「連れて行って、陽介。」私は桐山陽介の腕を支え、突然かすれた声で、ほとんど聞こえないほど低い声で言った。
再び目を覚ましたのは病院だった。
陽介によると、私は丸一日眠っていて、相馬のお爺さんが見舞いに来てくれたそうだ。
神崎美緒は思わず付け加えた。「相馬家の人はけっこう良心的ね。栄養剤をたくさん送ってきたけど、あの相馬彰人は一度も来なかったわ。本当に薄情ね」
言ってから、彼女は自分が言い過ぎたことに気づいた。「ごめんね詩織、わざと彼の話を出したわけじゃないの」
「大丈夫よ」
私は乾いた唇を舐めた。「水が飲みたい」
「はい、飲ませてあげるわ」
美緒は水の入ったコップを私の口元に持ってきた。「陽介が言うには、あなたの体はしばらく良くならないから、明日退院させて、しばらく私の家で養生したらどう?」
美緒はフリーランスで、絵を描いて、よくネットで仕事を請け負っているから、私の世話をする時間もある。
でも私はこれ以上彼女に迷惑をかけたくなかった。「いいの。決めたの、家に帰るわ」
離婚のことは、結局隠し通せるものではない。
それに、お父さんとお母さんにも会いたくなった。彼らと一緒に住みたい。
「それもいいわね」
美緒はうなずいた。「午後ちょっと用事があるから、家まで送れなくなっちゃった」
「大丈夫、僕が一緒に行くよ」陽介がドアを開けて入ってきて、私の検査を終えると、表情はあまり良くなかった。「家に帰ることは許可するけど、しっかり養生して、無理しちゃダメだよ、わかった?」
陽介の話し方はとても優しく、子どもをあやすような口調だった。
私は唇を引き締めて微笑んだ。「わかったわ。あなたたち二人とも、本当におせっかいね」
なぜだか、彰人に離婚を切り出した後、私の心はずっと軽くなった気がする。
まるで、生き返ったような感覚。
たぶん私はずっと間違っていたのだろう。彰人は私の人生ではなかった。
私の人生は、今から始まるのだ。
荷物をまとめ終わったのは午後3時過ぎで、陽介が私を支えて病室から出た。
「こんな時間に私を家まで送って、仕事に差し支えないの?」
この数日で陽介には十分迷惑をかけてしまった。これ以上迷惑をかけたくない。
「バカだな、大丈夫だよ。数時間の休暇を取ったから、ちょうどキミに付き添える」