なぜプレゼントが五つ星ホテル一棟なのだろう!
しかも、多種多様な有名な事業が全部彼女の名義になっている。
一夜にして億万長者になった気分だ。
そしてこの件は完全な誤解た。
橋本家は深市では誰もが認める第一の名門だ。もし軽率に資料を公開すれば、必ず多くの不要なトラブルを引き起こすだろう。
メディアの捏造はともかく、橋本家の財産を狙った詐欺まがいの行為も起き、仕事量が増えるだけでなく時間の無駄にもなる。
「だから資料を修正して公開しようと思ったの。奈々!君が過去にどんな生活をしていたにしても、これからは俺たち橋本家の宝物よ!何が欲しいか言って、お父さんもお母さんもどんな代価を払ってでも君の前に捧げるわ!」
橋本美月は思った。「……」そこまでしなくていい。
18年間会っていなかったが、橋本の母は生まれつき楽観的で、橋本の父は妻を甘やかすタイプなので、病室の雰囲気はまあまあ和やかだ。
美月は機会を捉えて父を診察し、状態は昨日よりずっと良くなっていて、あと二日鍼灸と薬を続ければ回復すると判断した。
橋本の父は目をわずかに光らせた。「君は医学を学んだのか?」
美月は鍼を片付ける動作を一瞬止めたが、表情は変わらなかった。「少し学んだ」
これまでずっと賢明だった橋本の父は彼女が多くを語りたくないことを見抜き、すぐに話題を変えた。
彼女が加藤家の妻の姓を継いでいたことを知り、それもまた縁だと思った。「君の以前の名前は橋本希美(はしもと きみ)だったが、元に戻したいか?」
美月は首を振った。「名前はただの呼び名で、面倒なことはしなくていい」
橋本の父は彼女の決断を尊重し、強要しなかったが、心の中では娘の名義でさらに数軒の邸宅を買い与えようと考えていた!
美月が繰り返し強調した結果、一晩寝ずに付き添おうとする橋本の母を帰らせ、鍼灸治療を終えて休息が必要な橋本の父を見送り、やっと吉田を呼び入れた。
彼女は食事をしながら吉田からの業務報告を聞いた。
要するに橋本家に危険性があるか、周囲の環境が安全かどうかということだ。
新しい場所に行くたびに、吉田は短時間でくまなく調査し、一片の隙も見逃さない。美月はそれにもう慣れている。
彼女は口を拭き、満足げにお腹をさすった。「この数年分の休暇を全部申請しておいて」
吉田は驚いた。「全部ですか?」
美月は手を振り、彼を追い払った。「そう、行って」
ちょうど一つのプロジェクトが完了し、手持ちの仕事もなく、しかも両親も見つけたので、ゆっくり付き添って休息するのがいいと思った。
吉田は頭がしびれるような感覚になった。長期休暇となれば、常に目を光らせていないといけない。
計算してみると、人手が足りないことに気づき、応援要請の報告をあげなければならない!
美月は足を組んで座り、特製の梨の木の箱を整理していると、益気丸が一つ足りないことに気づいた。
彼女は頭をかきながら、何に使ったか思い出せなかった。
必死に思い出そうとしていたとき、電話が鳴り、それが彼女の記憶を呼び覚ました。
「美月!明日朝10時に、昨日のものをあと3箱用意してキミヒコホテルに持ってきなさい!部屋番号は送っておくわ!時間通りに持ってくるのよ!さもないと……」
美月は電話を遠ざけ、まばたきひとつせずに電話を切った。
そしてブロックから削除まで一連の操作を実行した。
静かに薬丸を一方に分類しなおした。
しばらくすると、また着信音が鳴り、また晴香だ。
「美月、このあまっちょろめ!よくも私の電話を切るわね!調子に乗って……」
パチン。
美月は再度ブロックし、マナーモードに設定した。見ない聞かないが一番だ。
しかし、彼女は晴香の執着心を甘く見すぎていた。今度は別の番号からメッセージが送られてきた。
今回は美月の興味を引いたが、かけ直すとどうしても繋がらなかった。
美月の目が少し曇ったが、ふと視線をずらすと、今しがた手に入れたホテルと晴香が送ってきた住所が一致していることに驚いた。
彼女は眉を上げ、目に笑みが広がった。
加藤家。
「なんで電源切るのよ!彼女が電話してきたら聞こえなくなるじゃない!」
加藤岳人(かとう がくと)は非常に不機嫌だ。自分の娘が勝手に美月の実の両親を探し出したなんて思いもしなかった。
もしあの件が発覚したら、彼らは一家揃って終わりだ!
晴香は首をすくめ、父がなぜそんなに怒っているのか理解できなかった。美月の実の両親を見つけてあげるのはいいことではないのか?
これで彼女が食い込んでくる心配もない。
しかし、父はそれを知ると彼女を厳しく叱っただけでなく、美月に戻ってきて欲しいとまで言うのだ。
なぜなら美月がくれたものは琥珀閣製の高価な薬丸だからだ!
あの日、彼女はそれをゴミと間違えて捨てるところだった!
幸い父が帰ってきて間に合い、検査に出した!
残念なことに、全部で5つあった薬のうち、彼女は3つを台無しにしてしまい、益気丸と生肌丸しか残っていない。
しかし、佐々木家とのコネクションを確保するためには美月に頼むしかない。彼女を戻らせる?
夢でも見てるの!
翌日、キミヒコホテル。
晴香はすでに廊下で待ちくたびれていた!
約束の10時だというのに、もう10時5分だ!美月はまだ来ないのか?
来ないんじゃないだろうな?
だめだ!今日はやっと佐々木家の三男がここに滞在しているという情報を得たのだから、絶対に失敗はできない!
晴香は何度も電話をかけたが話し中で、待ちくたびれていたところに、美月がようやく姿を現した。
彼女を見るや否や、晴香は文句を言う暇もなく、彼女のバッグを見てそれを奪おうとした。
「あっ——」
短い悲鳴が静かな廊下に響いた。
晴香は痛みで膝をつき、美月に捕まれた歪んだ姿勢で倒れた。
美月の目の奥に暗い光が走り、彼女を見下ろした。「朝早くからこんな大げさな挨拶をするなんて、どうかと思うわ」
晴香は腕の激痛をこらえながら恨めしそうに言った。「このあまっちょろめ!よく私を殴れるわね?鉄砲玉を食ったの?自分の姓がなんなのか忘れたの?」
美月は冷笑した。「私の姓のことはあなたが心配することじゃない。私のものもあなたに預ける必要はない。無駄話はやめて、物を出しなさい!」
「私を殴っておいてまだ物が欲しいの?夢見てるの!家に帰ったら、あのババアが残したくだらないものを叩き壊して燃やしてやるわ!それに……」
美月は空いた手で精巧に彫刻された木箱を軽く振って、笑みを含んだ目で言った。「それに?どうするつもり?」