Capítulo 8: ウォト星の秘密
Editor: Pactera-novel
話し合いの末、叔父と甥は一つの結論にたどり着いた。――ペドロは、このまま静のそばに留まる。彼女の存在が、彼の心身の回復に大きく作用しているのは明らかだった。
一方そのころ、セイントは事務所へ戻り、フィルスに命じて少女――静の身元を調査させた。彼女がなぜ獣化した者の理性回復にこれほどの効果をもたらしたのか、その原因を突き止めようとしていた。
次にすべきことを決めたあと、セイントは叔父を少女のもとへ戻そうとした。だがライオンはその場から動かず、再び前足を伸ばして仮想キーボードにもう一行の文字を打ち込んだ。
「 “彼女に二度と節子と呼ばせるな” ……？」セイントは一字一句、確かめるように読み上げ、口元にわずかな笑みを浮かべた。
ライオンは不機嫌そうな目でセイントをにらみつけた。――このガキ、自分が笑われてることに気づいてないとでも思ってるのか。
セイントは軽く咳払いをして言った。「彼女にはちゃんと伝えておくよ。ただ……従うかどうかまでは、保証できないけどね」
ライオンを送り届けたあと、セイントはまず静の誠実な働きをねぎらい、落ち着いた声で言った。「あなたの対応は見事だったよ。……それから、ひとつだけ伝言があるんだ」
「 “節子” って名前、私はけっこう気に入ってるんだけどな。意味もちゃんとあるし、 “縁を繋ぐ” みたいで素敵じゃない？」静はそう言いながら、首をかしげて鼻をこすった。――どこをどう見て、このライオンがこの名前を嫌がってるように見えたんだろう？
「彼にはちゃんと名前があるんだ――ペドロっていうんだよ」セイントは、目の前のものすごく大胆な飼育員に、少し困ったように告げた。
普通の飼育員なら、猛獣を目の前にしたらまず恐怖に駆られ、身を隠して通信機で救援チームに連絡するはずだ。しかし、この女性は細身で弱々しく見えるのに、ライオンと一緒にいる勇気を持っている。
幸いにも、叔父はすでに理性を取り戻していた。――そうでなければ、結果を考えるだけで恐ろしい。
セイントはまだ知らなかったが、当初、静は純粋に自分の腕力でライオンを制していたのだ。また、ペドロも前足でのタイピングが不便だったため、そのあたりの詳しい状況はあえて説明していなかった。
「じゃあ、本名はペドロで、愛称は節子ってことでいいんじゃない？」静はそう提案した。せっかく苦労して考えた名前を、無駄にしたくなかったのだ。
セイントはしばらく考え込んだ。――この少女はウォト星の秘密を知らないのだから、こういう行動も不思議ではない。やがて頷き、ライオンの視線を横目で確認すると、話題を変えて言った。「これから数日間は、森の中で彼に付き添ってほしい。自力で獲物を捕れるようになるまで、そばについていてくれ」
「え？」森の中でライオンと……？静は思わず耳を疑った。――モフモフは好きだけど、森の中でずっと過ごすなんて、望んでいない。
「今回のパトロール任務はよくやってくれたね。もし彼を “節子” と呼ぶのをやめて、この二つの提案に同意してくれるなら、園長に君の給料アップを進言しておこう」セイントは話題を元に戻して、そう告げた。
静は「給料アップ」という言葉に目を輝かせ、すぐに大きく頷いた。心の中では――「ま、私だけのときに “節子” って呼ばせればいいじゃない。誰にもバレないし」――と思った。
仕事初日に上司から褒められ、さらには給料アップの話まで出て――静は心の底から嬉しかった。
一方、セイントはすぐに事務所へ戻った。フィルスと顔を合わせるやいなや、最初の言葉は――「あの少女に関する全ての資料を送ってくれ」だった。
フィルスはすでに準備していたらしく、すぐにタブレットのような装置を手渡し、静の資料を画面に表示させた。
セイントは素早く資料に目を通した。少女に関する情報は簡潔で、特に問題は見当たらなかった。
静は首都星アスラン星城の中流家庭、石川家に生まれた。上には実の兄・石川健（いしかわ けん）が、下には継母の娘・渚がいた。
健は第一軍校を卒業後、数々の難易度の高い任務をこなし、軍での昇進も早かった。わずか数年で少佐の階級に達しており、現在はナンユエン星で任務に就いている。
静がこの仕事に応募したのは、継母が彼女の履歴書をコネでウォト星動物園に送ったことがきっかけだった。フィルスは彼女を残存人類と判断し、採用を決めたのだ。
セイントはタブレットを軽く指で叩きながら、フィルスに問いかけた。「あなたは、彼女をどんな人物だと思う？」
フィルスは少し考え込んでから答えた。「私自身の接触は少ないですが、主にアンソンが長く彼女と接しています。ただ、この娘は本当に動物を愛している――そう感じます」
二人の視線は同時に、傍らに立つアンソンへと向けられた。アンソンは思わず背筋を伸ばし、静を表現するために言葉を重ねた。「とてもいい人です。感謝の気持ちを理解し、賢く、一度見たことは決して忘れません」
二人の部下からの静に対する評価は非常に良好であり、セイント自身も自分の接触を通して、彼女に問題はないと判断した。
有益な情報を得たセイントは、再び帽子をかぶり、指示を出した。「物資を準備しておけ。後で森まで届ける」
この少女に、野外で魚を捕らせて自分やペドロおじさんを養わせるわけにはいかない。
「了解しました」フィルスは応じた。今日の出来事を通して、彼は改めて静に感謝し、彼女を採用したことを心から喜んだ。
誰が想像しただろう――ペドロ殿下が森の中で茶色い熊に出会うなんて。あれほど猛獣たちを自由に放していたというのに。
ペドロ殿下は、皇帝陛下やセイント殿下の叔父ではあるが、実際の年齢は彼らより数歳上なだけだった。
二年前、ペドロ殿下は戦場で部下を守るために精神力を限界まで使い果たし、制御を失った。それ以来、人間の姿と獣の姿を自由に行き来できなくなった。苦痛の中で理性も徐々に失われ、やがてウォト星に住むことになったのだ。
アスラン帝国の市民は、攻撃力の強い猛獣の遺伝子を持つほど、それを制御するための強靭な精神力が求められた。しかし、一度その精神力が制御を失うと、真の野獣と化して理性を失い、最終的には精神力の乱れによる苦痛の中で狂った獣となり、ただ死を待つしかなくなるのだ。
帝国を守るため、戦場で虫族と戦った兵士や将校たちは、精神力が乱れやすい者も多かったが、それでも彼らは皆、帝国の英雄だった。
ウォト星動物園も、そのために存在していた。帝国の英雄たちが、人生の最期の日々を少しでも尊厳を持ち、自由に過ごせるように――そのためだった。
静がパトロールしていたこの地域は、実は帝国内の精鋭たちや王族・貴族が放し飼いにされている、重点保護区域だった。他の地域には、ほかの獣型兵士や一般の将校たちがそれぞれ分布していた。
現在、ウォト星全体は、皇帝の弟であるセイント殿下率いる軍隊によって守られていた。
これらの秘密は、帝国の一般市民でさえ知ることはなかった。ましてや、静のような残存人類には、知るすべもなかった。
一般市民の獣型は比較的攻撃力の低い動物で、精神力の乱れに直面することもほとんどない。そのため、大部分の人々はごく普通に人生を終えることができた。
彼らが不思議に思うのは、なぜ優秀で戦功輝かしい帝国の将校たちが、突然姿を消すのかという点だけだった。外部に伝えられる情報はたいてい「家族の領地で療養中」という内容であり、彼らが二度と公の場に姿を現すことはなかった。
さて、静はセイントに別れを告げた後、ライオンとともに森の中でのパトロールを続けるつもりだった。
彼女はライオンの脚の傷を見て、まだ自力で走らせるのは控えようと考えた。傷口が開いて回復を妨げるといけないからだ。
静は四輪バギーの食料箱からソーセージを一本取り出し、皮をむいて獅子王ペドロの前でひらひらさせた。同時に、そっとライオンの背中を撫でた。
彼女はライオンをそっと誘い、四輪バギーの方へ歩かせた。そして広い後部座席を開き、ソーセージを中に投げ入れた。
ライオンはあきらめたような目をしながら四輪バギーに飛び乗り、ソーセージを咥えて座り込み、そのまま食べ始めた。
ペドロの心の声――「コンビニのソーセージは相変わらずまずいな。さっきの焼き魚のほうが、よっぽど美味しかった」
セイントから、少女はウォト星の秘密を知らないと聞いていた。――まずは普通の動物のふりをして、彼女を驚かせないようにしよう。
静はライオンが頭を傾げながらソーセージを食べる様子を見て、目を輝かせた。
――なんて可愛いんだろう、この星の猛獣は。あまりにも愛らしすぎる。
ちょうどそのとき、静の通信機に見知らぬ番号から着信があった。少し考えたあと、彼女は応答することにした。
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