半時間後、伊織が軽い足取りでグループの門から出てきて、奈々を見ると顔がサッと曇って、近づいてきて怒鳴った。「まだここにいるの?早く消えた方がいいよ。正臣さんは絶対にあんたと一緒になんかならないから!」
さっき彼女と口喧嘩したせいで、天翔グループの門すら入れなくなってしまったことを思い出して、奈々は唇をムッとすぼめて、ちょっと横によけた。
伊織が一番ムカつくのは、奈々のこの何も気にしてない態度。すぐ怒気を含んだ口調で言った。「正臣さんはこの後私とデートなの。警告するよ、彼にまとわりつかないで。さもないと、容赦しないからね!」
キツい言葉を残して、伊織はサッと立ち去った。デートまでまだ1時間以上あるから、フレンチレストランに雷斗さんの好きなもの用意するよう頼みに行かなきゃ…。
奈々は眉をピクッとさせて、伊織の車がバビュンと去るのを見て、焦りがグワッと胸に湧いてきた。
伊織、中天石炭の後継者。中天石炭は天翔グループには及ばないけど、アジアのトップ50に入る大企業だよ。
伊織は子供の頃から正臣が大好きで、十何年も彼を追いかけてきた。
二人はまさに幼馴染であり、家柄も釣り合う。
財閥が好むのは政略結婚。だから……もし私がちゃんと気を引きられなかったら、あの二人、本当に結ばれてしまうんじゃ……?
奈々は天翔グループビルの向かいのカフェで1時間座って、ようやく正臣が出てくるのを見た。
彼女はサッと立ち上がって、外でタクシーを止めた。乗り込むとマイバッハの豪華な車を指して言った。「運転手さん、あの車にぴったりついてってください!絶対に見失わないでくださいね、お願い!」
運転手もノリのいい人で、ニヤッと笑って言った。「嬢ちゃん、人を見くび るんじゃないよ!確かに俺の愛車はあんな高級車にはかなわねえけど、東京の渋滞の渋滞ったらありゃしない。のろのろしか走れねえ!」
運転手の言う通り、タクシーはガッチリ後を追った。
最後、マイバッハは「五光十色」クラブの入り口で止まって、フレンチレストランではなかった。
奈々はホッと息をついた。やっぱりね、正臣は伊織をもう何年も知ってるんだから、気があるなら、とっくに付き合ってるはずだもの。数年も経ってからデートに誘うなんて、あり得ないわよね……?
「五光十色」クラブは高級な遊び場で、普通の人は入れるはずがない。奈々はすぐ佐々木徳雄に電話して、会員番号をもらって、スムーズに入れた。
ずっと後をつけて、ついに正臣が個室に入るのを見つけたけど、ボディーガードがドアの外に立ってて、近づくことすらできなかった。
奈々はアゴに手を当てて、どうしようかと考え込んだ。
……
個室は豪華な装飾で、天井が非常に高く、部屋全体が広々と感じられた。
正臣は革のソファにドンと座って、中心に7、8人の若い男女が集まってた。みんなキッチリした服着て、気品のある感じ。
みんなそれぞれ同伴の女性を連れて、今は歓談に興じていた。
時々誰かが正臣に冗談言って、正臣がコクッと頷いて答えてて、非常に仲良いのが分かった。
伊藤社長は目を細めて、大手グループの後継者たちにニコニコしながら仕えてた。賑やかな個室で、正臣が一人で赤ワイン持って黙ってるのを見て、隣の須藤昭彦(すとう あきひこ)にコソッと聞いた。「大塚さん、ご同伴の女性はいらっしゃらないのですか?」