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1.38% 悪役ですが、死んで成り上がる / Chapter 3: ヴァーチュー・アンセム

장 3: ヴァーチュー・アンセム

에디터: Pactera-novel

グレースは馬車に乗り込んでからというもの、儀礼的な礼を述べたきり、タロとは一切言葉を交わさなかった。

本心では、タロのような人物と道行きを共にするなど、まっぴらごめんだった。だが、向こうから親切にも同乗を申し出てきたのだ。同年代の子供たちより遥かに早熟なグレースは、両家の間に横たわる深い溝が何を意味するかを理解している。

これ以上、両親に面倒をかけるわけにはいかない。苦虫を噛み潰したような思いで、この申し出を受け入れた。

それにしても、と彼女は思う。目の前に座るこの男は、噂に聞く通りの礼儀知らずで、性格の悪い若様だ。乗り込んできてからというもの、品定めするような粘つく視線で、じろじろとこちらを眺め続けている。

最初はまだ我慢できた。だが、フルーレ家が生まれながらに持つ精神魔法への鋭敏さが、相手が何か、自分にとってひどく不快なことを企んでいると告げていた。

神は言われた。人が生まれ落ちる時、七つの美徳もまた共に誕生した、と。誠実、希望、寛大、正義、勇敢、節制、そして寛容。

フルーレ家の始祖は、この七つの美徳を礎とし、一族を大陸にその名を轟かせるに至らしめた家伝の精神魔法――【ヴァーチュー・アンセム】を編み出した。

そしてグレースが学んだのは、その中の一つ、「誠実」の徳であった。

不快感が、じわじわと胸の内に満ちていく。彼女は、目の前の不埒な男に、ささやかな教訓を与えてやることに決めた。

「タリス様、あなたが今、一番欲しいものは何ですの?」

【ヴァーチュー・アンセム】がフルーレ家にとって切り札たり得るのは、それが生まれながらにして無詠唱発動という、反則的な特性を備えているからだ。

グレースは、タロへの問いかけそのものに、魔法を乗せていた。彼女の読みでは、この手の若様の答えなど、聞くに堪えない汚らわしい言葉に決まっている。

相手が自分に対して無礼な言葉を口にしさえすれば、両家の背景も相まって、彼に痛い目を見させてやることができるだろう。

アイリス伯爵の令嬢を軽々しく扱った罪は、彼がこれまで積み重ねてきた悪行の数々とは、わけが違うのだから。

記憶の断片を懸命に繋ぎ合わせようとしていたタロの耳に、唐突にグレースの声が届いた。

その言葉には、奇妙な力が宿っていた。まるで粘つく鎖のように精神に絡みつき、心の奥底で最も渇望しているものを吐き出せと、有無を言わさず強要してくる。

【名称:ヴァーチュー・アンセム】

【タイプ:精神魔法】

【位階:ゴールド上級】

【源泉:夢界の悪夢の力】

【効果:この魔法は現在、極めて初歩的な状態にある。術者は、自身より実力の低い相手に、真実の答えを語らせることしかできない。】

【備考:美徳は七神の輝きのごとく、地上に遍く、永遠に。】

魔法?!

システムが弾き出したパネルを見て、タロは初めて魔法の詳細を目にした。

グレースが、俺に精神魔法を?何のために?親切で馬車に乗せてやった相手に、これが仕打ちかよ。

タロがそのプレッシャーに屈し、思わず口を開きかけた、その瞬間。

脳裏の灰色の霧が、荒れ狂う嵐のように、これまで以上に激しく渦を巻いた。マナの鎖が、まるで何かに召喚されたかのように、一斉にその渦の中心にある神秘の門へと殺到する。

そして、門に触れる寸前、きらめく星屑となって、灰色の霧の中へと掻き消えていった。

グレースは、タロがすぐにでも答えを口にするものと高を括っていた。見たところ、彼はまだ本格的に魔法に触れたことすらないように思えたからだ。

だが、予想は裏切られた。相手の精神は、まるで底なしの深淵のように、どこまでも深く、暗い。それどころか、一度始めた詠唱を中断することさえできず、マナが奔流となって吸い出されていく。

まずい。このままでは、マナが根こそぎ吸い尽くされる……

これまでの詠唱練習で、たとえ鋼のような意志を持つ相手と対峙した時でさえ、このような事態は一度としてなかった。

グレースの顔色が目に見えて悪くなっていくのを認め、タロもまた、即座に現状を把握した。

「死だ」

それは、今この瞬間に彼が最も望んでいるものではなかった。先程まで、前世で絵を描いていた頃の記憶を辿っていたのだ。できることなら、このゲームをきちんとプレイして、すべてのシナリオを覚えておきたかった。そうすれば、こんなにも手探りで進む必要はなかったのに、と。

だが、そんなことを口が裂けても言えるはずがない。かといって、このまま答えずにいれば、グレースが灰色の霧にマナを吸い尽くされた後どうなるか、見当もつかなかった。

幸いにも【神秘の門】の介入によって、【ヴァーチュー・アンセム】の束縛力は大幅に弱まっている。タロは躊躇なく、これもまた自分が常に渇望しているものであることに違いはない一つの答えを口にし、この魔法を終わらせた。

一連の出来事は、しかし、時間にしてわずか数秒のことだった。

馬車の扉が、乱暴に引き開けられた。老執事は、タロの身に別状がないことを確認するや、その老いた顔を険しく歪め、グレースを射殺さんばかりの眼差しで睨みつけた。

繁華街の喧騒に加え、若様のプライベートに過剰に干渉すまいとしたため、彼は車内の異変に気づくのが遅れたのだ。夢界の力の揺らぎを感知するまでは。

その頃、フルーレセーフは必死に手綱を握りしめ、馬車が暴走しないよう制御していた。彼もまた状況を把握しきれず、行き交う人々に注意を払いながら、時折不安げに車内を窺うことしかできない。その顔には、焦りの色が隠しようもなく浮かんでいた。

タリス家の若君に精神魔法を仕掛けるなど、一歩間違えば、タロへの溺愛ぶりで知られるタリス大公が帝都をひっくり返しかねない大騒動に発展する。

タロは老執事に向かって手を振った。「大したことじゃない、セーフ爺。運転を続けてくれ。あんたの腕を信じてる」

老執事は何か言いかけたが、命令を聞くと無言で頷き、扉を閉め、フルーレセーフから手綱を受け取って再び馬車を進めた。

しかし、彼の意識は完全に車内へと集中している。もしあの無作法なグレース令嬢が再び何か仕出かそうものなら、瞬時に乗り込み、躾のなっていない小娘に灸を据えてやるつもりだった。

タリス夫妻は政務に忙しく、顔を合わせることも稀だった。タロは、いわばこの老執事が手ずから育て上げたようなもので、実の孫同然に可愛がっているのだ。

この十数年、若様に直接手を出すような輩は一人もいなかった。彼の今の心境は、最悪の一言に尽きた。

隣に座るフルーレセーフも相応の実力者ではあるが、肌を刺すようなプレッシャーに、呼吸さえままならないでいた。

「なぜだ?」タロはテーブルの上に手を置き、指で規則的に表面を叩きながら、まっすぐにグレースを見据えた。

グレースの目に映ったのは、今まで見たこともないほど真剣なタロの表情だった。車内の薄闇が、彼の整った顔立ちに深い影を落とし、その双眸だけが、幽かな赤い光を帯びて自分を捉えている。

経験したことのない雰囲気に、心臓がどんどん速く脈打つのを感じる。華奢な手が、無意識にケープを強く握りしめていた。――しくじった。彼女はそう悟った。

それにしても、なぜ「死」なの!?

この男が心の底から渇望しているものが、死だというの!?信じられない!最初の予測とは、あまりにもかけ離れている。

このような状況下にあってもなお、グレースの心には、抑えがたい好奇心が湧き上がっていた。

タロは、彼女の顔に浮かんだ狼狽と悔しさに気づいていた。きつく結ばれた唇と、マナを消耗しきった後の弱々しい表情が相まって、その姿は我見ても猶憐れむべし、といった風情だ。

だが、言うべきことは言わねばならない。このまま水に流すつもりなど、タロには毛頭なかった。グレースが答えないなら、こちらから続けるまでだ。

「魔法の修練は、通常14歳から始まると聞いている。グレース嬢は、私より数ヶ月ほど年上なだけのはずだ。これほど短期間で、家伝の魔法をここまで使いこなすとは、大したものだ」

「たしか、アイリス伯爵が帝都の治安を預かることができるのも、その奇妙な精神魔法のおかげだったな。だが、その精神魔法は――」

タロは、ゆっくりと身を乗り出す。

「――ひょっとして、罪人を尋問するために使うものではないのかな?」言葉に込められた意味を理解し、グレースは叫んだ。「違います!」


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