粗い息遣いが次第に大きくなり、広々とした豪華スイートルームに響き渡っていた。
その間に、女性の軽い吐息と甘い声が混ざり合っている。
どれくらいの時間が経ったのか分からないが、荒い息遣いと甘い声も止み、ベッドの揺れる音も聞こえなくなった。寝室全体が異常なほど静かになった。
国分隼人は慎重にシルクの掛け布団を女性の体にかけ、自分は破れたボタンのシャツを着てベッドの端に腰を下ろした。
彼はズボンのポケットからタバコを取り出し、一本に火をつけた。
シーツに残った紅い花を見ながら、隼人は煙の輪を吐き出し、苦々しく笑った。その表情には罪悪感と困惑が混ざっていた。
彼は夢にも思わなかった。ただのボディガードの面接に来ただけなのに、思いがけず雇い主の小林大嬢様と寝てしまうなんて。
確かに相手から誘われたのであり、自分も媚薬を飲まされて理性を失っていたのだが。
何より重要なのは、小林大嬢様が初めてだったということだ!
「隼人よ、隼人!お前は本当に馬鹿だな!」
隼人は頭を振り、言い表せないほどの重苦しさを感じていた。
彼は小林大嬢様に申し訳ないことをした。そして何より、自分の彼女である木村愛美に対して申し訳なかった。
「リンリンリン!」
そのとき、ズボンのポケットの携帯電話が鳴った。
番号を見ると、まさにタイミングが悪いことに、彼の彼女の愛美からだった。
隼人は急いで電話を持ってバスルームに入り、部屋のドアを閉めて電話に出た。
「もしもし、隼人、うちの母さんが聞いてるんだけど、あとの二十万円の家の頭金はいつ払えるの?」
電話の向こうから冷たい声が聞こえ、口調には非難の色が混じっていた。
「愛...愛美」
隼人は水道の蛇口をひねり、電話に向かって言った。「もう少し時間をくれないか。一年、せいぜい一年あれば、必ずその二十万円を用意するから」
「一年?あなたはまだ私を一年も待たせるつもり?」
愛美は冷笑を続けながら言った。「金山の不動産価格がどうなっているか知らないの?」
「無駄話はもうしないわ。一言で言えば、今月中に二十万円を用意するか、私たちの関係を続けるか決めて!」
「用意できないなら、さよなら!これまでの五十万円は、あたしの青春への代償と思いなさい!」
「パン!」
電話が切れ、隼人は複雑な表情でバスルームの鏡に映る自分を見つめた。
今日はもう十六日だ。半月の間に二十万円を用意しろと言われても、どこから持ってくるというのだ!
「んん〜」
そのとき、スイートルームのベッドから、女性のうわごとが聞こえた。
小林清奈は、自分が夢を見ていたように感じた。異常なほど快楽的で恥ずかしい夢。
夢の中で、彼女はまるで別人のように、洪水のように、猛獣のように変わり、その曖昧な影はとても優しかった...
彼女は布団の中で体を動かし、何か違和感を覚えた。
突然!!
清奈は夢から飛び起き、すぐに布団をめくって自己の体を確認した。顔色が一瞬で真っ青になった。
彼女は身を失っていた!
二十三年間大切にしてきた純潔が汚されてしまった!!!
「うっうっう...」
清奈は顔を覆い、雨のように涙を流した。
「すみません」
バスルームから、優しさと自責の念が混じった声が聞こえた。
視界に、二十八、九歳くらいの、薄い髭を生やし、深い目をした男性がゆっくりと歩み出てきた。
男はベッドの横に立ち、頭を下げ、唇を少し動かしてから口を開いた。「国分隼人と申します。二時間前、ボディガードの面接に来ました」
「ドアをノックした途端、小林さんは私を部屋に引き込んで...」
「黙って!」
隼人が言い終わる前に、清奈は虎のように怒鳴った。「出て行きなさい!出て行きなさい!」
「小林さん、申し訳ありませんが、最後まで話を聞いてください」
隼人は顔を上げ、誠実な眼差しで清奈を見つめ、真剣に言った。「さっき確認したんですが、テーブルの上に置いてあったアロマディフューザーに問題がありました。誰かがローズマリーと天女花を粉砕した媚薬をアロマに静かに入れていたんです」
「簡単に言うと、あなたは薬を盛られていたんです!」
彼は苦々しく笑った。「私も油断していて気づかず、うっかり影響を受けてしまい、あのような不愉快な出来事が起きてしまったんです...」
「不愉快?」
清奈は唇を強く噛み締め、恨めしい眼差しで隼人を見つめ、まるで彼を生きたまま剥いで飲み込みたいかのようだった。「あなたは良心に手を当てて、不愉快だと言い切れるの?」
これは...
隼人は本当にどう答えていいかわからなかった。
不愉快だと言えば嘘になる。かといって愉快だと言えば、小林大嬢様を刺激することになるではないか?
「あの...その...申し訳ありません」
どうしようもなく、隼人は頭を下げ、深々と一礼して謝罪の意を示した。
そうして、彼は部屋を出ようと身を翻した。
「この卑怯者!戻ってきなさい!」
清奈は怒鳴った。「一言謝っただけで、この件が済むと思ってるの?」
この言葉が出た瞬間、隼人はまるで停止の術をかけられたかのように、その場に固まった。
清奈はこの機会を逃さず、寝間着を羽織ってベッドから降りた。
彼女は隼人の前に歩み寄り、腕を振り上げ、彼の頬に思いきり平手打ちを食らわせた。
パン!
隼人の頬には一瞬で5本の鮮明な赤い指の跡が残った。
一発では清奈の心の怒りを晴らすには足りなかったのか、彼女は反対の手でもう一発平手打ちをかまし、隼人のもう片方の頬も赤く腫れ上がらせた。
パン!パン!パン!
彼女は左右から攻撃し、隼人の頬を叩き続けた。
叩きながら、涙が止まらずに頬を伝って流れ落ちた。
「この卑怯者!この畜生!」
「あなたは自分が何をしたか分かってるの!」
「あなたは私が誰だか知ってるの!」
「あなたは私を台無しにした!台無しにしたのよ...」
隼人は自分が清奈に申し訳ないことをしたと認め、一切動かずに立ったまま、彼女に自分の頬を打たせ続けた。まるでこうすれば、清奈の痛みが少しでも和らぐように、自分の罪悪感も少しは軽くなるように思えたからだ。
「出て行きなさい!出て行きなさい!」
十分間も叩き続け、清奈の手が腫れ上がった頃、彼女は突然隼人を押しのけ、涙でいっぱいの顔で叫んだ。「二度と私の前に現れないで。さもないと、殺すわよ!」