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10% Mに捧げる異世界鎮魂歌 / Chapter 7: 第七話 待ち望んだ重力

Capítulo 7: 第七話 待ち望んだ重力

 丈二は崇徳童子に従い、出かける用意しようとするがすぐに足を止める。今は深夜、森は魔物の時間である。森を抜けても夜の街道には野盗が溢れている。

 

 崇徳童子が魔物や野党に後れを取るとは思わないが、自分が巻き添えになる可能性が高い。何とか穏便に朝まで待つように進言しようとすると、唐突に丈二の身体が宙に浮く。

 

「へっ?」

 

 気が付けば腰の辺りを捕まれ宙を浮いている丈二。森へ行くのを諫めようとしていたのに今は疑問と恐怖が頭の中を駆け巡っている。

 

「別に用意するものなどないか。しゃべるなよ舌を噛むぞ」

 

 丈二が次の言葉を紡ぐことはできなかった。崇徳童子の足が丸太のように膨張し、足が地面にめり込み窪みを作ろうとした時、丈二は風になった。

 

「オバァババババ」

 

 凄まじい風速と揺れ、三半規管が暴走し、全ての世界が歪んで見える。丈二のあらゆる疑問は吹っ飛び、いまはこの謎の状態が一刻も早く終わるのを心から望んでいた。

 

「なんだ、優しく走ってやっているのに情けない奴だな」

 

 崇徳童子が何かを言っているが風の音と酩酊状態で何が何だか分からない。地面が大きく揺れ、今度は急速に体が浮き上がる。全身の内臓が自分の中から宙に浮くような浮遊感。猛烈な吐き気が襲うが呼吸をすることができずに吐き出したものを飲み込んでしまう。

 

「ひっひっひっ」

 

 呼吸ができなくなり顔中の血の気がなくなる寸前、丈二に待ち望んだ重力が戻る。

 

「着いたぞ」

 

 体を乱暴に降ろされ、狂った身体がまず最初に行ったのは飲み込んだ《例の物》を吐き出す作業であった。

 

「ウボッオァァァァ!」

 

「なんだ汚い奴だな。俺のお気にいりのパンツにその汚いものを飛ばすんじゃないぞ」

 

 崇徳童子が移動しようと丈二を急かすが、地面にうずくまった丈二がその場から動くことは二度となかった。

 

 街中の闇を一人の人影が動く。忍び衣装に身を包み、顔の部分には髪を変化させた面を付けている。全身黒を基調にしており、光の届かない所では闇と同化している。ちなみに黒装束は崇徳童子のシャツとパンツを作った繭を変化させ作り出したものである。

 

(まったく、丈二の奴は情けないな。鬼次郎さんの仲間はいかなる時も敵に立ち向かったというのに)

 

 丈二が振り絞って話した街の様子からコランダ達の行方を追う。どうやら三人は兵士の詰所辺りで気配を絶ったようだ。

 

(俺が気配を感じられないとは……敵の罠に嵌ったか? この世界にもそこそこ強い奴がいるのか? それとも……)

 

 気配を見失った場所へとたどり着く。詰所近くの空き地のようだ。四方を建物が囲んでいる。空き地には資材がそこら中に置かれゴミが散乱している。

 

(何も……ない? しかし、何だこの違和感は……)

 

 その時、四方に眩い光が浮かび上がる。崇徳童子を照らし出す無機質な明かりだ。周りを見回せば周囲に立ち並ぶ建物の上から数十の瞳がこちらに向けられていた。

 

「動くな! お前の仲間はこちらで拘束している。動けばお前の命も仲間の命もない!」

 

 低い威圧をこめた恫喝。しかし、どこかその声には怯えが含まれており、崇徳童子は動じることなくその声の主に向かい声を上げる。

 

「では、交渉決裂だな。ここにいる十三人を殺し、俺はこの場を後にする」

 

「――!?」

 

 先ほどの威圧する声から打って変わって動揺しているのが分かる。声の主がわずかに逡巡した末に暗闇から姿を現す。

 

「私の名前はハサン。この街の治安を守っているものだ。お前の仲間の冒険者三人には詰所の兵二人を殺害した疑いがかけられている。お前もその奇妙な面を取れ、顔を見せろ」

 

 合金の隙間から見えるハサンの筋肉をみれば街のチンピラなら震えあがるであろう。しかし、崇徳童子には鍛え上げられた筋肉も何の意味もない。ただの丸々と太ったネズミ程度の認識しかないのだ。


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