跳ね上がる水しぶきが、彼の顔に飛び散った。
「斎藤彰人」私は彼の惨めな様子を見つめ、一言一言はっきりと言った。「この婚約パーティーは、私からの解散会だと思って。」
「これからは、あなたと『令嬢の鑑』は、しっかり閉じ込めておいて、二度と私を不快にさせないでね。」
言い終えると、私は踵を返して歩き始めた。
振り返りもしない。
会場中の驚きと、あの不義理な二人の面目丸つぶれの顔を、すべて後ろに置き去りにして。
宴会場を出た瞬間、足がふらつき、地面に倒れそうになった。
壁につかまり、大きく息を吸った。
涙が、情けないことについに流れ落ちた。
婚約パーティーでの決別が終わりだと思っていた。
だが、あれは始まりに過ぎなかった。
彰人と同棲していた別荘から引っ越し、彼の連絡先をすべてブロックした。
父はそのことで激怒し、電話で私を徹底的に罵った。
「加藤美桜!生意気になったな?婚約パーティーを台無しにするとは!斎藤彰人が今、我が加藤家にとってどれほど重要か分かっているのか!」
電話越しに父の怒号を聞きながら、私は可笑しくなった。
「お父さん、彼が加藤家にとって重要なの?それとも、あなたのあの怪しい商売にとって重要なの?」
電話の向こうは沈黙した。
私は電話を切った。
丸一週間、アパートに引きこもり、誰にも会わなかった。
悲しくて、生きるのも辛くなるだろうと思っていた。
でも実際は、最初の怒りと屈辱を除けば、解放感の方が強かった。
五年間重い枷を背負って歩いてきた人間が、ようやくその重荷を下ろしたような感覚。
体中が痛むけれど、呼吸は自由だった。
唯一気がかりなのは、祖母のことだった。
祖母は、この家で私を本当に大切にしてくれる唯一の人だった。
母は早くに亡くなり、父は私を加藤家に引き取ったものの、まともに見向きもしなかった。祖母が私を側に引き寄せ、少しずつ育ててくれたのだ。
体が弱く、ずっと郊外の古い屋敷で静養していた。
彰人との破局を伝える勇気が出なかった。
この五年間、彰人を連れて祖母に会いに行くたび、祖母は嬉しそうに笑い、彰人の手を取って言っていた。「私たちの美桜は小さい頃から苦労してきたのよ、これからはしっかり彼女を大切にしてね。」
彰人はいつも完璧に演じていた。頭を下げ、実の孫より従順に振る舞っていた。
今思えば、すべて演技だった。
どうやって祖母に切り出そうか悩んでいたところに、電話がかかってきた。
篠原悠真からだった。
大学では監督を専攻していて、悠真は先輩で、今は少し名の知れたフリーランスの撮影監督だ。
「美桜、ちょうど仕事を受けたんだ。都市の変遷についてのドキュメンタリーを撮るんだけど、助監督が足りなくて、やってみない?」
私は言葉を失った。
卒業後、彰人を手伝うために専門分野を諦め、彼の会社に入って名ばかりの職に就き、実質雑用係だった。
もう長いこと、カメラに触れていなかった。
「私...無理かもしれない」と躊躇いがちに答えた。
「無理かどうかは俺が決める」悠真は電話越しに明るく笑った。「決まりだ。明日朝9時、城西の旧市街で会おう。資料は送っておく。」
断る隙も与えず、彼は電話を切った。