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19.23% 星をくれた夫との偽りの契約 / Chapter 5: 第5話:崩れ落ちる信頼

Capítulo 5: 第5話:崩れ落ちる信頼

第5話:崩れ落ちる信頼

[氷月詩織の視点]

「きゃああああ!」

美夜の悲鳴が階段に響き渡った。

咄嗟に手を伸ばす。美夜の服のボタンに指が引っかかり、プラスチックの小さな音と共に弾け飛んだ。

でも、美夜の体は止まらない。階段を転がり落ちていく。

「美夜!」

角の向こうから怜の声が響いた。足音が駆け寄ってくる。

美夜は階段の途中で止まり、うつ伏せに倒れていた。動かない。

「何をした!」

怜が現れるなり、私の肩を掴んで激しく揺さぶった。

「違う、私は——」

「詩織が突き落としたのか!」

問答無用で私を突き飛ばす。背中が壁に激しくぶつかり、息が詰まった。

怜は美夜の元へ駆け寄り、優しく抱き起こす。

「美夜、大丈夫か?意識はあるか?」

「う……うん……」

美夜がかすかに目を開ける。でも、その瞳には意識がはっきりと宿っていた。

「詩織を……責めないで……」

か細い声で呟く。

「彼女はただ……雫のことが、あまり好きじゃないだけ……」

巧妙な言い回し。まるで私が嫉妬から美夜を突き落としたかのような印象を与える。

「詩織!」

怜の怒声が響く。

「美夜に何もなければいいが……そうじゃなかったら、ただじゃ置かないからな」

脅迫めいた言葉を投げつけ、怜は美夜を抱えて階段を駆け下りていった。

一人残された私は、壁にもたれかかったまま動けずにいた。

----

騒ぎを聞きつけた院長が、息を切らせて駆けつけてきた。

「氷月さん、大丈夫ですか?」

院長は詩織を助け起こそうと手を差し伸べたが、何も言わずに立ち尽くしていた。明らかに事態を把握しかねている様子だった。

「手のひらから血が出てますね」

院長が心配そうに言う。

「大丈夫です」

詩織は立ち上がろうとしたが、膝が震えて思うように動かない。

----

[氷月詩織の視点]

手のひらを見ると、壁にぶつかった時にできた擦り傷から血が滲んでいた。

「院長」

私は震える声で言った。

「私、ボランティアを何年もしてきましたよね。あなたとは……もう友達だと思っていたのに」

院長の表情が曇る。

「氷月さん……」

「なぜ何も言ってくれないんですか?私が美夜さんを突き落としたと思ってるんですか?」

「それは……現場を見ていないので……」

日和見的な態度。誰の味方もしない、安全な立場を選んでいる。

「雫ちゃんは影宮さんによく懐いているんですよ」

院長が話題を変えようとする。

「影宮さん?」

「ええ、怜さんのことです。雫ちゃん、『パパ』って呼んでるんです」

胸に鋭い痛みが走った。

雫は既に怜を父親だと認識している。私の知らないところで、既に家族として成立していたのだ。

「そうですか」

力なく呟いて、私は院長室を後にした。

車に向かう足取りは重く、まるで鉛を引きずっているようだった。

運転席に座り込み、ハンドルに額を押し付ける。

5年間。

5年間も騙され続けていた。

スマートフォンを取り出し、連絡先を開く。

5年間、一度も連絡していなかった番号。

夜刀神(やとがみ)刹那(せつな)。

元婚約者。

指が震えながら、通話ボタンを押した。

「もしもし」

低く落ち着いた声が響く。変わらない声だった。

「刹那」

「詩織か」

驚いた様子もない。まるで私からの連絡を予想していたかのような口調だった。

「あなたと私の婚約、まだ有効なの?」

単刀直入に尋ねた。

「人妻じゃないか」

皮肉っぽい笑いが聞こえる。

「愛人を探すなら、俺は適任じゃない」

「答えて」

「詩織——」

私は一方的に電話を切った。

車を路肩に停め、頭を抱える。

その時、スマートフォンにメッセージが届いた。

美夜からだった。

『詩織、五年間の影宮の正妻の生活って、どんな気分?』

メッセージと共に、GIF画像が送られてきた。

怜が美夜の靴紐を結んでいる動画。

優しく、愛おしそうに。

私には一度もしてくれたことのない仕草だった。

「もう……限界」

涙が溢れ出した。

その時、再び電話が鳴った。

刹那からだった。

「もしもし」

「ちょっと気をつけてれば、住民票が偽物だってもっと早く気づけたはずだよ?」

心臓が止まりそうになった。

「あなた……知ってたの?」

「5年前から」

淡々とした口調。

「なぜ教えてくれなかったの?」

「君が選んだ道だ。俺に止める権利はない」

しばらく沈黙が続いた。

「詩織」

刹那の声が優しくなった。

「有効だ。ずっと有効のままだ」

「え?」

「俺と君の婚約は、永遠に有効って意味だ。君さえ望めば、俺はいつでも。詩織の正式な夫になる準備ができている」

胸の奥で、何かが温かくなった。

「本当に?」

「嘘をつく理由がない」

「会える?」

「いつでも」

「来週の月曜日」

「場所は?」

私は迷わず答えた。

「潮ノ宮の市役所前で」


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