Capítulo 3: まさか……これも、欲擒故縦の策というやつなのか
Editor: Pactera-novel
涼微はゆっくりと振り向き、雲霜を見据えた。「――姉さん、どの部分が聞き取れなかったのですか？」
雲霜は一瞬、息をのんで固まった。目の前の少女は顔こそまだ青ざめていたが、その瞳にはどこか異様な光が宿っていた。――とくに視線を向けられた瞬間、その奥に鋭い光が閃いたのを、彼女ははっきりと感じた。
そんな瞳に射抜かれるように見つめられ、雲霜はなぜか胸の奥がざわつき、落ち着かない気分になった。
以前の涼微も、たしかに美しかった。だが、どこか物足りなさがあった。まるで魂の抜けた磁器人形のように――初めて目にしたときこそ人を惹きつけるものの、見慣れてしまえば、そう、特に印象に残るほどの輝きはなかったのだ。
けれど、今の涼微からは、まるで別人のような印象を受けた。
顔立ちは以前と変わらないはずなのに――その身から放たれる気配は、まるで天地がひっくり返ったかのように一変していた。
涼微はもともと際立って美しい顔立ちをしていた。そこに、清らかさと艶やかさが同居する不思議な気配が加わったことで――まるで天上の人と見紛うほどの存在へと変わっていた。
雲霜はわずかに眉を寄せ、胸の奥に湧き上がる不快感を必死に押し殺した。それでも、口を開けばその声音はまるで花の香りのように柔らかかった。「側室になるのは、涼微にとって少し辛いことかもしれないわ。でも――私たち姉妹がそろって皇太子様のおそばに仕えられるなんて、それはそれで素敵なことではなくて？」
姉妹そろって、あんなクズ皇太子に仕えるですって？――冗談じゃない。
涼微はこみ上げる吐き気を必死に抑え、皮肉な笑みを浮かべながら手を軽く振った。「まあ、姉さんって本当に心の広い方なのね。自分以外の女が一緒に皇太子様に仕えるなんて、普通なら到底我慢できないのに。姉さんのその寛大さ――まさに世の女性たちの鑑だわ。尊敬しちゃう！」
雲霜の美しい顔が、その一瞬だけわずかに歪んだ。
もちろん、雲霜に涼微の言葉に込められた皮肉が聞き取れないはずもなかった。
握っていたハンカチに、思わず力がこもった。
もちろん、彼女に他の女と皇太子を分かち合うつもりなどなかった。先ほどの言葉は、ただ涼微を挑発するためのものにすぎない。
だが、目の前の涼微はまるで別人のように変わっており、以前のように感情を爆発させて彼女に悪態をつくこともなかった。
雲霜はすっかり気勢をそがれ、肩を落とした。
涼微は再び赫天に視線を向け、静かにお辞儀をした。「お父様、まだ体調が万全ではございません。もしご用がなければ、先に部屋へ戻って休ませていただきます」
赫天ははっと我に返り、涼微の顔色がまだどこか青ざめているのに気づくと、すぐにうなずいて言った。「うむ、急いで戻って休みなさい。……あとで私が様子を見に行こう」
「はい」涼微は静かに答えながら、胸の奥がほんのりと温かくなるのを感じた。
これまでどれほど過ちを犯し、国公邸に恥をかかせてきたとしても――赫天は、常に彼女を深く愛してくれていた。
言い終えると、彼女は静かに身を翻し、部屋を後にした。その視線は終始――遅を一度も捉えることはなかった。
まるで、その人のことなど初めから知らなかったかのように。
遅は去っていく彼女の背中をじっと見つめ、眉間に深い皺を刻んだ。
涼微は……また何か企んでいるのか？
まさか……わざと引いて相手を釣る――あの手のひらで転がすような駆け引きなのか？
彼の瞳に、静かな嫌悪の色が浮かんだ。
前庭を出ると、涼微はゆっくりと後庭へと歩を進めた。
しかし、まだ数歩と進まないうちに、涼微は廷琛と鉢合わせた。
彼は木にもたれかかっていた。鎧を脱いだ今は、あの荒々しい気迫も消え、青の平服に包まれた姿はどこか静謐だった。もともと繊細な顔立ちは、光に照らされて一層瑞々しく、まるで磨かれた玉のように艶やかで――そこに立つ姿は、まさに蘭の花か、美玉のようであった。
涼微はふと足を止めた。――そういえば、この兄は、こんなにも端正な顔立ちをしていたのだ。
彼女の瞳には、思わず感嘆の色が宿っていた。
廷琛は眉をひそめ、低い声で言った。「まったく……何をぼんやり見ているんだ、馬鹿な娘め」
涼微はぱちりとまばたきをし、唇に笑みを浮かべて冗談めかして言った。「お兄様があまりに美しいから、もう少し見ていたいだけですわ」
廷琛の白い頬に、かすかな紅が差した。彼はわずかに咳払いをして、低い声で叱る。「まったく……礼儀というものを知らんのか。娘が男をじろじろ見るなど、許されることではない」
「お兄様は他人じゃありません。――私の兄でしょう？」涼微は胸を張って、堂々と言い返した。
廷琛は一瞬、言葉を失い、唇を引き結んだ。
胸の奥に広がる居心地の悪さを押し殺し、廷琛はわざと声を低くして厳しい口調で言った。「お前が今日あんな騒ぎを起こしたのは、遅の側室になるためではなかったのか？父上もすでに承知されたはずだ。――それなのに、なぜ急に翻意した？まさか、また何か別の策略でも考えているのか？」
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