午前に家庭教師の授業があったが、俊介はどうしても起きられなかった。
携帯のアラームが何度鳴ったかわからない。ぼんやり目を開けて時間を確認すると、もう七時四十分だった。
俊介はばたんと体を起こす。立ち上がった瞬間、頭が異様に重い。呼吸するたびに唇が熱く感じられ、手で首に触れると、手のひらが熱いのか、首が熱いのか、一瞬わからなくなる。
熱があっても、生徒に家庭教師の授業を休むわけにはいかない。俊介は意地でベッドから起き上がり、洗面と着替えを済ませる。頭はふらふら、鼻は詰まり、力なく寮を出た。
このだるさは二日間続いた。前日の夜、薬を飲んで早めに床に就いたが、一晩中汗もかかず、翌朝起きるのもつらいほどだった。
ぼんやりとする頭で携帯の着信音を聞く。通話に出ても、声はほとんど出ない。喉が枯れて、声を失いかけていた。
電話の相手は生徒の親で、「熱は下がった?授業には来なくていいよ」と言う。
俊介はこの状態では授業どころではなく、親に休む旨を伝え、電話を切ると、目を閉じてまた眠った。
ぐったりと長い眠りを経て、目を開けるともう十時を過ぎていた。
俊介は簡単に身支度を整え、厚手の制服を着込み、ふらふらと校外の診療所へ注射を打ちに行った。
生徒たちは休暇中で、診療所は人も少なく、ソファや診察台にまばらに患者が横たわっている。
医者に薬を処方されると、西村からメッセージが届いた。俊介は弱々しく音声で返信する。
「風邪引いた」
西村:「声どうしたの?そんなにひどいの?大丈夫?付き添おうか?」
俊介:「大丈夫。昨日雪で道が滑ってるし、君は家にいて」
西村:「あ、そう」
俊介:「半盲差別とかじゃないからね」
西村:「あ、そう。言わなきゃ気づかなかった」
俊介は笑って返す。「本当に大丈夫。学校の門前にいただけで、あとは寝に帰るだけ」
西村:「わかった!ちょっと聞いただけで、本気で行くつもりはなかったよ!」
俊介は笑って少しして、イヤホンをつけて軽い音楽を流し、目を閉じて再び眠った。
熱のあるときはいつも眠くなる。俊介もこの二日間ほとんど眠っていた。
しばらくして、携帯がポケットでまた振動する。俊介は西村だと思い、イヤホンからそのまま出た。
眠そうに「ん?」と返す。
しかし、聞こえてきたのは西村の声ではなかった。
「俊介?学校にいる?」
呼びかけを聞いた瞬間、俊介はぱっと目が覚め、ソファで背筋を伸ばして座った。
「航平……」声を出そうとしたが、すぐにかすれて消えた。喉を清めてもう一度、「航平?」
「よ、寝てたの?」航平の声は外にいるようで、周囲が少し騒がしい。
「いや、どうしたの?」俊介が聞く。
「別に。ご飯食べた?学校の近くにいるんだ。仁野が飯行こうって言うから来たけど、彼が来れないってさ。セットメニューは全部頼んじゃった。君来て、一緒に食べない?」航平は仁野に振り回され、声のトーンには呆れと笑いが混ざる。
俊介は答えるしかなかった。「行けないよ、航平」
航平は訊ねる。「声どうしたの?さっき寝ぼけてるのかと思った。風邪?」
俊介は、航平に自分の言い訳だと思われたくなくて、説明するように言った。
「うん、診療所にいる」
「どこ?朝ご飯食べた?」電話の向こうで航平が訊ねる。
「いや、まだ。寮の建物の外にいるだけ」
航平が質問するたび、俊介は真面目に答える。なんだか素直に聞こえた。
「じゃあ、もう少し寝なよ」
「うん」
俊介は、航平と一緒にご飯を食べられないことに少し残念な気持ちを抱え、唇をぎゅっと結ぶ。「じゃあ、切るね?」
「うん、切って」
俊介は「じゃあね」ともう一度言い、航平の返事を聞いてから、ゆっくりと電話を切った。
椅子の背もたれに体を預け、天井をぼんやり見上げて、軽く息を吐く。
イヤホンから流れる穏やかな音楽さえ、今はなぜか少しイライラさせる。俊介はイヤホンを外し、ポケットにしまった。
その後、俊介はもう眠れず、ぼんやりと半分眠ったままの状態で過ごす。
看護師が呼ぶ声に気づき、遠くで誰かが入ってくる音、ドアの前で話す声、そして二つ隣のソファに座る音を聞く。
意識がはっきりしたときには、誰かが自分の隣に座ったことに気づいた。
服とソファの皮のかすかな擦れる音が耳に届く。すごく近い。
しかし、周囲の空気は冷たくない。
他人と近すぎる距離は俊介に安心感を与えない。だから、今度は目を開けた。
目を開けた瞬間、俊介は本当に熱でぼんやりしていることを実感する。
目の前には航平の姿。笑みを浮かべた、かっこいい瞳が、自分のぼんやりした視線にまっすぐぶつかってくる。
俊介は呆然と見つめ、反応が一拍遅れて、目を閉じた。
数秒後、再び目を開けると、また航平と視線が重なる。
航平はにこっと笑い、小さな声で訊ねる。「起きた?それともまだ寝ぼけてる?」
俊介は呆然とまばたきする。
「誰も一緒に食べないし、ちょうど持ってきたんだ。病人の様子も見たかったし。起きたら、先にお粥でも飲む?」
航平の声は小さく、穏やかで、この空間だからか、少しだけ笑みも混ざっている。まるで子供をあやすように優しい。
俊介は視線を周囲に巡らせ、ようやく現実に戻る。
なんと、航平が本当に来ていたのだ。
航平は、ぼんやりした俊介を見て楽しそうにしている。
俊介が視線を一周させて再び航平の顔に戻すと、航平は眉を軽く上げ、笑顔で見つめていた。お粥を食べるかどうか、問いかける表情だった。
その瞬間、俊介の胸の奥で、突如として爆発したような、巨大で、強烈で、抑えきれないほどの心の高鳴りを感じた。