ネイルが終わった。
彼女たちはその後スパを楽しんだ。
小林美咲を送った後、時田詩織はある美容室に入った。
美容師は彼女の腰まで届く長い髪を見た。
「全部切るんですか?残念ですね。こんなに長く伸ばすのって難しいのに」と惜しそうに言った。
髪は濃くて黒く、艶やかで柔らかかった。
とても美しい黒髪のロングストレートだった。
手入れが行き届いているのが見て取れた。
詩織は鏡に映る自分を見つめた。
艶のある黒髪、雪のように白い肌、優しげな淡い黄色のワンピース、化粧っ気のない素顔なのに驚くほど美しい顔立ち。
まるで咲き誇る百合のようだった。
純粋で、美しく。
攻撃性のかけらもない。
彼女は穏やかに微笑んだ。
「切りましょう」
腰まである長髪は山田拓也が好きだったものだ。
詩織が好きなものではなかった。
美容師は「はい」と返事をして、ハサミを動かし始めた。
チョキチョキという音と共に、床には黒い髪の毛が散らばっていった。
あたかもこの数年間、彼女を縛り付けていた足かせが解かれるかのように。
しばらくして。
詩織は鏡の中の見違えるような自分を見て、少し微笑んだ。
「確かにこのヘアスタイルの方が似合いますね!とても素敵です!」
美容師は感嘆して言った。「カラーやパーマもすると更に良くなりますよ。一緒にやりませんか?こちらをお勧めします、見てみてください……」
詩織は横に置かれた案内を見て、手でお腹に触れた。
「また今度にしましょう。今日はもう遅いので」
詩織は言った。
美容師は残念そうに首を振った。
だが詩織は微笑んで「次回はまたあなたにお願いします」と言った。
この美容師は確かに腕が良かった。
「約束ですよ!」美容師はすぐに明るい表情になり、手帳を取り出して尋ねた。「大体いつ頃いらっしゃいますか?」
詩織は自分のお腹を見た。
「一週間後でしょうか」彼女は静かに言った。「その頃にはちょうど良いはず……最大でも20日後には」
もし流産後に小さな産後ケアが必要であれば。
「わかりました、必ず来てくださいね」美容師は詩織が帰るのを見送りながら言った。
詩織は笑顔で頷いた。
新しいヘアスタイルになって店を出た後、彼女は近くにあるA市の中心部のSKPモールに向かった。
そこには高級ブランドが立ち並んでいた。
彼女は自分の着ている優しげで甘い雰囲気の服を見て、皮肉っぽく笑った。
優しくて甘い雰囲気は拓也が好きだったもの。それは従順さの象徴だったからだ。
しかしそれは詩織自身が好きなものではなかった。
モールに入った。
様々な店を回り、出てくるときには手に何袋かの買い物袋を持っていた。
タクシーで家に帰った。
詩織は買い物袋を持って家に戻った。
新しい家、新しい環境、一人で暮らす新しい日々を見つめる彼女の表情に、喜びも悲しみも見えなかった。
優しげで甘い雰囲気の服を脱ぎ捨て、ヴァレンティノのデザイン性のあるセットアップに着替えた。
キャンバスバッグを脇に置き、シャネルのチェーンバッグを手に取った。
ウェッジソールの靴を脱ぎ捨て、ディオールのポインテッドトゥのローヒールに履き替えた。
鏡に映る自分を見つめていた。
彼女は唇を軽く開き、「詩織、新生おめでとう」と言った。
しかし鏡の中の自分には笑顔がなかった。
彼女は口角を上げようとしたが、自分自身さえ騙せないほど虚ろに感じた。
7年間。
傷ついていないと言えば嘘になる。
笑いたくないのなら笑わなくてもいい。
詩織は深くため息をついて、明日の準備を始めた。
新しいスタートを切ると決めたのだから、きちんとやろう。
明日はまず病院に行き、それから阿部敦也と音楽番組について話し合おう。
……
翌日はすぐにやってきた。
詩織は車で病院に向かった。医師との予約は既に取ってあった。
だが病院の駐車場に入る前に、阿部敦也から電話がかかってきた。
阿部敦也はA市最大のエンターテイメント企業「阿部制作」の社長であり、山田氏と並ぶ大企業・阿部氏を背景に持つ実力者だった。
阿部敦也は阿部家の三男で、現在はエンターテイメント部門を担当している。
詩織が以前リリースした曲は阿部制作のレーベルからだった。
その後結婚してからは、拓也から山田お爺さんの世話を頼まれ、お爺さんの余命が長くないことも知っていたので、彼女は表に出ることをやめた。
しかし敦也は彼女の才能を惜しみ、「玲」というシンプルな名義で作曲や作詞を続けさせ、曲を売ることでも業界内での知名度を維持し、将来業界に戻りたくなった時にスムーズに戻れるようにした。
拓也との関係で、詩織は阿部制作との間で守秘義務契約を結んでいた。敦也が直接対応したその契約だった。
「玲」の正体が詩織であることは二人だけの秘密となっていた。
当時の詩織は拓也との結婚の喜びに浸っていて、それほど気にしていなかった。
だが思いがけないことに、言葉が現実になった。
考えながら、詩織は路肩に車を寄せ、敦也からの電話に出た。
「阿部会長?」詩織は訝しげに口を開いた
商談の時間は確か午後のはずだった。
「玲、今すぐ会社に来ることはできないかな?」敦也のやや煩わしげな声が聞こえてきた。
詩織は何かがおかしいと鋭く感じ取った。
敦也が彼女を「玲」と呼んだからだ。
普段、二人きりの時にはそんな呼び方はしない。
「何かあったんですか?」詩織は具体的に尋ねた。
既に医師との予約があるので、緊急でなければ予定を変えたくなかった。
「君の最新の曲を買いたいという人がいるんだ」敦也の声にはまだ躊躇いがあった。「ちょっと来てもらえないかな」
詩織は眉をしかめた。
彼女はさらに不思議に思った。
「あなたの判断にお任せします」と彼女は言った。
以前書いた曲はすべて阿部制作に直接渡して管理を任せていた。敦也はエンターテイメント業界の大物社長なのだから、こんな小さなことで彼女にわざわざ電話をするはずがない。
「買い手がちょっと特殊でね」
敦也が再び口を開いた。
最後に、彼はある決意を固めたようで、言った。「山口美穂が君の曲を買いたがっている」
え?
詩織は驚いた。山口美穂はフラワーアレンジメントの専門家ではなかったか?
曲を買って何をするつもりだろう?
詩織が再び尋ねる前に、敦也は続けた。「状況はやや複雑なんだ」
「実は彼女が買いたいと言った時、僕は断ったんだけど、彼女が直接会社に来てね、そして側には……」
敦也は少し言葉を切って、続けた。「山田拓也が付き添っていて、二人は意気込んでいるんだ」