拠点の周りに結界を張った、とブランは言った。
「モンスターが侵入すればすぐにわかる」
だから安心して休んでいい、と心優しき魔女は告げた。
自分用にしつらえた部屋には、簡素な椅子と机、そしてベッドがある。なおベッドに関してはブランが、とりわけ魔力を注いで作ったと自慢した。
「きちんとした睡眠は、体力の源だからな。こんな殺風景で何もないところでも、大事にしないといけない」
「こいつはよく眠れそうだ。ありがとう」
「どういたしまして。……といっても、そのベッドを作った魔力はお前のだから、私一人の功績ではないぞ」
ブランは自分、そしてトールを指差した。
「私とお前、どちらかが欠けてもこうはいかなかった。お前も胸を張ってもいいぞ」
「それはどうも」
彼女は気分よく一日を終わらせようとしているようだった。これでこのベッドの寝心地がよければ、明日は気分よく目覚められるだろう。
「おやすみ、ブラン」
「……」
「どうした?」
部屋の入り口で腕を組んで何やらニヤニヤしているブラン。
「一人で平気か? 添い寝してやってもいいんだぞ?」
「添い寝ならとっくの昔に卒業したよ」
成人男性を捕まえて、いまさら母と寝るような甘えん坊と思われるとは……。もちろん彼女の意地悪な冗談なのだろうが。
「……もしかして、誘ってる?」
その、彼女は、男と女の夜の関係を所望しているとか?――トールは自分と同年代の者たちから聞いた話で多少は知っているが、まさか自分にそれが降り掛かるとは。
「さあな。おやすみ、トール」
ブランは長い髪を払うと、魔石を使った照明を消して立ち去った。いったい何だったのか、さっぱりわからないトールだった。
もし誘われたのなら、もったいないことをしたかもしれない。仮にトールが応じるような素振りを見せたら、冗談だ本気にするなとからかわれていたような気がしなくもなかった。
「……寝よう」