篠原彰人がしばらく大人しくしているだろうと思っていた。
だが、彼は翌日には弁護士を連れ、さらに見事に包装されたプレゼントを持って、私が借りている古くて小さなアパートを訪ねてきた。
つぼみはリビングでブロック遊びをしていたが、見知らぬ人を見て怯え、私の後ろに隠れた。
私は娘を背後に守り、氷のような冷たい視線を向けた。
「篠原彰人、あなたが私の娘を怖がらせたら、命を賭けて戦うわよ」
彼は傷ついた表情を見せ、手にしたおもちゃを差し出した。「つぼみ、パパだよ。パパがお人形買ってきたんだ」
つぼみは私の服の端をつかみ、小さな声で言った。「ママ、いらない。この人パパじゃない」
子供の言葉は、見えない平手打ちのように彰人の顔に叩きつけられた。
彼の後ろにいた弁護士が咳払いをして一歩前に出ると、公式な口調で切り出した。「斎藤様、本日は篠原さんの意向を正式にお伝えするためにまいりました。篠原さんはお子さんの親権を取り戻したいと希望しており、そのためにかなりの補償金をお支払いする用意があります」
「補償金?」まるで大きなジョークを聞いたかのように私は言った。「彼はお金で私の娘を買おうとしているの?」
「斎藤様、冷静になってください」弁護士は金縁の眼鏡を押し上げた。「あなたの現在の職業と収入状況、そして3年前のある...歴史的な問題を考慮すると、客観的に評価して、お子さんの親権を篠原さんに渡す方が、お子さんの将来の成長にとってより有益です。篠原さんはお子さんに最高の教育資源と生活環境を提供できます」
この言葉を翻訳すれば、つまり「あなたは貧乏で、前科もある、どんな資格があって私と争うの?」ということだ。
私は怒りで笑ってしまった。
「私の『歴史的問題』って、彼のおかげじゃないの?」私は彰人を指差した。「あの頃、彼は私のスタジオを吸収するために私の名声を台無しにした。そして今、果実を摘み取りにきたの?世の中そんなに都合よくいくものじゃないわ」
彰人が近づいてきて、弁護士に手を振って黙るよう合図した。
彼はしゃがみ込み、つぼみと目線を合わせようとして、非常に優しい声で話しかけた。「詩織、そんな風に言わないで。認めるよ、昔は間違ったことをした。でも今は本気で償いたいんだ。お金も資源も、全部あげられる。橋本美咲に公開謝罪させて、あなたの名誉を回復することだってできる。ただつぼみを返してくれればいい」
彼の演技はあまりにも本物そっくりだった。
真心こもって、過去を悔いているように。
もし私がまだ3年前の恋に盲目な女だったら、きっと信じてしまっただろう。
でも残念ながら。
毒蛇に一度噛まれた人間は、もう二度とその蛇の涙を信じない。
私は爪で手のひらをつねり、その鋭い痛みで完全に冷静さを保った。
「篠原彰人、もう演技はやめて。あなたは疲れないかもしれないけど、私はあなたの代わりに疲れるわ」
私はつぼみの手を引いて一歩下がり、彼の偽りの視線を完全に遮った。
「つぼみに会いたいなら、いいわ。弁護士に相談したけど、父親として、あなたには月に4回の面会権がある。一回につき4時間以内、私が指定した場所で、私か私が委任した人間が立ち会うことが条件よ」
「親権については、考えないことね」
「それから」私は一息ついて、彼の愕然とした顔を見ながら、一言一言はっきりと告げた。「今月から、養育費は期日通りに私の口座に振り込んで。一銭も欠けてはダメよ」
「さもなければ、すぐに訴えるわ」