翌朝——
美穂は目をこすりながら、少し寝ぼけた様子で辺りを見回した。
そうだ、彼女にはパパができて、新しい家に来たんだった。
美穂は起き上がり、毛布をめくった。ベッドの端には彼女が落ちないように布団で作られた柵のようなものがあった。
美穂は嬉しそうにくすくす笑い出した。
「パパ、パパ〜」
澄んだ声で二度呼んでみたが、広々とした寝室には誰の返事もなかった。
ノックの音がした。
「お嬢様、お目覚めですか?」
執事の声だった。
言葉が終わると、執事はゆっくりとドアを開けて入ってきた。
美穂はぼんやりと目の前の人を見つめ、執事は微笑んだ。
「お嬢様、お目覚めでしたか。お腹は空いていませんか?」
子どもの足が短く、美穂はベッドから必死に這い降り、執事の服の裾をつかんだ。
「執事おじさん、パパはどこ?」
美穂が口を開くと、執事の心はすっかり溶けてしまった。彼はしゃがみ込んで言った。
「お嬢様、葉山社長は会社に行かれました」
「パパに会いに行きたい……」
美穂の真っ黒な大きな瞳が、潤みを帯びて執事を見つめていた。
ああ!お嬢様、マジ天使!
しかし、葉山猛の気性をよく知っている執事は、心を鬼にして美穂に言った。
「お嬢様、葉山社長はおっしゃいました。どうかご自宅でおとなしくお待ちくださいませ。葉山社長がお戻りになり次第、会いに連れて行きますから、よろしいでしょうか?」
そう言うと、執事は美穂を抱き上げ、階下に連れていき、メイドに美穂の身支度をさせた。
ひと騒動あった後。
美穂は自分の体に着ているTシャツとジーンズを見つめた。
かなり大きいな上に、明らかに男の子用のデザインだ。
美穂は両腕を上げると、長すぎる袖がだらりと垂れ下がった。
美穂は服を着せてくれた高橋おばを悲しそうに見つめた。
「おばさん、美穂ちゃんのお手手がなくなっちゃった……」
高橋おばは美穂の可愛らしい様子を見て、思わず笑った。そして美穂の袖口を折り返し、白くて柔らかい小さな手を出した。
「美穂ちゃんはいい子ね。これは五坊ちゃまが小さかった頃の服です。今回はあなたが急にいらしたので、あなたの服を準備する時間がありませんでしたわ」
美穂はおとなしくうなずいた。
そうか、彼女の義理のお兄ちゃんの服だから、そんなに大きいんだ。
ふん、準備する時間がないって、彼女が知らないとでも思ってるの?
元の体の母親は誰かに利用されて葉山猛のベッドに送られ、子どもを身ごもった。葉山猛に発見された後、葉山猛が中絶を強要するのを心配して、事実を隠し続け、自分が死ぬ間際になって初めて葉山猛に真実を告げたのだった。
だから、おそらく葉山猛の心の中では、彼女を娘として認めたくなかったから、彼女の服を用意しなかったのだろう……
失望は美穂の心の中でほんの一瞬だけよぎった。
今、葉山猛が彼女を認めたいと思ってさえいれば、それで十分だ。大物パパを攻略し、大物にうまく取り入ることこそが得策なのだ!
高橋おばは美穂に服を着せ終わると、美穂をソファに座らせた。
「美穂ちゃん、いい子にしてて。高橋おばさんはミルクを作りに行くから、ちゃんと座ってるんだよ〜」
美穂はうなずき、おとなしく座り、高橋おばがキッチンに入っていくのを見ていた。
「ピンポーン」
ドアベルが鳴った。
美穂の目が輝いた。きっと葉山猛が帰ってきたに違いない!
取り入る絶好の機会だ!
「よいしょ」
美穂はすぐに立ち上がり、ソファの端をつかみながら、ゆっくりと体を下ろした。二本の短い足でようやく地面に立つと、すぐによちよちとドアの方へ走っていった。
ドアの外の人はいらだっていたようで、長い間ベルを鳴らし続けていた。
美穂はドアの傍に立ち、一生懸命つま先立ちをしたが、ドアノブが高すぎて、美穂が腕を伸ばしても、ドアノブにはまだ届きそうになかった。
美穂ががんばっているまさにその時、次の瞬間、ドアが開いた。
美穂はドアに押されて地面に転がされた。
彼女の前に影が落ち、澄んだ少年の声が響いた。
「どこから来たちびっ子だ?」