私は近くのホテルに一泊した。
一晩中眠れず、頭の中は先ほど見た光景でいっぱいだった。
夜が明けた後、私は直接会社に行かず、ある私立探偵事務所を訪れた。
「桐山さん、あなたの状況は理解しました」
探偵は中年の男性で、木村という姓で、とても専門的に見えた。
「不倫調査については、私たちは豊富な経験があります」
「ただ、警告しておきますが、真実は想像以上に残酷なこともあります」
「全ての真実が欲しいんです」
私はキャッシュカードを彼に差し出した。
「どれだけ残酷でも、知りたいんです」
木村探偵はうなずき、カードを受け取った。
「一週間ほどお時間をください」
探偵事務所を出て、私は会社へ向かった。
松井浩明はすでにオフィスにいて、私が入ってくるのを見ると、すぐに立ち上がった。
「剛、昨晩のことは...」
「勤務中は桐山課長と呼んでくれ」
私は自分の席に座り、パソコンの電源を入れた。
「桐山課長、話し合いましょうよ?」
彼は近づいてきて、小さな声で話しかけた。
「何を話す?プロジェクトの進捗かい?」
私は画面から目を離さずに言った。
「剛、そんな態度を取らないでくれよ、俺たちは兄弟みたいな仲じゃないか...」
「言ったろう、勤務中は桐山課長だ」
「それに、少し離れてくれないか。何か病気がうつるといけない」
周囲の同僚が私たちの間の異変に気づき始めた。
松井浩明の顔は真っ赤になり、気まずそうに自分の席に戻った。
昼食時、彼はまた私のところにやってきた。
「剛、怒っているのは分かるけど、でも...」
「でも何だ?でも抑えきれなかったというのか?」
私は足を止め、彼を見た。
「松井浩明、聞くが、いつからだ?」
「何がいつからって?」
「とぼけるな。お前と篠原晴香、いつからだ?」
彼は頭を下げ、私の目を見ることができなかった。
「1年ちょっと...」
1年以上。
つまり、私たちが結婚して2年目のとき、彼らはすでに関係を始めていたということだ。
そして私は、バカみたいに彼を親友として信じていた。
よく家に招いて、晴香に彼の好きな料理を作らせたりもした。
あの食事会は全て、彼らに機会を与えていただけだったんだ。
「桐山剛、聞いてくれ...」
「他に何が言いたい?お前たちは本当の愛だとでも?」
私は冷笑した。
「お前たちは愛し合っているから、俺が身を引くべきだとでも?」
「違うんだ、俺と晴香は...」
「お前たちがどんな関係だろうと、俺には関係ない」
私は彼の目を見つめた。
「だがお前が俺を裏切ったこと、それだけは忘れない」
「剛...」
「それと、俺を剛と呼ぶな。俺たちは他人だ」
夕方、仕事が終わっても私は家に帰らなかった。
篠原晴香から十数回の電話があったが、一度も出なかった。
最後に彼女はメッセージを送ってきた:
「剛、話し合いましょう。この件はあなたが思うほど深刻じゃないわ」
俺が思うほど深刻じゃない?
俺の妻が親友と不倫して、それが深刻じゃないと?
じゃあ何が深刻なんだ?
私は8文字だけ返した:
「話すことなどない。離婚の準備をしろ」
彼女はすぐに電話をかけてきたが、私はすぐに切った。
また電話、また切る。
最後には彼女をブロックしてしまった。
翌朝、篠原晴香は会社の入り口で私を待っていた。
彼女は念入りにメイクをし、私が買ったシャネルのコートを着ていた。
とても儚げに見えた。
「剛、どうして電話に出てくれないの?」
「私たちは夫婦よ。話し合えないことなんてないはずでしょう?」
通りかかる同僚たちが私たちを見ている。
私は会社の入口で大騒ぎになることは望んでいなかった。
「ついてこい」
私は彼女を近くのカフェに連れていった。
「さあ、何を話したい?」
「剛、昨日のことは偶然だったの」
篠原晴香は私の手を握った。
「浩明も私も酔っていて、二人とも正気じゃなかったのよ」
「一時の過ちよ、気にしないで」
私は手を引っ込めた。
「一時の過ち?1年以上続いた一時の過ちか?」
彼女は固まった。
「あなた...どうして知ってるの?」
「俺をバカだと思ってるのか?」
私は彼女を見つめた。
「篠原晴香、俺たちは3年間結婚していて、お前は1年以上不倫していた」
「つまり、俺たちの本当の結婚生活は2年もなかったということだ」
「そしてその2年の間も、お前は一度も俺を愛していなかった」
彼女は反論しようとしたが、口を開いたまま何も言えなかった。
なぜなら私が言ったことは事実だからだ。
私たちの結婚は初めから間違いだった。
大学時代、彼女は私を追いかけていた。私は彼女が私を好きなのだと思っていた。
卒業後、彼女は結婚したがった。私は彼女が私を愛しているのだと思っていた。
でも今わかる。彼女が欲しかったのは、安定した生活を与えられる男だけだった。
仕事が安定していて、収入が悪くなく、言うことを聞いて操りやすい男。
そして松井浩明は、彼女に情熱とロマンを与えた。
私には与えられなかったもの。
「剛、私が間違っていたことは認めるわ」
「でも私たちはやり直せるはずよ」
「改めるわ、浩明との関係は切るから」
「私たちは普通に生活して、何も起こらなかったことにしましょう」
私は笑った。
何も起こらなかったことにする?
彼女は俺を何だと思っている?ゴミ箱か?
捨てたい時に捨て、使いたい時に使う?
「篠原晴香、それが可能だと思うのか?」
「毎晩ベッドで横になるたび、俺はお前と彼があのベッドで何をしたのかを考えてしまう」
「お前を見るたび、あの晩の光景が頭に浮かぶんだ」
「俺がお前と普通に生活できると思うか?」
彼女の顔はどんどん青ざめていった。
「じゃあ、どうしたいの?」
「離婚だ」
私はそれをとても軽く言った。まるで今日の食事について話しているかのように。
「家を売って、お金は半分ずつ分ける」
「他のものも全部分けよう」
「それからは、俺たちは無関係だ」
篠原晴香は突然立ち上がった。
「桐山剛、あまり傲慢にならないで!」
「家はあなたが買ったかもしれないけど、この3年間、私だって貢献してきたわ!」
「洗濯や料理、家事、これらに価値がないとでも言うの?」
「それに、私がいなくなったら、もっといい人が見つかると思ってるの?」
「自分を見てみなさいよ、稼ぐこと以外に何ができるというの?」
「つまらなくて、味気なくて、情がない、どんな女があなたを好きになるっていうの?」
彼女の言葉はナイフのように私の心を刺した。
しかし私は反論しなかった。
彼女の言うことは正しいからだ。
私は確かにつまらなくて、味気なくて、情がない。
だから彼女は浮気したんだ。
だから親友は私を裏切ったんだ。
だから私の人生はまるで笑い話のようだ。
「お前の言う通りだ」
私は立ち上がった。
「だからこそ、お前は喜ぶべきだ」
「俺から離れることは、お前にとって解放なんだ」
「お前は面白い男たちを探せばいい、例えば松井浩明のような」
「彼はすぐに退職することになっている。お前たちは堂々と一緒になれる」
言い終えると、私は踵を返した。
「剛!」
彼女が後ろから私を呼んだ。
振り向かなかった。
彼女が何を言いたいかは分かっていた。
脅したり、懇願したり、あるいはさらに私を侮辱したりするだけだ。
でももう何の意味もない。
私の心はすでに死んでいた。
彼女に対して、この結婚に対して、いわゆる愛情に対して。
全て死んでいた。