでくれ】

画面に触れていた指が止まり、慌てて携帯を閉じた。

呼吸が思わず荒くなる。

どれだけ口を開けても、酸素が胸に入ってこないような感覚。

涙が目尻から溢れ、ますます激しく流れ出した。

だから彼が三日前に突然プロポーズしてきたのか。

指輪も、新居も、結納金もなく。

ただ「家族には言わないで」の一言だけ。

私は彼が十分な礼儀を尽くせなかったことを申し訳なく思っているのだと、自分の尽くしが彼の心を動かしたのだと思っていた。

しかし、八年間待ち望んだ結婚式が、麻衣を帰国させるための駆け引きに過ぎなかったとは。

この関係に対する最後のわずかな未練も、ついに完全に消え去った。

自分を慰めることしかできない。

もう去ることを決めたのだから、彼らのことは全て私とは無関係になる。

家に着くと彰の酔いは少し覚めていて、入るとすぐにバスルームで顔を洗った。

私は麻衣の言葉通り、彼のためにハチミツ水を用意した。

最後の三日間、この恋に悔いを残したくなかった。

ソファに座ったところで、上司から電話がかかってきた。

出発前の仕事の引き継ぎについての話だった。

電話を切ると、彰のいらだった声が不意に響いた:

「出発?どこに行くんだ?」

彼は片手で濡れた髪を拭きながら、無表情で私に尋ねた。

私はハチミツ水を彼に渡し、淡々と答えた:

「何でもないよ、出張に行くだけ」

彼は考えるのも面倒だったのか、あるいは単に私のことなど気にも留めていなかったのか。

カップを受け取って飲もうとした彼は、中にハチミツが入っていることに気づいた。

眉をたちまち顰める。

怒りの声で私を問い詰めた:

「誰に習ったんだ?」

「ネットで変なもの見るな。ネットの情報が全ての人に合うわけじゃないんだぞ!」

カップを乱暴にテーブルに叩きつけ、彼は寝室へ戻っていった。

私の顔に思わず苦笑いが浮かぶ。

やはり、理想の女性のやり方は私には真似できないのだ。

翌日はウェディングフォトを撮る予定だった。

彰は目覚めると何事もなかったかのように、いつも通り冷淡な態度で接してきた。

麻衣への優しさを見た今となっては、彼がそういう性格だとはもう思えない。

食事を終えて出かける準備をしていた時、彼はスマホを見た。

突然口を開いた:「ウェディングフォトは公園じゃなくて、大学で撮ろう。最近ネットでそれが流行ってるらしい」

私は食器を片付ける手を止めた。

「うん、いいよ。あなたの言う通りにしよう」

彼が急に予定を変えた理由は分かっていた。

麻衣が朝、母校を訪問する懐かしさについての投稿をSNSにアップしたからだ。

私は彼の幼稚な嘘を指摘しなかった。ただ、恋が終わりに近づいている今、自分を惨めな気持ちにしたくなかっただけだ。

出国まであと一日半。お互いに体裁を保ちたかった。

出かける前に今日何が起こるか予想していたので、歩きやすいウェディングドレスを特に選んでおいた。

カメラマンが私たちを運動場に連れて行くと、彰は目を上げてしばらく辺りを見回し、ついに木陰の隅に見覚えのある姿を見つけた。

私に一言も言わず、次の瞬間には麻衣を探しに行ってしまった。

困惑した表情のカメラマンに、私は申し訳なさそうに微笑んだ。

「わざわざ来ていただいたのに申し訳ありません。今日はここまでにしましょう。料金はきちんとお支払いします」


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