「それで、電気っていうので全部動くんだ。馬車とかも馬も必要なくて、しかも馬より早いんだ」
「雷の力がそこまで普及するとは、中々面白い話だ。火は使わんのか?」
「いや、使わないってことはないし、電気を作るのにも火を使ってるよ。確か」
俺は道中、暇を持て余すということで、現代日本の暮らしの話をアリアにさせられていた。
俺が学生であること、貴族なんていないこと、魔法なんてものも存在しないことも話す。
アリアにとってはそれが逆に創作の世界のようで、無表情ながらも楽しんでいるようだ。
逐一、話に相槌を打ってくれる辺りから、それは俺にもわかる。
「よくわからんな。わざわざ火の力を雷に変えるとは」
「そう言われると俺もわかんなくなってきた……」
「阿呆か貴様」
うーん、と唸る俺に鋭いツッコミが飛んできた。
生まれたときからある、普通の生活に疑問を持つのは難しい。
歴史や理科の授業である程度は知っているものの、「そうなんだ~」と納得した気になっていただけだ。
結局は魔法で生活が成り立つこの世界と、科学で生活が成り立っていた現代日本では大きく作りが異なるのだろう。
そんな話をしていると、前から馬車が来た。
俺はぶつからないように馬を道の反対側に寄せて、その馬車を避ける。
すると、その馬車から若者らしき数人の話し声が聞こえた。
「いや~、マジで楽勝だったな! この力があれば……。いや、この仕事が終われば一生食うに困んないぜ」
「いいえ、君たちには使命を果たすまでは付き合ってもらう。しかし、なぜこのような命を授けられたのかは私にも……」
「……いずれ魔王を倒すための試練、と仰っていました。それも本当かどうか」
魔王……? 試練……?
俺は気になるワードが耳に入り、後ろを振り向く。
馬車の荷台には三人の若者がいて、それぞれ上等な鎧を着ていた。
その中でも、紫の髪を下ろした女の子と目が合う。
髪の毛と同じ紫紺の瞳、歳は同じくらいだろうだが精悍さのある顔立ち、その頬には傷跡があった。
女性なのに顔に傷が残ってしまうなんて、とは思ったが、戦士なのだろう。
お互いにしばし見つめ合い、曲がり道での木々に隠れて、視線の交差が途絶える。
「おい」
そのとき、酷く刺々しい声音が響いた。
気がつくと、アリアが凄まじい形相でこちらを睨んでる。
「な、なに……?」
「そんなに今の女が好みだったか? 下衆犬め」
「ひぃっ!?」
どうやらあの女の子と見つめ合っていたのがバレていたらしい。
別に特段、何かの感情があって見たわけじゃない。たまたま目が合っただけだ。
「そ、そういうわけじゃない! なんか魔王とか言ってたから……」
「魔王の話題などどこでも聞こえるだろう。それよりも貴様、次に他の女に目を奪われたら――」
「う、奪われたら?」
「――ふふっ、こうだ」
ニコっと笑いながら首を落とす仕草をされて、俺は無言のまま恐れおののいた。
ついでに馬を近づけてきて、俺の頬をつねる。
「痛い! 痛ててて! 魔法で強化してまでつねるな!」
「仕置きだ。よいか。我が夫であれば他の女に目もくれるな。私だけを見よ。私だけに見惚れよ。不貞など許さぬ」
「わかった! わかりました!」
俺が叫ぶと、ようやくアリアは指を離した。
馬の揺れも合わさってあやうく頬が千切れるところだった。
こんなんじゃもう人が多いところなんて地獄だ。うっかり店の人と目を合わせただけでもお仕置きが発動しそうである。
けれど、俺とアリアはまだ手も繋いだこともない。妻と夫というのも、アリアが本当に受け入れているのかも俺にはわからない。
にも関わらず、アリア本人が勢いで【輝祷】をやったというのに、嫉妬深さはかなりのものだ。
本当に俺たちは結婚してるんだろうか。
相変わらず心の内の読めないアリアの態度に、俺は辟易としながら頬をさするのだった。
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