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47.61% プリンセスの条件は『可愛い』だけですか? / Chapter 10: 「交渉術Ⅰ:言葉で殴る」

장 10: 「交渉術Ⅰ:言葉で殴る」

アイズリンはピザ屋のドアをくぐった瞬間、全員が自分を見て笑っているような被害妄想に呑み込まれた。似合わないドレスは着心地も最悪で、見た目も滑稽きわまりない。――彼はもうどこかの席で待っているのか、それとも自分が席を選んで待つべきなのか。そもそもアイズリンはプリンス・ジャストリアンの顔を知らない。同級生たちが息を弾ませて語った**「息を呑むほど素敵」というぼんやりした形容**しか手がかりはなかった。

どう動けばいいのか分からず、店内をゆっくり一周して一人で座っている青年を探す。奥の席に金髪の少年が、誰かを待っているように腰かけているのが目に入った。近づいた瞬間、胸に電流のような既視感が走る。――そこにいたのは**高校の友人、アリス(Aris)**だった。

「アリス!」思わず声が出る。慌ててきついヒールでつまずき、よろけながら向かいのビニール張りのボックス席へ身を滑り込ませ、テーブルのへりに掴まってどうにか体勢を保つ。「やあ!」

アリスは心底驚いた顔をしたが、数拍の硬直ののち持ち直した。

「アイズリン! これは……奇遇だな。君がこの辺りの学校に通ってるのは知ってた。今週末はたまたま町に来る予定で、連絡してみようかなとも一瞬思ったんだけど、忙しすぎるだろうって。元気にしてた?」

「ええ、まあ……そこそこ」――硬い生地が肋骨に食い込む。「アリスは? まさかあなたに会うとは思わなかった。どうしてグリメリアまで?」

アリスは笑い、肩の力を抜いた。

「先週の大舞踏会で、みんなこっちに来てたろ? 君は見かけなかったけどね」

アイズリンは病欠のことを繰り返す気になれず、肩をすくめた。

「それで、実はまた馬鹿げたブラインドデートに呼ばれてさ。舞踏会を逃したとか何とかで、会いたいって女の子がいるらしい。正直、面倒そうだけど予定もないし。いい子かもしれないしね」

アイズリンの胸に冷たい恐慌が噴き上がる。鼓動が耳の内側で荒れ狂い、身を乗り出して訊ねた。

「彼女の名前は?」

「エルサンドリエル=アナイス姫」――アリスは盛大に言い間違え、大笑いした。

「にしても、人生であんな馬鹿みたいな長い名前、聞いたことある?」

「あなたがプリンス・ジャストリアンなのね!」アイズリンは意図より大きな声を上げてしまった。アリスの目が見開かれる。

「わたしがエルサンドリエル=アナイスよ。今日デートする相手は私なの」

アリスは反射訓練の記憶に頼るようにがばっと立ち上がり、機械的な口調で言った。

「ご無礼を、気高き乙女。貴女の尊き御名を嘲るつもりはさらさらございませんでした」

そして濡れた犬のようにぶるぶる頭を振ると、何の前触れもなくまた腰を下ろす。

「だって気づくはずないだろ? エルサンドリエル=アナイスは――その、絶世の美女だって聞かされてたんだ」

アイズリンが冷えた視線をよこすと、彼はすぐに引き下がる。

「いや、君が綺麗じゃないなんて言ってない。そうじゃなくて、そういう目で見てこなかったっていうか」

「こっちだって、もっと別のタイプかと思ってたわ」張り詰めた空気がほどける。あらためて彼を見ると、アリスは以前より背が伸び、少年から大人の男へと移ろいつつあるのが分かった。――もし十九年近く見慣れていなかったら、格好いいと思っていたかもしれない。

「にしても、これは……気まずすぎる」アリスが言う。「悪気はないんだ、アイズリン。でも、君とはデートできない。長年の幼なじみだし、妹と付き合うみたいなもんだ」

「全面同意」アイズリンは解放感とともに頷いた。「さすがに無理ね」

そして可笑しさに少しだけ笑いをこらえながら握手を差し出す。

「じゃあ、今日は帰るわ。会えて嬉しかった。また今度――デートじゃない時にゆっくり話そう」

話はまとまった。二人は同時に席を立ち、注文を取りに来たばかりの困惑したウェイターの横をすり抜けて出口へ。外に出ると、無言のまま反対方向へ歩き出した。

――出てから三十分も経たないうちに、アイズリンは寮の部屋に戻ってきた。

「ずいぶん早かったのね」顔を上げたジェサミンが言う。「うまく行かなかったってことでいい?」

「……まあ、そうね」――これ以上語りたくないという気配を隠さずに。

「少なくとも楽しめた?」ジェサミンは畳みかける。

「いいえ」

ジェサミンの口元に、一瞬だけ満足げな笑みが浮かび、慌てて消えた。

「じゃ、縁結びは他人に任せるのが正解ってことね」――声には得意気が滲む。

寮の各部屋には電話と館内放送が備わっていて、アイズリンはひと月ほど連絡の仕組みに戸惑っていたが、やっと理解した。――個人的な用件は部屋の電話、不在の時や一斉連絡は館内放送。

だからこそ、事務方の女性が彼女の長大な名前を盛大に噛み倒した末に読み上げ、アイズリンが財政学の授業から呼び出されたとき、彼女は内心穏やかではなかった。学園おとぎ制度にいまだ胡散臭さを感じつつも、数年後には女王になるかもしれない身、一国を率いる責任の重さは骨身に染み始めている。――早く片づけて授業に戻りたい、というのが本音だった。

事務室に入ると、権限持ちが三名――学長、エリサンドラ、そして名札にただ**「ジョランドラ」とある中年女性**(自分のフェアリー・ゴッドマザーだ)が並んでいた。

この顔ぶれを見た瞬間、アイズリンは最悪の事態を想像した。

「何があったんですか?」声が強張る。「家で何か? 家族は無事ですか?」

三人は顔を見合わせ、わずかな沈黙ののち、学長が空席を指し示す。

「アイズリン、どうぞおかけ」

アイズリンはおずおずと従い、ジョランドラが差し出した氷水を震える手で受け取った。

「さて――」学長は咳払いし、机上で指を組む。「週末に学外で、プリンス・ジャストリアンと会っていた――そう理解しています。相違ありませんね?」

アイズリンの喉に固い塊がこみ上げる。無許可のデートは校則違反だっただろうか。コララインかジェサミンなら知っていたはず――。

「はい。でも、数分話しただけです」声は震えていた。「わたし、何かいけないことを?」

エリサンドラの笑みは愉快でない種類のものだった。だが、学長は上機嫌に口角を上げる。

「いいえ、まったく。むしろ逆です。恋に関して自ら動ける娘は高く評価される。たいてい最初の舞踏会で『運命の相手』に出会えなかった子は、受け身のまま次回を待つだけでしょう? その点、エルサンドリエル=アナイス姫の積極性は称賛に値する」

「じゃあ……何なんです、これは?」アイズリンは混乱の極みで問う。

ジョランドラが一枚のファイルを開き、口を開いた。

「標準の身元調査を、プリンス・ジャストリアンに実施しました。高校時代からのご友人、という理解でよろしいですね?」

「ほとんど親友でした」

「まあ素敵」ジョランドラはとろける声を一拍だけ挟み、すぐに職務口調へ戻る。

「実に素晴らしいことです。学外デートを能動的に設定したうえに、すでに互いを知っている。趣味だの価値観だの、公開恋愛の前段で無駄に時間を費やす必要がありません。――公式に決まりました。エリサンドラが王子学院へ連絡済み。お二人の婚約が成立です」

アイズリンは椅子を弾かれたように立ち上がった。

「はああっ?」

「アリスと私が結婚ってこと? ――プリンス・ジャストリアンと、の意味よ」

エリサンドラは小さく頷き、学長はネクタイを直しながら満面の満足を隠さない。ジョランドラも笑顔だ。

「その通り、アイズリン。ご成婚よ。次の舞踏会で公式発表しますが、それまでは内密に。並行して、あなたには相応の危機を設定し、プリンス・ジャストリアンには戦闘技術の研鑽と、必要なら魔導具の捜索も課します」

アイズリンは感覚が麻痺した。

「その……婚約を取り消す、方法は……ないんですか?」

声は驚くほど静かだった。

「あるわけないだろう!」学長は愕然と叫ぶ。

「怖れるな、エルサンドリエル=アナイス姫。君とプリンス・ジャストリアンを隔てるものは何ひとつない。永遠に――」

――次に意識が戻ったとき、アイズリンは床に大の字、転倒した椅子の脚に自分の脚をぐちゃぐちゃに絡めていた。学長の姿はなく、代わりにジョランドラが深い憂慮の面持ちで覗き込んでいる。

「目を覚ましたわ」フェアリー・ゴッドマザーが周囲に告げる。

背後から、エリサンドラの乾いた声。アイズリンがゆっくり痛みに耐えながら起き上がるのを見て、老プリンセスが言った。

「見事。その完璧な失神芸を年末までに体得できる子はそうはいないのだけれどね」


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