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21.05% 夫の「死ね」から始まる家の復讐 / Chapter 4: 第04話:奪われた聖域

Capítulo 4: 第04話:奪われた聖域

第04話:奪われた聖域

[氷月雫の視点]

かえでからの電話を切ったのは、昨日の夜だった。

「一緒に住まない?最期まで一人なんて、そんなの寂しすぎる」

優しい申し出だった。でも、断った。

もう誰にも迷惑をかけたくない。一人で静かに消えていきたい。

体の痛みは、日を追うごとに激しくなっている。昨夜も、ほとんど眠れなかった。

携帯に通知が入る。

綾辻玲奈からのメッセージだった。

最近、頻繁に送られてくる。刹那との旅行写真、二人で食事をしている写真、そして......刹那の寝顔まで。

以前なら、胸が引き裂かれるような思いをしただろう。

でも今は、不思議と何も感じない。

心が麻痺してしまったのかもしれない。

でも、今日送られてきた写真は違った。

見覚えのある玄関。見覚えのある庭。

私と刹那が、初めて手に入れたマイホーム。

あの思い出の家だった。

『私と刹那が昔住んでいた、あの思い出の家♡』

メッセージの文字が、目の前で踊った。

手が震える。

なぜ、玲奈があの家にいるの?

すぐに、次のメッセージが届いた。

『プレゼント。』

嫌な予感が、背筋を駆け上がった。

刹那の番号を押す。

『おかけになった電話番号は......』

着信拒否。

何度かけても、同じ音声が流れる。

いても立ってもいられなくて、タクシーを呼んだ。

「お急ぎですか?」

運転手が心配そうに聞いてくる。私の顔が、よほど青ざめているのだろう。

「はい......急いでください」

車窓から流れる景色を見つめながら、あの家のことを思い出していた。

結婚して二年目。刹那の会社がようやく軌道に乗り始めた頃、二人で必死に探した家。

「ここがいい」

刹那が笑顔で言った。

「雫と一緒なら、どこでも天国だ」

そう言って、私の手を握ってくれた。

小さな庭で、二人でバラを植えた。リビングで、夜遅くまで将来の夢を語り合った。

あの家は、私たちの愛の証だった。

タクシーが到着した時、目の前の光景に言葉を失った。

玄関が開け放たれ、工事業者が出入りしている。

家具が次々と運び出されていく。

私たちの思い出が、ゴミのように扱われている。

「やめて!」

思わず叫んでいた。

「やめてください!」

でも、誰も振り返らない。

作業は続いている。

私は家の中に駆け込んだ。

リビングの壁紙が剥がされ、床材が引き剥がされている。

あの頃の面影は、もうどこにもなかった。

「お客様、危険ですので」

作業員の男性が、私を制止しようとする。

「この家は......この家は私の......」

言葉にならない。

震える手で、刹那の番号を押す。

一回目、二回目......十数回目にして、ようやく繋がった。

「何だ」

冷たい声だった。

「刹那......あの家、どうして......」

「ああ、あの家、リフォームしてる」

悪びれる様子もない。

「玲奈が住みたいって言うから」

頭の中が、真っ白になった。

「そんな......」

「何か問題でもあるのか?」

問題?

問題があるに決まってる。

あの家は、私たちの......

でも、言葉が出てこない。

電話が切れた。

作業員たちが帰っていく。

私は一人、荒らされた家の中に取り残された。

壁に背中を預け、その場に座り込む。

時間の感覚がなくなった。

陽が傾き、やがて暗くなった。

それでも、私はそこにいた。

刹那が来るのを待っていた。

深夜1時近くになって、車の音が聞こえた。

刹那だった。

そして、助手席から降りてきたのは、綾辻玲奈。

「なんでこんなことするの」

私は立ち上がり、刹那に詰め寄った。

刹那は何も答えない。

「あらあら」

玲奈が家の中を覗き込む。

「もうこんなに壊しちゃってたんですね」

口元に、薄い笑みを浮かべている。

「すみません、雫さん。私がお願いしちゃったから」

わざとらしい謝罪。

でも、その目は嘲笑に満ちていた。

「この家が欲しい?」

私の声が震えた。

「いいか、はっきり言ってやる」

「絶対に渡さない」

玲奈の表情が、一瞬歪んだ。

「雫さん......」

「黙って!」

私は玲奈を突き飛ばした。

玲奈が壁にぶつかり、腕に擦り傷を作る。

「きゃあ!」

「雫!」

刹那が激昂した。

「たかが家ひとつで。今度は暴力か?」

たかが家?

たかが家ですって?

「狂ってきてるな!」

刹那の声が、私の名前を呼んだ。

「雫」

冷たく、軽蔑に満ちた声で。

「この家は、俺が金を出して買った家だ。どうしょうが俺の自由だ」

胸に、氷の刃が突き刺さった。

「それと、勘違いするなよ」

刹那の目が、私を見下ろしている。

「今、お前を養ってるのは誰だと思ってる?」


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