장 3: 香袋
에디터: Pactera-novel
「萱ちゃん、起きた？窓を開けたから少し冷えるかも。上着を着てね、風邪ひかないように」栄閑仙は寝ぼけ眼をこする娘を見つめ、鼻の奥がつんと疼いた。
「うん、ママ。今日の空気、すっごく気持ちいいね」萱ちゃんは鼻をくんくん鳴らしながら笑う。
「そう？ じゃあママと同じように、ここに座ってゆっくり深呼吸してみよう。ながーく吐くの。これを坐禅っていうの。身体にいいから、一緒にやろうか」栄閑仙は、少し意外に思った。萱ちゃんの感知力は、これほどまでに敏感なものだったろうか。
「うん！」萱ちゃんは、嬉しそうに答えた。
前世の栄閑仙は、状況の厳しさを知らず、ただ恐怖のままに子どもを羽根の下へ隠した。
後になって、逃亡の車列で萱ちゃんと同じ年頃の少年が走り回り、夜番までこなすのを見て、栄閑仙はようやく悟った。母の怯えこそが、子の成長を縛っていたのだ。
今度は違う。安定しているこの短い猶予で、萱ちゃんの体力も心構えも鍛え上げる。
それは、体力や戦う力だけではない。物事に対する、警戒心や注意深さも、だ。
子どもの心は大人の感情を映す鏡だ。
前世、栄閑仙の焦燥は二人を無口で臆病に変えた。その轍は、踏まない。
坐禅を続けるうち、栄閑仙は驚きを覚えた。霊気の取り込み速度が、前世で2か月以上修行したときよりも速い。経絡の太さも弾力も、前世の頂点を超えている。あの精神攻撃の影響だろうか。
栄閑仙は、図らずも真相に辿り着いていた。
元々、魂が戻ったばかりの栄閑仙の精神力は、常人より遥かに強大だった。だが、魂と肉体の齟齬による、その見せかけの強さは、記憶の融合とともに徐々に本来の強度へと落ち着いていくはずのものだった。常人よりは高いにせよ、初期ほどの強大さは失われる。つまり、魂が戻ったばかりの栄閑仙の精神力は、不安定な状態にあったのだ。倉狸に打ち勝てたのは、まさに薄氷を踏む思いだった。前世で学んだ修練法が、最上級基礎修練法であったからこそ、倉狸の最初の精神攻撃に耐えられたに過ぎない。
精神攻撃は、倉狸の天与のスキルであり、その生命本源に直結する、一族の命綱ともいえる秘術だ。生命本源は、吸収されうる。世界の理によって移動を制限され、なおかつ自身の防御力が極めて脆弱でなければ、倉狸とて、天与のスキルを行使することはなかっただろう。
栄閑仙は、倉狸の精神攻撃に耐え、逆に生命本源を吸収した。
不安定だった精神力は、これによって安定し、さらに一段階、引き上げられることとなった。
この点だけを見ても、たとえ香袋が手に入らなかったとしても、栄閑仙にとっては、十二分な収穫だったといえる。
倉狸にしてみれば、不運としか言いようがない。もし、最初の精神攻撃でもう少し力を込めていれば。あるいは、一撃で仕留められぬと見て、二撃目で倍以上の力を放っていれば。栄閑仙は、今頃、廃人になっていたかもしれないのだ。
けれど、後悔しても始まらない。倉狸の精神力は、すべて栄閑仙のものとなった。五感の鋭敏化、経絡の拡張、修行速度の向上、そして、より容易に精神統一の状態に入れること。これらはすべて、精神力の大幅な増大によってもたらされた恩恵だった。
夜明けが近づき、栄閑仙は長く息を吐いた。隣を見ると、萱ちゃんは、穏やかな寝息を立て、何か不思議な状態に入っているようだった。まだ経穴を教えていないため、修練法は教えていなかったはずだ。どうやら、瞑想状態に入っているらしい。
以前、ヨガを習っていた栄閑仙も、瞑想の経験はあった。子供は心が純粋な分、無心になりやすいのだろう。瞑想状態では、効率よく霊気を取り込むことはできないが、霊気によって心身を清め、体内の不純物を取り除き、体を健やかに保つ効果が期待できる。
萱ちゃんを邪魔せず、栄閑仙は昨夜得た香袋を手に取る。家に吊るしてある虫除けの香袋に似ているが、作りがひときわ精巧だ。
第一波の怪物が落とす品は希少な品や最上級基礎修練法と聞く。ならば、ただの香袋ではあるまい。
だが内側を探っても、空っぽの香袋にしか見えなかった。
香袋は、物を入れるためのものだ。もしかして、収納空間？ そう思い至り、栄閑仙の胸は高鳴った。もし、空間が手に入るなら、これほど有難いことはない。
チョコレートの箱を、香袋に入れようとしてみる。あれ？入らない。香袋が小さすぎるのだ。精神力を使うのだろうか。チョコレートを見つめ、「入れ」と念じてみる。だが、ぴくりとも動かない。
チョコレートを手に持ったまま、「入れ」と念じてみる。やはり、何の反応もない。
栄閑仙は、がっくりと肩を落とし、ソファにへたり込んだ。右手が、木製の肘掛けに、こつんと当たる。「っ……」包丁を握っていた箇所が、先ほど力を入れすぎたせいで擦りむけており、ずきりと痛んだ。
その時、栄閑仙の脳裏に、閃くものがあった。もしかして、所有者を認識させる必要があるのでは？救急箱のランセットで指先を突き、数滴の血を香袋へ。布地が吸い、淡い光輪がふわりと浮かんで消えた。今度は、チョコレートの箱が、あっさりと香袋の中に収まった。外見は変わらないが、中は、底知れない大きな袋になっているようだ。
栄閑仙は、心底、嬉しくなった。まさに渡りに船。
願ったり叶ったり、とはこのことだ。
色々と試してみた結果、これは、いわゆる修仙小説に出てくる収納袋のようなものだとわかった。広さは、十数平方メートルほどの部屋くらいだろうか。物を入れるには、手で触れる必要がある。入れた物は、自動的に縮小されるようだ。取り出すには、精神力で袋の中の物に焦点を合わせる必要があり、取り出すと、元の大きさに戻る。物は収納できるが、試しに捕まえた活魚は入らなかった。香袋が、生命あるものを拒絶するかのようだった。
生き物は入れられないとはいえ、2人の子供を連れ、前世では野の果実を採集して命を繋いできた栄閑仙にとって、この香袋は、生存の質を格段に向上させる、神からの贈り神器に等しかった。
「ママ！」瞑想を解いた萱ちゃんが駆けてくる。「体が軽いの！お庭をひとっ走りしていい？今日学校お休みだし、靜怡ちゃんと遊びたいな」
「だめよ。外には怪獣がいっぱい出てきてるの。子どもだけで行動しちゃいけません。まずは朝ごはんを食べて体力づくり。強くなったら一緒にモンスター退治に行こうね。弟を起こしてきて、萱ちゃん」
以前、サバイバルゲームで遊んでいた時、萱ちゃんはよく横で見ていて、自分も怪物を倒したいとせがんだものだ。夫は、暴力的で血なまぐさいと、萱ちゃんがゲームをするのを禁じていたため、栄閑仙は、こっそりと遊ばせていた。
子供の心は、無邪気で単純だ。ならば、これも一つのゲームだと思わせてしまえばいい。
恐怖や重圧など、子供に負わせるべきものではないのだから。
前世、2人の子供を連れて逃げ惑う中、緊張と不安から、自分自身、精神的に追い詰められてしまうこともあった。心身ともに疲れ果てた時、取り乱す母親を前にした子供たちは、どれほどの恐怖を感じさせられたことだろう。
過ちを繰り返さない。それが母として、栄閑仙の誓い。
香袋を首にかけ、服の下に隠す。しばらくは、家の中にいれば安全だ。荷造りは、まだ始めないことにする。と、栄閑仙が思った。3人分の朝食を作り終え、子供たちに声をかけようとした、その時。「キィーッ！」鋭い鳥の鳴き声。見れば、長く、色鮮やかな尾を引いた大きな鳥が、力強く翼をはためかせ、まっすぐに、窓へと向かって飛んでくるではないか。
しまった、と栄閑仙は思った。窓を閉め忘れていたのだ。部屋に霊気を取り込むことばかり考え、怪物が現れることを、すっかり失念していた。
朝の光はもう十分に高い。怪物たちは束縛を解かれ、行動を始めている。
油断――その一言に、舌を噛んだ。
-- 선물
수령 
-- 불꽃 랭킹 
-- 불꽃 티켓