葉山楓が顔を上げた瞬間、井上聡の口調は変わり、遠回しに「綺麗だ」と褒めた。
葉山楓は本当に美しかった。一度目にしたら忘れられない、そんな類の美貌だ。
葉山楓は酔いでぼんやりとした目で携帯を受け取り、「ありがとう……」と呟いた。
彼女の酔いは明らかに深く、眼前の男が頭二つ、手四本に見えるほどだった。
葉山楓は携帯をバーカウンターに置き、店員にもう一杯酒を注文した。
待っている間、井上聡と三浦靖の視線が何度も彼女の方へ向けられていた。
井上聡は三浦靖に体を傾けて囁いた。
「来た甲斐があったな。入って早々、極上の美人に出会えるとは」
三浦靖は笑いながら振り返ると、ちょうど入口から入ってくる小林健斗の姿が目に入った。
小林健斗は全身オーダーメイドの黒いスーツをまとっていた。ドアを開けた瞬間、バーにいるすべての異性の視線を引きつけた。
188センチの長身に引き締まった長い脚、圧倒的な存在感は、まともに見つめられないほどだった。
三浦靖は彼に向かって手を振った。
「健斗、こっちだ」
小林健斗は速くも乱れない足取りでこちらに向かってきた。
葉山楓はカクテルを受け取り、口元に運ぼうとした時、また携帯が鳴った。
彼女は画面をしばらく見つめてから、やっと電話に出た。
そして古川志穂の声が聞こえた。
「楓、私を探してた?さっきスマホが手元になくて……」
古川志穂の声を聞いて、葉山楓の胸に悲しみがこみ上げ、たちまち目が赤くなった。
「古川志穂、私、離婚したの」
電話の向こうで古川志穂は沈黙した。
しばらくして尋ねた。
「楓、今どこ?一人なの?」
葉山楓は周りを見回したが、自分がどこにいるのか思い出せず、ただ「バーにいるわ……たくさんの人がいるバー……」と言った。
そう言い終わらないうちに、携帯のバッテリーが切れた。
葉山楓は古川志穂の声が聞こえなくなり、ようやく画面を目の前に持ってきた。
彼女はのろい動きでしばらく眺めると、携帯を脇に放り、酒のグラスを手に取った。
その時、小林健斗はちょうど三浦靖の隣に座ったところだった。
彼の長い脚はまったく持ち上げる必要がなく、ボックス席に深く座ってもほんの少し伸ばす程度だった。
周りの騒がしい環境を睨みつけ、彼は眉をひそめた。
「なんでこんな騒がしい場所を選んだんだ?」
井上聡は笑って言った。
「プライベートクラブでもいいけど、俺たち数人だけじゃつまらないだろ。この辺は詳しいんだ、ここが一番美女が多いよ。ほら、見てみろよ……」
井上聡は葉山楓の方向に顎をしゃくり、小林健斗に見るよう合図した。
小林健斗が振り向いた時、葉山楓はちょうどボックス席から立ち上がるところだった。
彼女は酔いでほとんど立っていられず、カウンターに手をついてようやく立ったかと思うと、目まいがした。グラスの中の酒は、彼女がよろめた拍子に、一滴残らず小林健斗のズボンの上へと飛び散った。
小林健斗は下を向くと、液体がかかったのは、まさに最も気まずい部位だった。
葉山楓はそれを見て慌てて謝った。
頭が反応していなかったのか、彼女は謝りながら、隣のティッシュボックスから何枚かティッシュを取り出し、しゃがんで小林健斗のズボンを拭き始めた。そこがプライベートな部分だということをすっかり忘れていた。
隣にいた井上聡と三浦靖は、目を丸くして見つめるだけだった。
小林健斗の表情がどんどん険しくなるまで、葉山楓は自分が何をしているかに気づいた。
彼女が顔を上げると、殺意すら感じる目が彼女を見つめていた。
葉山楓は慌てて後ずさり、酔いで重心を失い、二歩下がったところで地面に座り込んでしまった。
場の空気は最高に気まずくなった。
先ほどの手の奇妙な感触を思い出し、葉山楓の顔は驚くほど熱くなった。
彼女は何度も謝った。
「ご、ごめんなさい!わ、わざとじゃないんです。さっき、うっかり……気にされるなら、クリーニング代はお払いします」
そう言うと、彼女はカバンを手に取り、中から現金を探し始めた。
あいにく、しばらくゴソゴソと探し回ったが、自分は現金を一切持っていないことに気がついた。