Capítulo 6: 君が石のように冷たく硬いと言われている
Editor: Inschain-JA
「人間じゃない」――清葉は歯を食いしばり、怒りと悔しさで全身を震わせた。
「獣みたいな男だって、もう分かっていただろう？」岩田彰人は冷ややかに笑い、彼女の美しい頬にそっと触れた。花びらのように薄く、淡いピンクの唇を一瞬見つめる。目がわずかに暗くなったが、すぐに理性を取り戻して視線をそらした。
「木下執事、五嬢さんの以前の部屋を整えておけ。明日から彼女はここに住む」そう命じると、彰人はゆったりとした足取りでその場を去った。
清葉は岩田邸から飛び出し、鉄の門を勢いよく閉めた。胸が苦しく、息が乱れた。バッグを抱きしめたまま、震える手で中身を全部地面にぶちまけ、鉄の小箱を探した。
一本のタバコに火をつけ、深く吸い込んだ。ようやく呼吸が整った。この数年で心は石のように冷えきっていたはずなのに、彰人と向き合うと、まだ痛みがあった。黒い血がにじみ出るような、鈍い痛み。
「笑っちゃうよね……」清葉は小さくつぶやき、かすれた声で笑った。笑うほどに涙がこぼれ、頬を伝った。
彼女が立ち上がったその瞬間、前方から四駆の強烈なライトが照らしつけた。次の瞬間、タイヤが悲鳴を上げ、男の低い罵り声が響いた。「くそっ！」
小川晃（おがわ こう）は、車を曲がったところで道の真ん中に人影を見つけた。両脇のプラタナスの枝葉が茂り、路灯の光をほとんど遮っていた。
車の性能が良かったおかげで、何とか間に合った。それでも心臓が跳ね上がり、冷や汗が背を伝う。晃は慌てて車を降りた。地面に座り込む原田清葉がいた。細く白い指先に細身のタバコを挟み、黒く波打つ長い髪は夜の闇に溶けるよう。虚ろな瞳のまま、周囲に散らばった荷物を見つめていた。
タバコの火がかすかに明滅していなければ、晃は美しい幽霊でも見たのかと本気で思っただろう。
「お嬢さん、大丈夫ですか？」
清葉はゆっくりと顔を上げた。ナンバープレートのないハマーを一瞥し、男の黒い軍靴から顔をたどると、精悍な目元と視線がぶつかった。タバコを指でつまんで消し、無表情のまま手を差し出した。「轢いたでしょ。治療費と精神的損害で100万円」
晃は雷に打たれたように固まった。数秒後、彼女を上から下まで眺めてから、口の端を上げて笑った。
「一ヶ月千万円でどうだ？私と来い」
清葉は冷たく鼻を鳴らし、地面に散らばった物を無造作にバッグへ詰め込み、立ち上がった。足を引きずりながら、振り返ることもなく歩き出した。
「おい、本当に考え直さないか？１千600万円でもいいぞ」晃は愉快そうに笑い、興味深げに彼女の背中を見送った。清葉の姿が闇に消えると、残念そうに息を吐いた。――あんな美人、しかも性格まで特別なんて、滅多にいないのに。
晃はハマーを路肩に寄せ、興奮気味に彰人へ電話をかけた。「叔父さん、早く門を開けてくれ！七五年もののマサンドラ・シェリーを持ってきたぞ！」
電話の向こうで無言のまま切られる音がした。五分後、木製のスリッパの音がして、浴衣姿の彰人が鉄の門を開けた。どうやら風呂上がりらしく、髪は濡れたまま無造作に垂れ、整った顔立ちにはいつもの険しさが消え、どこか柔らかさがあった。
彰人は人気のない道路を一瞥し、目を細めた。そして、いかにも企み顔の晃を見て、嫌そうに言った。「酒は置いていけ。お前は帰れ」
晃はにやりと笑い、素早く岩田邸の中へ滑り込んだ。「叔父さん、今夜はここに泊まるぞ。それと、さっき買ったハマー、お前の名義で登録したからな。じいさんにカードを止められちまって、助けてもらうしかないんだ」
彰人の顔は一瞬で曇った。プラタナスの木陰に、傾いて停められた黒いハマーを見つめ、あの無鉄砲な小川家の若造を叱ってやりたい気持ちがこみ上げた。だが、その気力すら湧かなかった。今夜はもう十分に最悪だった。――なにせ、原田清葉が戻ってきたのだから。
彰人は長い指で眉間を押さえ、深く息をついた。五年という歳月を経て、彼女はついに帰ってきたのだ。
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