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1.25% 俺が『彼女』になって、ヤンデレ彼女を攻略します / Chapter 2: ディーププレイモード

Capítulo 2: ディーププレイモード

Editor: Pactera-novel

「ぐはっ——!」

胸を抉るような激痛と共に、透はソファから勢いよく身を起こした。右手は無意識に心臓のあたりを鷲掴みにしており、ぜえぜえと激しく肩で息をする。

なんか、柔らかい。

いや……そこじゃない。重要なのは、俺は死んでないってことか?

違う、ここはゲームの中だ!

透は即座に、今この体は現実のものではないと理解した。

ゲームシステムを呼び出す。

「ゲーム終了?」

【ゲームを終了しますか】

【はい/いいえ】

よかった、まだログアウトの選択肢は残っているらしい。ソードアート・オンラインみたいに、このゲーム世界に閉じ込められたわけじゃないようだ。

頭の眩暈はまだ取れず、透はどうしたものかと途方に暮れた。

本来なら助けられるはずのヒロインに、まさか刺殺されるなんて!

一周目をプレイした時は、ただ女の子を家に連れて帰るだけの、なんてことないチュートリアルイベントだったはずだ。

綾辻依がチンピラに絡まれているところを、主人公が助ける。彼女は家に帰れない事情を抱えており、そのまま家に連れ帰って、イチャイチャな同棲生活が始まる、という流れ。

スマホ越しにドット絵の彼女と触れ合っただけだが、一週間の付き合いで、透は彼女の性格をそれなりに理解していた。

寡黙で、気弱で、話すときもモジモジして俯きがち。庇護欲をそそられる、典型的な小動物タイプだ。

これが、いわゆる難易度上昇ってやつで、キャラクターの性格や行動も予測不能になったってことか?

考を巡らせる透は、ふと、このゲームが一般的なSLGと同じように、朝・昼・夕方・夜・深夜という時間帯で行動できることを思い出した。

本来のシナリオでは、夕方の時間帯に、彼女に絡むゲス男を追い払った後、あっさりと家に連れ帰ることができた。

そして今は、まだ正午だ。

しばらく考え込んだ末、透はもう一度あの路地裏へ様子を見に行くことにした。ただし、今回は彼女に接触するつもりはない。

しかし、立ち上がった瞬間、先ほどは焦っていて見過ごしていた問題に気がついた。

このリビング……いや、それどころか、このマンションの周りの風景や道筋まで、自分が住んでいる現実世界と瓜二つじゃないか!

まるで一対一で完全再現されている。唯一の違いは、男だった彼が、女の彼女になっていることくらいだ。

振り返り、マイナンバーカードを手に取る。

樋口透、性別:女、生年月日:2004.01.17……

名前も生年月日も、何も変わっていない。

「うっそだろ……!」

透はさらに何かを思いつき、バスルームに駆け込んだ。

数分後。

彼女はズボンをくいっと引き上げ、若干頬を赤らめながら出てきた。

このゲーム、ちょっと怖いくらいだ。体が入れ替わったというのに、お尻にあるピンク色の小さな母斑まで、きっちり再現されている。

仕方がない。さらなる確認のため、入念に二度、三度とセルフチェックをするしかなかった。

まあ、この体は嫌いじゃない。活気に満ち溢れているし、出るとこは出てるし、10点満点なら9点はつけられるルックスで、しかもすっぴん最強。

……ただ、胸元がずっしりと重いのが、どうにも慣れないが。

彼女は考え事をしながら階段を下りた。マンション内の風景は現実とそっくりで、警備室で居眠りしている老人まで、見慣れた顔だった。

マンションを出ると、朝食屋の気さくな斎藤おばさんが目に入った。

斎藤おばさんも透に気づくと、手を振りながらスピーカーみたいな大声で叫んだ。「透ちゃん!また寝坊かい!あんたの分の朝ごはん、取っといてあげたよ。もうちょっと遅かったら、店じまいするとこだったんだからね」

女の子の姿のまま、透は少し気恥ずかしさを感じながら歩み寄った。「ありがとうございます、斎藤さん」

「なに水臭いこと言ってんのさ」斎藤おばさんは、パック詰めの肉まんと豆乳を透に手渡した。透がスマホでQR決済をしようとした、まさにその時、斎藤おばさんの言葉が不意に方向転換した。

「そういや透ちゃん、あんた、あのカノジョとはどうなったんだい? おばさんに話してみなよ」

「は……?」透の手が震え、スマホを落としそうになった。

彼女は自分の胸の膨らみに視線を落とし、怪訝な顔をする。「斎藤おばさん、本気で言ってます……?私の、カノジョ?」

「違うのかい?」斎藤おばさんはきょとんとしている。「ほら、あの田村さんとかいう、派手な化粧が好きなお嬢ちゃんだよ」

「おばさんに言わせりゃ、あの子はちょっとミーハーすぎるね。透ちゃんには釣り合わないよ。おばさんの知り合いにいい子がいるんだ。あんたより三つ上で、いま大学院で頑張ってる好青年なんだけど、どうだい?」

透は黙り込んだ。

斎藤おばさんが言っている「田村さん」が、自分の元カノであることは分かっている。

だが、現実で彼女が自分の恋人だったのはいいとして。

このゲームは、現実の人間関係まで100%再現しているというのか?

でも、ゲームの中の自分は、女の子なのに!

わけが分からず、どう答えていいかも分からない。

彼女はへらへらと笑ってごまかし、そそくさとその場を逃げ出した。

再び、記憶にある路地裏へとやって来た。

彼女が住むジャスミンマンションは大学街の外れに位置し、内側には彼女が通う九央大学が、そして裏手には、近隣の建設放棄ビルの影響で生まれた場末の路地裏が広がっている。

こういう路地裏がどういう場所か、まあ、分かるやつには分かる。

野良猫や野良犬。

ホームレスの乞食。

あるいは、ヤバい病気の発生源。

運が良ければ、お金に困った可愛い男子学生にだって出会えるかもしれない。

路地裏には入らず、入り口に立っただけで、すでに微かな悪臭が漂ってきているのが分かった。

頭を突っ込んで中を覗くと、薄暗くて人の姿は見えない。ただ、風に乗って、すすり泣くような声が微かに聞こえてくるだけだった。

あの女の子の泣き声だ。

透はゲームシステムのメインクエストに、ちらりと目をやった。

「下手に近づかなければ、さすがにまた刺されることはないだろ。会話くらいは、できるはずだ」

彼女は一歩、足を踏み入れた。フラットシューズが、少し湿ったでこぼこのコンクリートの上に着地する。

正面から吹き付けてくる陰鬱な風は、まるで誰かが耳元で喘いでいるかのようで、透は少し不快感を覚えた。

すぐに路地の中ほどまで進むと、あのボロボロの白いワンピースを着た綾辻依の姿があった。彼女はゴミ箱のそばにうずくまり、両腕で膝を抱え、そこに顔をうずめている。

乱れた長い髪が横顔の半分を覆い、肩から流れ落ちていた。その姿は、痛々しいほどに華奢だ。

ちんまりと、小さい。

どういう角度から見ても、彼女に害があるようには見えなかった。

だが、こんな彼女に、前の周回で自分は刺されたのだ。

足音に気づいたのか、綾辻依はびくりと顔を上げて透を見つめた。その体は一瞬で強張り、壁際にじりじりと後ずさっていく。

瞳は怯え、目尻には乾ききっていない涙の跡がきらめいていた。汚れた小さな顔はこわばり、毛を逆立てた子猫みたいに、シャーッと歯を剥き出しにして威嚇してくる。

樋口透も、彼女が極度の興奮状態にあることを察した。

透は深呼吸を一つし、両手を少し開いて敵意がないことを示し、できるだけ穏やかな声色を心がけた。「悪い人じゃないんだ。ただ……その、泣き声が聞こえたから。一人でいるみたいだったし、心配で、様子を見に来ただけ」

やはり、ゲームのシナリオ通りのセリフは口にしなかった。

今のシナリオ展開は、一周目とは違う。

このゲームの中の彼女は、圧倒的に自由なのだ!

だが、彼女の言葉は、少女の警戒心を解くには至らなかった。

透は、さらに一歩前に出た。

しかし、その小さな一歩が、綾辻依を狂わせた。彼女は即座に懐から、護身用の果物ナイフを取り出した。

「こっちに来ないで――ッ!」

血に染まった切っ先が、冷たい光を放ちながら、まっすぐに透に向けられる。

遠目にも、少女の肩ががたがたと震えているのが分かった。そのせいで、ナイフを握る小さな手も、頼りなく揺れている。

恐怖ゆえか、それとも勇気を振り絞っているのか。固く食いしばった下唇からは、うっすらと血が滲み始めていた。

透は慌てて二歩後ずさり、手のひらを向けて制した。「わ、分かった、分かったから!もう近づかない!だから、落ち着いてくれないかな。俺は、いや私は、悪い人じゃない。助けに……綾辻さん、私は、あなたを助けに来たんだ!」


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