孫瑞明(そん ずいめい)は当然、彼なりの計算があった。いくつかのことは焦っても仕方がないと分かっていたのだ。楚(そ)家のおじいさんはもういないが、古くからの友人たちはまだ健在で、当面の間は楚芸一(そ うんいつ)の様子に注目が集まるはずだ。
それに、彼には私心もあった。自分が動いて、他の家族に美味しい思いをさせるなんて、冗談じゃない。「二嫂(にそう)、この件は焦っちゃいけない。」
そばにいた孫暁燕(そん ぎょうえん)も黙っていない。「三哥(さんにい)、今は誰も止めないんだから、早く芸一に頼んで、私の仕事の譲渡手続きを済ませてよ。手続きが終わらないと、不安で仕方ないの。」
孫瑞明は今回は素直にうなずいた。「わかった、明日彼女に会って、時間を作って手続きを一緒にしてもらうように言うよ。」
それを聞いて孫暁燕は大喜びした。「三哥、大好き!」
そして思い出したように付け加えた。「手続きさえ終われば、もう街道の委員会に田舎に行けって言われる心配もないわ。」
この一言に、部屋の中の皆はそれぞれに思うところがあった。
芸一は空間の中でその会話をすべて聞いており、冷たい笑みを浮かべた。よくそんな甘い夢が見られるわね。もうすぐ笑えなくなるわよ。
夜が更け、孫家の人々は、40平方メートルのスペースに仕切られた4つの部屋でそれぞれ休んだ。
外が静かになったのを確認し、芸一は空間から出た。
この身体は武功の基礎がないとはいえ、前世2回分の武術の経験があるので、睡眠のツボを押すくらいは簡単だった。
暑さと狭さのため、各部屋の扉は開け放たれており、それがかえって芸一には都合がよかった。
芸一は一人ずつ孫家の人々の睡穴(すいけつ)を押し、各部屋から見つけた現金や配給券を空間にしまい込んだ。後で物資に換えて郊外の福祉施設へ寄付する予定だ。
今夜わざわざ動いたのは、将来孫瑞明を始末する際、孫家に彼を救い出す余力を残させないため。
その後、値打ちのある品すべてに細工を施し、ほどなくして次々に使い物にならなくなるようにしておいた。
自分の「作品」を見て、満足げに手を叩き、静かに家へと戻っていった。
家に戻ったのは、すでに夜中の後半だった。空間に対する好奇心は尽きなかったが、明日は大事な用事がある。まだ時間はたっぷりあるのだから、今日はまず休むことにした。
原主のためにあのクズどもを片付けてから、ゆっくりと空間の秘密を探っても遅くはない。
ただ、横になった瞬間、空間内の石と石の隙間——あの幅や大きさがバラバラな隙間に、何か作物を植えられないかと思いついた。
どうにも気になって仕方がなく、試してみることにした。ちょうど明日には結果が見られるかもしれない。
家には種がないが、物置に華万青(か ばんせい)が以前持ってきたスイカがあったのを思い出し、立ち上がって物置へと向かった。
スイカの種を取り出し、壁に掛けてあった楚家の老爺が薬草を掘るために使っていた小さなスコップも手に取った。農具代わりにするつもりだった。
空間の中の井戸のことを思い出し、さらに別の考えが浮かぶ。
棚から綺麗な瓶詰用のガラス瓶を取り出し、水道水をいっぱいに入れ、それも一緒に空間へ持ち込んだ。
空間内での農作業など、彼女にとっては朝飯前だ。
本来、スイカの種は一晩水に浸してから撒くべきだが、そこまで気にしている暇はなかった。彼女はそのまま穴を掘り、種を撒き、水をかけた。片方には外から持ち込んだ水を、もう片方には空間の井戸水を。後でどんな違いが出るか楽しみだった。
全て終えると、空間から出てきた。もう少しでも休まなければ、夜が明けてしまう。
場面転換——沈(しん)家
沈家の書斎では、まだ灯りがともっていた。机の向こうに座る男は、顔を険しくしていた。
「顧家(こけ)、本気でうちと全面戦争する気か。」
「家主、今回の件では、華家(かけ)も密かに彼らをかなり支援していたようです。」
「なんという無礼な……。以前、顧西北(こ せいほく)に医者を紹介した時点で、すでに我が沈家に逆らっていたというのに。今や堂々と顧家の肩を持つとは。華家というのは、本当に空気が読めん連中だな。」
(この章終わり)