平田明が白目を向けて言った。「何の用?」
秦野舞子はへらへらと笑った。
「別に用じゃないわ。たまたま会っただけ」
こんなたわ言を平田明が信じるわけがない。ここはスラム街だ。秦野舞子のような金持ちの娘が、一生でこんな小さな料理屋で食事をすることなどないだろう。
しかし平田明は舞子をじっと見つめた。
ふと思いついた。舞子とパーティを組むのは、ちょうどいいんじゃないか?
最適な人選ではないが、少なくとも友人同士だ。
学院でのこの数年間、平田明には友達がほとんどいなかった。精神力130という注目を集める存在だったにもかかわらず、性格的に他の人とあまり関わらなかったからだ。
鈴木真由美は例外だった。彼女は平田明の彼女だったからだ。残念ながら、今はもう違うが。
そして秦野舞子は、平田明にとって唯一の友達と言える存在だった。
ちょうどそのとき。
「明日何か予定ある?私、もうレベル5になったから、一緒にダンジョンに行かない」と舞子が話のつなぎに聞いた
平田明はすかさず話を続けた。
亀裂契約をテーブルの上に置きながら。
「もし興味があるなら、明日これやらない?報酬は七三分けで、どう?」と言った。
舞子は一瞬固まり、驚いて机の上の巻物を見つめた。しばらくしてようやく反応した。
驚いて言った。「これって……亀裂契約?あなた……どこで手に入れたの?」
平田明は肩をすくめた。「運よくドロップしたんだ。でもレベルが低くて、10級だけどね。やりたければ、明日一緒にやろう。もし嫌なら、他の人を探すから……」
「行くわ!」舞子はきっぱりと言った。「じゃあ決まりね、明日また!」
平田明が気が変わるのを心配したようで、言い終わると急いで走り去ってしまった。
翌日早朝、平田明は学院に出向いた。
卒業したとはいえ、この最後の一ヶ月は毎日学院に出席する必要があった。
何しろ皆、駆け出しの新人ばかりだ。
学院は彼らの成長の道を修正し、ダンジョン攻略時の注意点や細部について指導する役割を担っていた。
そして今日は特別な日でもあった!
平田明はスラムに住んでおり、学院は市の中心部の富裕層エリアにあった。距離は遠くもなく近くもなかったが、歩き慣れていたので平田明は気にしていなかった。
一方、秦野烈人は今日、自ら車を運転して舞子を学院の門まで送り届けた。
車の窓から、外を行き交う人々が見えた。
多くの学员が、属性やレベルは普通だが、見た目が非常に派手な装備を着て、威張りくさって学院に入って行った。
烈人は苦笑いしながら言った。「毎年こうだよ。何しろ転職したばかりの職業者だ。装備に新鮮さを感じて、自慢したがるんだ。」
この時期を過ぎれば、これらの人々はダンジョン攻略をしない時、装備の外見を隠すことを選ぶようになる。
「舞子、レベル5でどれくらい経験値がたまった?」と烈人が尋ねた。
「昨日の午後はずっと休まずにやったし、パーティ契約で経験値ペナルティも下がったから、もう5級の80%以上だよ。今日ダンジョンを攻略しに行けば、順調に6級になれると思う」と舞子は考え込むように答えた。
「素晴らしい、素晴らしい。この速度なら、今期で一位だろう?」と烈人は言った。
舞子の表情は一瞬凍りついた。
「何位かはわからないけど、一位ではないわ」と舞子は答えた。
上には平田明がいて、すでにレベル8だったのだ!
しかし烈人はそのことを知らず、反論した。「その自信のなさは何だ?それに、このレベルアップ速度で、他にかなうところがあるのか?」
舞子は口をへの字に曲げて、何も答えなかった。
自分で車のドアを開け、降りる前に何か思いついたように付け加えた。「そうだ、朝の会議が終わったら、友達とダンジョン攻略に行く約束してるから、家の手配した人は一旦使わなくていいよ。」
そう言って、手早くドアを閉め、烈人が質問する機会を与えなかった。
しかし烈人は帰らなかった。一ヶ月後に天道同盟の代表として学生を採用する予定だったので、今回の卒業生たちの初日の成績に興味があった。
そこで彼は脇門から学院管理部へと向かった。
校庭では、各クラスの学生が次々と集まり、それぞれのクラスのエリアに着席していった。
前方の高台には、まだ学校の指導者たちの姿はいなかった。
高台の後ろにある巨大なスクリーンもまだ消えており、点灯していない。
この時、学生たちは大変賑やかだった。
多くの学生が前日の最初のレベルアップの体験を興奮して話し合っていた。
自分のスキルのカッコ良さを自慢する者、野良モンスターを倒して青装備をドロップしたことを得意げに話す者、またグループを作ってパーティを求める者もいた。
「新人ランキングは今日から更新されるんだ」
「みんなはもうどのレベル?」
「初日に何を見る必要があるんだ?せいぜいレベル5だろ、毎年同じだよ」
「俺は昨日誰かとパーティ組んで野良モンスター倒したけど、もううんざりだよ、やっと3級!」
「俺は昨日の午後寝てたから、まだレベル2だ」
「言うまでもないけど、秦野舞子が一位だろ、あいつは隠し職業なんだから!」
……
そのとき、平田明も到着した。
舞子は5組、平田明は3組だ。
大橋拓海と鈴木真由美も3組だ。
平田明が来るのを見て、拓海はやる気になった。
真由美の手首をつかんで近づこうとしたが、真由美は明らかに拓海の意図に気づいて抵抗した。
しかし拓海はお構いなしに、乱暴に引っ張って真由美を平田明の前に連れていった。
そして平田明の前で、片手で真由美を抱き寄せた。
これは平田明を嘲笑うためだけではなく、三年間真由美を追いかけ続けて得られなかったことへの復讐でもある。
彼は3組の全員に見せつけたかった。結局、真由美を手に入れたのは大橋拓海だってことを!
かつて平田明におべっかを使っていた3組の学生たちは、もはや平田明を気にかけず、むしろ平田明が拓海に嘲られるのを見て笑い始めた。
「拓海さん、平田をそんな風に扱うのはどうかと...」
「平田は三年間も真由美と付き合っていたのに何もできなかったのに、拓海さん、あなたは進展あったの?」
「そんな言い方はやめろよ、傷つくだろ。平田は普通の死霊魔術師しか覚醒できなかったんだから、それだけでも落ち込んでいるのに」
「何を恐れることがある?平田は精神力130だぞ、耐えられるさ、ハハハ...」
……
周囲からの嘲笑が耳に入ってきたが、平田明の心は波一つ立てなかった。
もし平田明が本当に普通の死霊魔術師だったなら、確かに落ち込んでいたかもしれない。
しかし今や、ゴールド効果を持っている平田明にとって、周りの同級生たちは文字通りゴミ同然に見えた。
一方、拓海は大いに満足していた。
得意げに言った。「簡単なことだろ?真由美の歩き方を見れば分かるさ、ハハハ...」
彼に抱かれている真由美は、
まるでおもちゃのように感じていた。
かつて平田明がしてくれた様々な親切は、拓海には欠片もなかった!
しかし彼女は歯を食いしばって耐えなければならなかった。天道同盟の入盟枠が必要だったのだ!
そしてその枠は、平田明について行っても手に入らないと彼女は確信していた!
「なぜ黙っているんだ?平田、お前はレベルいくつだ?言ってみろよ、みんなを楽しませてやれ」
拓海は挑発するように尋ねた。「そうだ、忘れてた。俺はもうレベル4で、すぐに5になりそうだ。真由美もレベル4だ。お前はどうだ?レベル2に上がった?」
平田明は彼らを相手にする気も起きなかった。
自分の席にどっかりと腰を下ろした。
ここは学院だし、もうすぐ朝礼が始まる。拓海も口先だけの嫌がらせしかできないのだった。