斎藤詩織は胸を圧迫されて息苦しく、わあわあと大声で叫び始めた。
彼女の体は香りが良く柔らかかったので、小林颯真は彼女を押さえつけながら平静を保つのは難しく、体はすぐに反応してしまった。
「黙れ!」
詩織のこんな叫び声で、颯真は自分が熱くて爆発しそうだと感じた。
彼はベッドの端に手をついて立ち上がろうとした瞬間、突然ドアが壁にぶつかって大きな音を立てた。
「ドン!」
小林の母がよろよろと飛び込んできた。
ベッドの上で重なり合っていた二人は揃って彼女の方を振り向いた。
壁越しに聞いていたことがバレてしまい、小林の母は恥ずかしくて地面に潜り込みたいほどだった。
これも彼女のせいではない。ドアがきちんと閉まっていなかったせいで、興奮して聞いていて軽く押しただけで開いてしまい、転びそうになったほどだ。
小林の母はさすがに多くの経験を積んだ人物だけあって、すぐに落ち着きを取り戻し、髪を整えた。
「続けて、私がいないものと思って、続けて……」
「俺は行くよ。」
颯真は飛び上がるように立ち上がり、小林の母の後に続いて外に出ようとした。
小林の母はすぐに振り返り、詩織に目配せして颯真を引き留めるように合図した。
詩織は両手を広げて首を振った。彼の体は引き留められても、心が留まらないのであれば意味がない、引き留めない方がましだ。
小林の母は情けない思いで足を踏み鳴らした。この時は彼女に頼るしかない。
年寄りの知恵は侮れない。
小林の母は颯真の腕を引っ張りながら、にこにこと言った。「颯真、せっかく久しぶりに帰ってきたんだから、お母さんが地鶏スープを作ったわよ。少し飲んでから行きなさい。」
「また今度にするよ!」颯真は今まだ興奮が収まらず、スープを飲む気分ではなかった。
「だめ、今日よ。特別にあなたのために作ったのよ。」
「今日は飲みたくないんだ。」
颯真の足がもう玄関に掛かっているのを見て、小林の母は焦って顔色を変え、大げさに泣き始めた。「やっぱりね、前田紫月ができたら、お母さんのことも邪魔になるのね。小さい頃はお母さんが作った鶏のスープが大好きだったのに。」
「あの頃はお金がなくて、お正月にしか鶏のスープが飲めなかったわね。大きくなったら、毎日お母さんに鶏のスープを飲ませてあげるって言ったのに。今はお金持ちになったけど、家にも帰らないなんて。毎日鶏のスープを飲んでも何の意味もないわ。砒素でも飲んだ方がましよ。」
話すほどに悲しくなり、小林の母は本当に泣き出した。
颯真は口を尖らせ、心の中で居心地の悪さを感じた。
彼は小林の母の肩に手を置いて、優しい声で言った。「母さん、鶏のスープはどこ?今すぐ飲みたいな。」
「このイタズラっ子め。」
小林の母は涙を拭いて、甘えるように颯真を軽く叩き、キッチンへスープを取りに行った。
詩織はきちんと服を整えて階下に降り、颯真がダイニングテーブルでチキンスープを飲んでいるのを見て、かなり驚いた。
彼女は彼がもう帰ったと思っていた。
「詩織、あなたも夕食をあまり食べてないでしょう。お腹空いたでしょ。お母さんがスープを用意するわ。」小林の母はこんなに嬉しいのは久しぶりで、白い顔に皺がたくさん寄るほど笑っていた。
「お母さん、私がやるわ!」
詩織は小林の母についてキッチンに入り、スープを注ぎながら小声で尋ねた。「お母さん、颯真は今夜も帰るの?」
小林の母は得意げに答えた。「彼はね、帰りたくても帰れなくなるわよ」
「どうして?」
「鶏のスープに薬を入れたの。」
前回詩織にあげたのと同じもので、無色無臭だが、効果は絶大だ。
「え?」
なぜか足が震え、詩織は心配そうに尋ねた。「その薬、体に害はないんでしょうね?」
「害なんてないわよ、安心して。うりりんにも与えたけど、食べた後は元気いっぱいで、もう彼女を妊娠させたわよ。」小林の母は嬉しそうに答えた。