彼女は拳をぎゅっと握りしめた。何かをしなければならない。
廷琛は、涼微がこちらへ向かってくるのを、ずっと前から見ていた。
しばらく稽古を続けたあと、廷琛はようやく動きを止めた。白く整った顔には汗が滲み、息がわずかに乱れている。剣を武器棚に戻すと、そのままゆっくりと涼微の方へ歩み寄った。
彼の姿勢は堂々としており、歩みはしなやかで力強い。汗に濡れた姿は驚くほど魅力的で、まさに男の色気に満ちていた。
涼微は特に意識していなかったが、そばに控える珠玉は頬を染め、うっとりとした瞳で彼を見つめていた。
廷琛は足を止め、涼微の体から漂う強い薬の匂いに気づき、昨日の出来事を思い出したように眉をひそめた。「体の具合はどうだ?医者には診てもらったのか?」
涼微はそっと手を上げ、自分の首に触れた。そこには、昨夜自分で調合して塗った薬がまだ残っていた。
痕は思った以上に深く、内出血もひどい。すぐには消えそうになく、時間をかけて少しずつ手当てしていくしかなかった。
「大したことありませんわ。お兄様、ご心配なく」
廷琛の眉間の皺は、それでもなお消えることはなかった。
昨日、彼はこの目で見た――彼女の首に刻まれた、あの深く痛ましい痕を。あれほどの傷なら、おそらく一生消えずに跡が残るだろう。
彼は拳を固く握りしめた。「明日、宮中に入ったら御医を呼んで診てもらえ」
涼微の胸の奥がふっと温かくなった。前世では一人っ子だった彼女にとって、兄に大切にされるというこの感覚は、初めて味わうものだった。
「はい」涼微は穏やかに微笑んで頷いた。首の痕を消す方法なら知っていたが、兄の思いやりを無下にすることはどうしてもできなかった。
「お兄様、朝食をお持ちしました。お口に合うか分かりませんけど……」涼微はそう言って、そっと話題を変えた。
廷琛は、珠玉が手にしている重箱にちらりと目をやった。最初は、妹が台所に命じて作らせたものだろうと思った。だが、滅多に自分のために朝食を運んでくることのない涼微が、こうしてわざわざ訪ねてきたことが、どこか胸を和ませた。昨日、彼女は首を吊り――ほんの少しの差で命を落とすところだったのだ。
胸の奥がきゅっと痛み、廷琛は少し声を濁らせて言った。「先に食堂で待っていろ。……少し身支度をしてくる」
「はい」涼微は素直に返事をし、珠玉を連れて食堂へ向かった。
優雅に歩み去る少女の背を見送りながら、廷琛はしばらくその場に立ち尽くしていた。やがて小さく息を吐き、身支度のために奥へと歩いていった。
涼微が待たされたのは、ほんのわずかな時間だった。五分ほどして、廷琛は清潔な衣に着替え、すっきりとした姿で食堂へ入ってきた。
涼微はその姿を見て、心の中で小さく舌打ちした。
まるで戦闘訓練用の湯浴みでもしたかのようだ――あまりにも手早すぎる。
「何を作ってきた?」廷琛は彼女の向かいに腰を下ろし、冷たくもなく、かといって温かくもない声で尋ねた。
涼微はすぐに重箱の蓋を開け、丁寧に中の朝食を並べていった。
「お料理はあまり得意じゃないんです。ワンタンを一杯だけ作ってみました」涼微はそう言いながら、彼が不満に思うのを恐れて、慌てて言葉を継いだ。「でも、中のお肉は全部、新鮮なものを使いました」
実のところ、彼女の料理の腕前は相当なものだった。前世では、医術の研究の合間に料理の勉強もしていた。――もともと食いしん坊で、美味しいものを探しては自分でも作ってみるのが好きだったのだ。
だが、この世界の「女配・涼微」は料理がまるで苦手という設定だ。もし彼女が急に見事な腕前を見せたら、怪しまれるのは目に見えている。
湯気を立てながら置かれたワンタンを見つめ、廷琛の深い瞳にわずかな感情の揺らぎが走った。
彼は喉を小さく鳴らし、顔を上げて涼微を見つめた。「……お前が作ったのか?」
涼微は静かに頷き、柔らかな笑みを浮かべた。「もちろん、私が作りました。――下手でも、文句は言わないでくださいね」
廷琛はじっと彼女を見つめ、低い声で言った。「……いつ料理なんて覚えた? そんなこと、聞いたことがないぞ」
涼微はすでにこう聞かれることを予想していた。わざと鼻を鳴らし、少し拗ねたように言い返す。「お兄様は私のことが嫌いなんですもの。私が何をできて、何をできないかなんて、どれだけご存じなんですか?」