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4.54% 囁かれた元カノの名前、その名はもう私の耳に入っている / Chapter 1: 第01話:聞こえてしまった名前
囁かれた元カノの名前、その名はもう私の耳に入っている 囁かれた元カノの名前、その名はもう私の耳に入っている original

囁かれた元カノの名前、その名はもう私の耳に入っている

저자: しろくま

© WebNovel

장 1: 第01話:聞こえてしまった名前

第01話:聞こえてしまった名前

「取りやめることにしました」

月宮(つきみや)美咲(みさき)は、携帯電話を握る手に力を込めた。受話器の向こうで、夜刀(やとう)巌心(がんしん)が静かに息を吐く音が聞こえる。

「美咲さん……」

老人の声には、深い同情が込められていた。美咲は唇を噛み締める。この優しさが、今の自分には辛すぎた。

「海外留学の準備を進めております。暁斗(あきと)さんには、まだお話ししておりません」

「分かりました。何か埋め合わせを……」

「お気持ちだけで十分です」

美咲は静かに電話を切った。

――あの夜のことだった。

手術は成功だった。医師の言葉を聞いた瞬間、美咲の心は希望で満たされた。聴力を完全に失うリスクを冒してまで受けた鼓室形成術。それは、暁斗に愛されるための最後の賭けだった。

補聴器をつけたまま、美咲は暁斗の帰りを待った。驚かせたかった。健常者になった自分を見せて、彼の心を振り向かせたかった。

玄関のドアが開く音。

「お帰りなさい」

暁斗は酒の匂いを漂わせながら、美咲を見つめた。その瞳に宿る感情を読み取ろうとして、美咲の胸は高鳴る。

「美咲……」

彼は美咲をソファに押し倒した。強引なキスが唇を塞ぐ。いつものように、暁斗の手が美咲の補聴器に伸びる。

カチリ。

小さな音と共に、世界が静寂に包まれる。いや、包まれるはずだった。

彼の吐息が、ある名前を囁いた。

「みかげ……みかげ……」

回復したばかりの聴覚は、どんな些細な音も拾ってしまう。その囁きに、美咲の全身は凍りついた。

暁斗が補聴器を外していたのは、この名前を心置きなく呼ぶためだったのか。

美咲は動けずにいた。暁斗の重みを感じながら、彼のスマートフォンの画面が光るのを見つめていた。通知が表示される。

『妖月(ようげつ)美影(みかげ) 離婚成立 来月帰国予定』

全てが繋がった。暁斗が荒れていた理由。彼の心が向かう先。

――昔のことを思い出す。

美影に振られて自暴自棄になった暁斗。命知らずのスポーツに没頭する彼を、美咲は必死に支えた。深海ダイビングでの事故。酸素が足りなくなった暁斗に、美咲は自分のレギュレーターを渡した。

「これからは君を大切にする。愛せるように、努力するから」

病院のベッドで、聴力を失った美咲に暁斗は約束した。婚約指輪を差し出しながら。

でも、その約束は果たされることはなかった。

美咲は静かに立ち上がった。もう悲しむ暇もない。語学の勉強を始めよう。海外で、新しい人生を築くために。

補聴器を手に取る。もう、これは必要ない。

全てを捨てて、彼女は歩き始める。過去を振り切って、誰も知らない場所へ。


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