蘭亭クラブ。
海外へ行く前、詩織が松田雄大によく連れて行かれた場所。
そう、彼は遊んでいた。
彼女は……個室に一人で置かれ、電気をつけたまま宿!題!を!やらされていた!
そばには成績が彼女よりも良いウェイターまで見張りとして立たされていた。
その後……ある出来事があり、兄とは……何年も連絡を取っていない。
不快な思いを払いのけ、できるだけ過去のことを考えないようにした。
オーナーは雄大の友人の一人だった。
何度か会ったことはなかったが、相手がただものではないことは知っていた。
可愛い助手が大きな荷物を持って訪ねてきた。
「詩織姉、ただいま!ドア開けて、美味しいものを持ってきたよ」助手の史帆は一年前から彼女について、海外に行くときも一緒だった。海外での半年以上の間、助手に世話になることが多かったと言えるだろう。
松田詩織は急いで帰国したため、住んでいた場所の荷物を片付ける時間がなかった。
最終的に全て史帆に任せたため、彼女が2日遅れで帝都に到着することになったのだ。
ドアを開け、中に入らせた。
「ファンからの贈り物がたくさん会社に届いてたから、全部持って帰ってきたよ。いつも通り収納室に入れる?」
え?
「とりあえずここに置いておいて!」
「昨日の夜に予定されていたラジオの生放送がキャンセルになったって聞いたけど、何があったの?」
その話題を聞いた詩織の表情が一変し、良い顔ではなくなった。
昨晩は彼女の復帰初披露のはずで、すべての準備は整っていた。その夜のために、ミルを迎えた後ずっと台本を作成していたのに、放送の30分前に突然中止の連絡が来たのだ。
深夜になっても結果は同じで、誰だって怒るだろう。
これが後でああも酒を飲んだ理由でもある。
「何でもないわ。このことは後で話すから、あとで手伝ってもらいたいことがあるの」
詩織が手伝いを頼むというのは、たいてい仕事のことだった。
「詩織姉、何でも言って」史帆はメモ帳を取り出して書き留める準備をした。仕方ない、彼女の詩織姉はエンタメ界の女優たちには及ばず、ファンも200万人だけだが、侮れない存在だ。西村志乃という名前は声優界ではトップレベルの大物なのだから。
多くの監督や芸能人と詩織は個人的に親しい仲だった。
彼女の知っている有名人の中から何人か挙げるだけでも、多くの人を驚かせるのに十分だった。
「そんなに真面目にしなくていいわよ。ただ、今後ラジオの仕事は一時的に保留にして、象牙テレビとの契約を解除するつもりだということを伝えたかっただけ」史帆はメモを取ろうとしていた手を止め、顔を上げると目に期待の色が満ちていた。「本当に?詩織姉、やっと決心したんだね?」
詩織と象牙テレビは2年契約を結んでおり、時期的にもちょうど契約満了が近づいていた。
象牙テレビは業界で最もホットなプラットフォームではなく、新興勢力と言えるくらいだった。
詩織のおかげでこの1年で名声と利益の両方を急上昇させたのだ。
西村志乃はプラットフォームのトップ声優だった。
井戸を掘った人を忘れないという言葉があるが、これは単なる始まりに過ぎなかった。
もっと腹立たしいことはその後に続いた。
詩織が盛世エンターテイメントと契約し、商業作品がどんどん増えていった。最初は人気小説のオーディオドラマから始まり、後にはネットドラマ、テレビドラマ、さらには映画まで、西村志乃という名前はますます多くの人に知られるようになった。
象牙テレビの幹部たちは詩織に注目するようになった。
最初は新人の指導を頼まれた。プラットフォームが立ち上がったばかりの頃は確かに人気が必要で、当時の彼女はほとんど断ることがなかった。
これが後に象牙テレビの増長につながった。
彼女から得たい利益がどんどん増えていった。
彼女に新人を育てさせるだけでなく、彼女を通じて盛世に人を送り込み、彼女のラジオ番組を新人育成のために譲らせようとまでした。
詩織は優しすぎた。誰かが少しでも親切にすれば、彼女はその10倍も恩返しをしていた。
「詩織姉、今度こそ三浦社長のことは気にしないで」