「わかった、小林奥さんに電話をするわ」
清美は健斗を救える人がいると聞いて、急いで箸を置き、すぐに寝室へ電話を取りに戻った。
こういった情報はたいてい真偽入り混じっていることを彼女は知っている。
この数ヶ月間、彼女たちは確かに多くの詐欺師に遭遇してきた。
しかし健斗のためなら、真偽を確かめている余裕はもうない。
たとえ万分の一の可能性でも、試さなければならない。
「お母さん、急がなくていいよ。先に食事を」傍らの健斗が彼女を引き留めた。
「いいのよ、もう食べ終わったから、ゆっくり食べなさい」
清美は慌ただしく立ち去った。
息子を救えるなら、食事など何でもない。死ぬことさえ厭わないつもりだ。
夕食後、美星は祖母に告げ口をしに行った。
健斗は遥を階段まで送った。「この数日、よく眠れてる?」
「うん」遥はうなずいた。
健斗は顔を向けて彼女を見た。「何か手伝えることはある?」
遥は彼の極限まで蒼白になった唇を一瞥した。「あなたにはもう時間がないわ」
健斗は唇を歪め、顔に気だるげな笑みを浮かべ、何でもないように言った。「まだ一日あるだろう。君を手伝えるには十分さ」
その言葉には、間近に迫った死に対する恐怖や不安が微塵も感じられなかった。
この人はいつもそうだ。まるで生死を気にしていないようだ。
遥もこれ以上何も言わず、直接頼んだ。「高校一年と二年の教科書を探してくれる?」
電子教科書では目が疲れてしまうのだ。
健斗は思わず眉を上げた。高一と高二?
彼女は今年16歳で、入学しても高一のはずなのに、なぜ高二の教科書が必要なのだろう。
「お母さんから聞いたけど、鎮海中学校に行きたいんだって?」
「うん」遥は答えた。
健斗は詳しく尋ねず、直接うなずいた。「わかった、手配する」
ただの学校だ。彼女が月に行きたいと言っても、宇宙船を造ってやれるほどだ。
「必要ないわ。自分で手配済みよ。教科書だけ探してくれればいい」
遥は言い終わると、部屋に入り、振り返ってドアを閉めた。
彼とさらに会話を続ける気配は全くなかった。
自分で手配したって?
この子はますます神秘的になっているな。
閉められたドアを見て、健斗は思わず軽く笑った。本当に情け容赦ないな。
自室に戻った。
電話を取り出して番号をかけた。
電話は一度だけ鳴って、すぐに繋がった。
「うわっ、お前まだ生きてたのか。
えーん、よかった。
「この二日間のお前の身辺整理の様子からして、今日は極楽浄土に旅立つのかと思ってたぜ」
健斗は騒がしさに頭痛がして額に手を当てた。「奥村遥の田舎での過去について調べてくれ」
電話の向こうで、唐沢雅也(からさわ まさや)はようやく泣き真似を止めて、困惑して尋ねた。「あの小娘がどうかしたのか?
「前にも一度調べたじゃないか?」
健斗は書斎の机に歩み寄り、壁にかかった爽やかな松柏の絵を見て、思わず眉をひそめた。
彼の質問には答えず、直接指示した。「高校一年と二年の教科書を全部用意して、明日の朝に松本家に届けてくれ」
雅也は驚いた。「高一と高二の教科書?
「お前、縁起担ぎが感情に発展して、自分も高校に戻って付き添うつもりか?」
「最近暇すぎるのか?」
雅也は即座に三連否定した。「いや、そんなことないよ、誤解だ」
「明日からサハラでの一ヶ月間の体力トレーニングに部隊を率いてくれ」
「くそっ、すまない……」
健斗は冷酷に電話を切った。
隣の部屋にいる彼女のことを考えると、思わず口元が緩んだ。
初めて彼女に会った時から、とても興味をひかれた。
調査資料に記された人物とは全く別人のようだ。
噂されるような悪ぶった様子は微塵もなく、見た目は素直で礼儀正しいが、骨の髄まで生来の冷淡さと距離感を持っている。
どんなことに遭遇しても、表面上は常に冷静沈着だ。
神秘的な能力を秘めている。
彼はとても知りたい。一体どんな経験が、16歳の少女を今のような姿に変えたのか。
階下の寝室で。
玉季は清美に尋ねた。「小林家はなんと言っていた?」
清美は憂いに満ちた表情で首を振った。「小林奥さんによると、あの大師は息子がネットで偶然見つけた人だそうで、今は連絡がとれないとか」
玉季は考え込んだ。「名前は?」
清美はため息をついた。「わからない」
この業界では、皆が師匠や門派に属しているものだ。名前があれば自分たちで探し出せるのに、そうでなければ途方に暮れるしかない。
玉季は手にした湯飲みを置いた。「何の情報もなければ仕方ないわ。ネットで見つけた大師で、名前も何もないなんて、仮に見つかったとしても、本当の実力があるとは限らないわ。
小林家のことは恐らく偶然でしょう。
九条師匠がこの数日で隠遁から出てくるという情報が入ったの。
「常に見張っておいて、何か分かったらすぐに教えて。私が直接お願いに行くから」
この数ヶ月間、彼女は表立って、また裏で、どれほど多くの人に頼んだことか。
最初の婚約による縁起担ぎも、やむを得ない策だった。
望みをすべてそれに託すわけにはいかない。
九条師匠は玄学界で最も徳望のある師匠だが、これまで隠遁していた。
これが彼らの最後の希望だ!
翌朝早く。
健斗は起きて階下に降りた。遥のドアの前を通りかかると、中は静かで、彼女はまだ眠っているのだろうと察した。
無意識に足音を軽くして、そのまま階下へ向かった。
清美もちょうど起きたところで、健斗が降りてくるのを見ると、急いで朝食に誘った。
「蘭子さんがあっさりとしたお粥とおかずを用意したわ。先に少し食べてから行きなさい」
健斗は袖口を整えながら「大丈夫。7時半の飛行機だから、機内で少し食べる」と言った。
清美は、これが単に彼女を安心させるための言葉に過ぎないことを知っていた。
家庭で丁寧に準備された食事さえ食べられないのに、まして味気ない機内食など言うまでもない。
仕方なく言った。「いつもそんなに忙しくしないで、体が一番大事よ」
「わかってる」健斗は答えた。
清美は彼の考えを理解している。
これまで松本家は常に頂点に立ち、輝かしい存在だが、それゆえ周囲には妬みの目も多い。
今、彼の前途は未知で、いつ命を落とすかもわからない。
松本家を狙う多くの目が周りに潜み、彼が倒れる日を待って分け合おうとしているのだ。
彼はすべてを事前に処理、手配し、たとえ自分がいなくなっても、松本家が百年先も安泰であるよう保証しようとしている。
彼女は心を痛めるが、健斗は常に言ったことを曲げない人で、どうすることもできない。
ため息混じりに言った。「何も分かってないんだよ。
人にはそれぞれ運命があるのよ。お母さんを安心させたいなら、もっと自分自身のことを考えなさい。
「それに、遥がようやく来たばかりなのに、家にいて少し彼女と時間を過ごしたらどうなの」
健斗が遥が起きるまで待ってから出発すればいいのに。そうすれば、あの子は彼に朝食をもう少し食べさせられるかもしれないのに。
健斗の出て行く背中を見ながら、清美はついに涙ぐんでしまった。
彼が出かける度に、それが永遠の別れになる可能性があった。
しかし母親として、彼女にはどうすることもできない。
もし可能なら、彼女は自分の命と松本家のすべてを差し出して、健斗の無事と引き換えにしたいと思う。
……
健斗は車に乗り込むとすぐに、隣にあるパソコンを取り出してメールの処理を始めた。
「空港へ」
「はい、健斗様」運転席の百里は応え、車を静かに発進させた。
車が古い街並みを通過する時、百里は突然、遠くに見覚えのある姿を見つけた。