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29.16% 夫のそばで、私は盲目を装い続ける / Chapter 7: 第7話:偽りの家族旅行

장 7: 第7話:偽りの家族旅行

第7話:偽りの家族旅行

朝食のテーブルで、蒼が無邪気な笑顔を浮かべながら葵を見上げた。

「お母さん、今度の幼稚園の研修旅行、パパと一緒に行きたいんだ」

葵の手が、わずかに震えた。コーヒーカップを静かにソーサーに置く。

「研修旅行?」

「うん。ヨーロッパに行くんだって。パパが言ってたよ、依恋おばさんも一緒に行くって」

蒼の無邪気な言葉が、葵の胸を鋭く刺した。息子は何も知らない。父親の愛人を「おばさん」と呼び、三人での旅行を心から楽しみにしている。

零司が新聞から顔を上げた。

「葵、実は相談があるんだ」

その声は、いつもの優しい夫の声だった。だが葵には聞こえている。昨夜、階下で依恋と交わした密やかな会話が。

「君が目が不自由じゃなかったら、一緒に行きたかったんだけど」

零司の言葉に、葵の心が凍りついた。

偽りの配慮。偽りの愛情。

「長時間のフライトは君には負担が大きいだろうし、現地での移動も心配だ」

零司は葵の手を取った。その手は温かかったが、葵にはもう何も感じられない。

「どう思う?」

葵は静かに微笑んだ。

「蒼が行きたがってるなら、行かせてあげて」

「本当にいいのか?」

「ええ。私は家で待ってるわ」

その時、零司が秘書に電話をかけ始めた。

「チケットの手配を頼む。大人二人、子供一人で」

葵の返事を待つことなく。まるで最初から決まっていたかのように。

葵は内心で冷笑した。これは相談ではない。通告だったのだ。

---

出発の朝、零司は家政婦たちの前で愛情深い夫を演じていた。

「寝る前に、必ず水を枕元に置いて」

「ブルーベリーは必ず食べさせて。目にいいから」

「薬の時間は絶対に守って」

三十分もかけて、葵の世話について細かく指示する零司。家政婦たちは感動したような表情で頷いている。

「旦那様は本当に奥様思いでいらっしゃいますね」

「こんなに愛されて、奥様はお幸せです」

葵は静かに座り、この茶番を眺めていた。心は微動だにしない。

「葵、行ってくる」

零司が葵の頬にキスをした。蒼も駆け寄ってきて、葵を抱きしめる。

「お母さん、お土産買ってくるからね」

「気をつけて」

葵は二人を見送った。そして窓辺に立ち、外の様子を見つめる。

車のエンジン音。そして――

零司が依恋を抱き上げ、蒼の手を引いて歩いていく姿が見えた。

まさに幸せな三人家族のように。

葵の心に、もはや痛みはなかった。ただ冷たい静寂があるだけ。

---

旅行が始まって三日。零司と蒼からは一切連絡がない。

だが依恋からは、執拗にメッセージが送られてきた。

『あなたの息子、外ではずっと私をママって呼んでるの』

『零司と毎晩愛し合ってる。もう妊娠してるのに、零司ったら我慢してくれないの』

『パリの夜景、とても綺麗よ。零司があなたと行きたがってた場所なのに、私と来ちゃった』

葵はメッセージを読みながら、何も感じなかった。

心は微動だにしなかった。

もう傷つく段階は過ぎていた。彼女の感情は、計画実行を待つ冷徹な状態にある。

スマートフォンの画面を消し、葵は窓の外を見つめた。

美緒からの最後のメッセージが頭に浮かぶ。

【明日の夜、迎えに行く】

葵は静かに立ち上がった。

彼女は待っている。約束の日が来るのを。


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