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臨淵城。
御し獣召喚祭壇の前に、人影がちらついていた。
祭壇上の召喚魔法陣が白い光を放ち、それぞれの生徒の緊張と期待に満ちた顔を照らしていた。
「優秀!優秀級だ!」
「俺の御し獣は普通級か……しまった……」
その場にいた生徒たちは、歓声をあげる者、喜ぶ者、落胆する者、落ち込む者……さまざまだった。
儀式を担当する先生は平静な表情で、すべての生徒に目を向けた。
「御し獣召喚は完全にランダムだ。高品質の御し獣が現れる確率は万分の一にも満たない。たとえ召喚結果が理想的でなくても、努力次第で強くなれるチャンスはある」
彼の声は大きくはなかったが、はっきりと全員の耳に届いた。
そして群衆の中、端正な顔立ちの青年が茫然と周囲を見回していた。
見知らぬ世界、見知らぬ言葉、見知らぬルール!
彼は自分の手のひらを見つめ、そして神秘的なエネルギーを発する祭壇を見上げると、ついに一つの事実を確信した。
彼、斉藤輝は……異世界転移したのだ!
幸いなことに、転移者として、彼はすぐにこの身体の記憶を受け入れることができた。
しかし。
脳内の情報を整理し終えると、彼は思わず口元を引きつらせた。
「異空間の侵略?全員が御し獣を持つ?両親は他界?」
前世では貧しかったが、少なくとも命の危険はなかった。
しかしこの世界では……
少しでも油断すれば、異空間の怪物に骨まで砕かれて、塵屑残さず吹き飛ばされてしまう!
「次は、斉藤輝!」
突然祭壇から先生の呼び声が聞こえ、彼を現実に引き戻した。
輝は深く息を吸い込み、祭壇へと歩み寄った。
先生はリストにチェックを入れ、彼に頷いて合図した。
その瞬間、輝は魔法陣の前に立ち、心臓の鼓動が早まった。
この祭壇は異空間と繋がり、御し獣を召喚できる。
これは一般人の御し獣師が運命を変える唯一のチャンスだ!
高い資質の御し獣を召喚できれば、一気に成り上がることができる!
「召喚魔法陣に手を置いて、リラックスして」
先生の指示に従い、輝はゆっくりと手を上げ、掌を魔法陣に触れた。
瞬時に、紫色の光柱が天を突き破った。
一瞬、会場は静まり返った。
次の瞬間、
「紫……紫色?!マジかよ!史詩級資質の御し獣?!」
「臨淵城で最後に史詩級資質の御し獣が現れたのは、確か一年前だよな?!」
「斉藤輝……どんな運持ってるんだ?!」
それまで冷静だった先生も、瞳孔を急激に縮めた。
——史詩級御し獣!
これは何を意味するのか?
彼の召喚儀式の記録が臨淵城の歴史に刻まれるということだ!
彼の名声は、この御し獣の誕生とともに街中に響き渡るだろう!
彼は急に顔を上げ、祭壇の中央を凝視した。
しかし、さらに彼を震撼させる光景が目の前に現れた。
人型の獣寵?!
「こ……これはありえない?!」
御し獣の形態は千差万別だが、人型獣寵はその中でも最も稀少で貴重な存在だ!
なぜなら人型であることは、より高い知性、より強い潜在能力、より完璧な戦闘適性を意味するから!
——これは真の天才だけが手にできる御し獣だ!
紫色の光が徐々に消えていくと、細い人影がゆっくりと歩み出てきた。
それは少女だった。
雪のような肌をした彼女の背中には小さなコウモリの翼が軽く羽ばたき、その一歩一歩が人の心を魅了する魅力を放っていた。
——サキュバス!
先生の脳裏には即座にこの御し獣の種族が浮かんだ。
彼は深く息を吸い込み、興奮を抑えながら静かに説明した。
「サキュバス、闇系史詩級御し獣だ。直接的な戦闘力は同階級に比べてやや劣るが、知性は普通の獣寵をはるかに超え、成長の可能性は極めて高い!」
「しっかり育成すれば、臨淵城のトップ10の天才の仲間入りも夢ではないぞ!」
しかし、今の輝は先生の分析に耳を貸す余裕がなかった。
なぜなら——
彼の目の前に、突然半透明のステータスパネルが浮かび上がったのだ!
【サキュバス(未命名)】
【状態:未契約】
【資質:史詩2星】
【レベル:0階】
【属性:闇系、精神系】
【スキル:欲望吸収、魅惑の瞳】
【育成提案:闇夜の結晶、堕落の羽……を使用することで該当御し獣の資質向上させられる】
輝は目の前のステータスパネルを見つめ、心に激しい波が立ち上がった。
これは……チート能力か?!
彼の知る限り、この世界で誰も御し獣の詳細なデータを直接見ることができず、ましてや育成計画まで一目瞭然にする者などいない!
これは何を意味するのか?
パネルの指示に従えば、このサキュバスの資質を史詩9星、あるいは……伝説級にまで育て上げられる可能性があるということだ!
彼が胸を躍らせている間、サキュバスは静かに彼の前に歩み寄り、穏やかに彼の側に寄り添った。
傍らの先生は何かを思い出したように、すぐに低い声で注意を促した。
「輝、早く御し獣と契約を結べ!後悔しないうちにな!」
輝が頷こうとした瞬間——
「キィーッ!」
鋭い鳥の鳴き声が空を切り裂いた!
皆が顔を上げると、翼幅5メートルを超える青い巨鳥が急降下してくるのが見えた。激しい風が巻き起こり、祭壇周辺の旗がバタバタと音を立てた。
巨鳥が着地すると、華やかな錦の衣をまとった中年男性が軽やかに飛び降りた。
彼は作り笑いを浮かべながらも、視線は輝の傍らのサキュバスを捉えて離さなかった。
「鈴木先生、おめでとう!儀式で史詩級資質の御し獣が召喚されるとは、これは臨淵城の大ニュースだな!」
田中健一は両手を前に合わせ、まるで長年の親友であるかのような親しげな口調で言った。
鈴木先生は冷ややかに笑った。「田中会頭は多忙なはずだが、どうしてこんな小さな祭壇にまで?」
「いやいや、祭壇は臨淵城の基盤だ。当然気にかけるべきだろう」
健一は薄ら笑いを浮かべながら取り繕ったが、足は止めず、真っ直ぐ輝に向かって歩いていった。
「君——」
彼は親しげに輝の肩を叩いた。「私の息子も今年高校三年生でね、ちょうど強力な御し獣が必要なんだ。君のこの史詩級を……私に譲ってくれないか?」
本性を現したな!
輝の瞳孔が一瞬収縮し、相手の意図をすぐに理解した。
田中健一、臨淵城最大の商会の支配者!
彼は自分のサキュバスを強奪しようとしている!
輝は思わず鈴木先生を見た。
「竜夏の法律では、御し獣師本人の同意なしに誰も召喚された御し獣を奪うことはできない」
「つまり、君が同意しない限り、今日は君の御し獣を誰も連れて行くことはできないということだ」
先生の保証で、輝の心は少し落ち着いた。
彼は深く息を吸い、田中の目を見つめ返した。
「申し訳ありませんが、お断りします」
健一は笑顔を崩さず、まるでこの返答を予測していたかのようだった。
「そう急いで断らないでくれ」
彼はゆっくりと人差し指を立てた。「二億円だ。優秀資質の御し獣を買い、育てるのに十分すぎる金額だ。」
彼は目を細め、誘うような口調で続けた。
「史詩級資質の御し獣の育成には莫大な費用がかかる。君は普通の学生だ。無理する必要はない。現実的な選択をした方がいいんじゃないか」
もし他の者なら、この条件に心を動かされたかもしれない。
しかし輝は冷ややかに笑うだけだった。
——冗談じゃない!
彼にはシステムがあり、サキュバスの成長ルートは明らかで、将来は伝説級さえ突破できるかもしれない!
たかが2億円?
羽毛一本買えるかどうかだ!
彼がきっぱりと再び断ろうとした瞬間——
「わ……わたしは彼の言うことはもっともだと思う」
突然、か細い声が横から聞こえてきた。
輝は体を強張らせ、信じられない思いで振り向いた。
——話したのは、彼の傍に寄り添っていたサキュバスだった!
……
……