บท 10: 四年後
บรรณาธิการ: Pactera-novel
この四年間、小野澪は経営報告書にも政治ニュースにも、国中にあふれるゴシップにも一切関心を払ってこなかった。
にもかかわらず、ほんの気まぐれでニュースサイトをクリックしてしまったたった一度、その瞬間に、運命は彼女の過去を容赦なく突きつけてきた。
ラップトップの画面に表示された太字の見出しを目にした瞬間、彼女の穏やかな朝食は粉々に砕け散った。
『小野グループ、財務難に直面！』
『小野グループ株、史上最安値を更新！』
フォークが空中で止まる。
「えっ……なんで……？」
記事を急いで読み進めた彼女は、あまりの内容に衝撃を受けた。
「何が起きてるの……？どうして会社がこんなことに……？」
画面を睨みつけながら、澪は独りごちた。まるでその答えをスクリーンに求めるように。
心拍が速くなる。ウェブサイトを閉じかけたその瞬間、別の見出しが視界に飛び込んできた。
『小野拓海、心臓発作で入院』
椅子に背中を預けたまま、彼女は目を見開き、画面から目が離せなかった。
「うそ……心臓発作？そんな突然……？」
鋭く息を吸い込んで、彼女はラップトップを勢いよく半分閉じ、しかしすぐにまた開き、そしてもう一度閉じた。
最終的にそれを脇に押しやり、頭を振った。
「やめなさい、私。あの人のことも、会社のことも、全部もうあなたには関係ない」
けれどその言葉では、心臓の高鳴りも、膨れ上がる好奇心も止まらなかった。
小野家との縁を断ち切ったつもりでも、自分の家族の帝国とも言えるあの巨大企業が崩れ始めているという現実を、澪はどうしても受け入れきれなかった。
それに、小野拓海が？彼女は、会社が傾き始めたら彼も道連れになると信じていた。
気持ちが少し落ち着いてから、澪は再びラップトップを開いた。メールを確認しようとしたのだ。けれどまたしても、別の見出しが飛び込んできた。
『最新のゴシップニュース：藤原直哉、近々結婚か！？』
彼の最新の写真に視線が釘付けになり、胃がぎゅっと絞られるような感覚に襲われた。あの男は昔と変わらず、近寄りがたく、威圧的で、そして危険なほど魅力的だった。
「最高ね……」
澪は呪われたものでも見るようにラップトップを押しのけ、苦笑した。
「よりによって今日はなんて日よ、澪。世界中のニュースの中から、なんで藤原直哉の記事なんか開いたの？」
慰めを求めてラテを手に取ったが、その一口は命取りになりかけた。背後から、無邪気で小さな声が響いたのだ。
「ママ、藤原直哉ってだれ？」
澪はラテをテーブルに噴き出しそうになった。
そして慌てて口をぬぐって振り向いた。
そこには、おもちゃの車を握りしめた小さな手。完璧なヘーゼル色の目で彼女を見上げる、三歳の息子――悠真がいた。直哉と同じ目だった。
喉がカラカラに渇く。
（好奇心を持ち始めるタイミングとしても、よりによって、なんで今その名前を……？）
澪は微笑みを無理やり浮かべた。
「藤原直哉？」
澪は軽くその名を繰り返し、時間を稼いだ。
「悠真ちゃん、彼はね、ニュースによく出てくる人よ。ママはその記事を、ちょっと見てただけ」
それは、彼女がこれまでついた中でも最大級の嘘だった。
悠真は首をかしげ、ふっくらした唇で次の質問を言おうとする。
（……神様、なんでこの子は直哉にこんなにも似てるの？）
澪は素早く身を乗り出し、彼が余計なことを聞き出す前に、ひょいと膝に抱き上げた。
「うーん、そうね。彼は退屈なスーツを着て、退屈なことをする、ただの退屈なおじさんよ」
そう言って脇腹をくすぐり、話題を逸らす。
悠真は笑いながら体をよじった。澪はその笑顔を見つめながらも、仮面のような微笑みを崩せなかった。胸の奥では、火がついたように熱く燃えていたから。
なぜなら彼の笑いを見つめると、彼女は認めざるを得なかった。この子は、藤原直哉の息子だ。
艶やかな雑誌の中で世界が崇拝するあの男。名前すら口にできないその男。
そして、自分がたった一夜で何を残していったのかも知らない男。
澪は、悠真の柔らかい髪にキスを落とした。ベビーシャンプーの香りを、酸素のように深く吸い込む。
（誰にも知られてはならない。あの人にも、誰にも）
「ママ？」
彼がもたれかかって、再びつぶやく。
「なんで泣いてるの？」
慌てて瞬きをしてみると、視界が滲んでいた。彼女は慌てて頬をぬぐい、笑った。けれどその声はひび割れていた。
「ああ、なんでもないよ、悠真ちゃん。ママはね……悪いニュースにアレルギーがあるの」
その答えに納得したのか、悠真はおもちゃの車に戻っていった。
澪は椅子にもたれ、彼を強く抱きしめた。心臓が、肋骨の内側で激しく打ち続ける。
なぜなら、彼女には分かっていたから。どれだけ遠くに逃げても、どれだけ過去を埋めようとしても、藤原直哉の影から、いつかは逃げ切れないということを。
……
澪と悠真は家を出て、ビーチへと続く細い道を歩いた。
数分後、彼らは海カフェに到着した。
このカフェは、澪と真帆さんが共同で経営している。白い砂浜の上にあり、周囲には高級ホテルやコテージが立ち並ぶリゾート地に位置していた。
カフェを担当するのは澪、隣の花屋は真帆が切り盛りしている。
花屋にお客が来ないとき、真帆さんは自宅で過ごすことが多い。その家は、カフェと花屋の裏でつながっており、彼女の息子もそこで遊んだり休んだりしていた。
店内には木製のテーブルが四つ。外のデッキには、いくつかのテーブルが置かれているだけの、こぢんまりとした造りだった。
だがその小ささを補って余りあるのが、目の前に広がる絶景だった。果てしなく続く白砂のビーチ、そして朝日を浴びてキラキラと輝くエメラルドグリーンの海。
悠真を真帆さんの家に預けた後、澪はカフェのドアを開けて、新しい一日を始めた。
淹れたてのコーヒーの香りが潮風に乗って漂い、最初の観光客たちが店内へと足を運ぶ。
カプチーノ、ラテ、クロワッサン……それぞれが好みの注文をして、外のデッキで朝食を楽しみ始めた。
すべてが、穏やかでいつも通りだった――ドアの上のベルが、再び鳴るまでは。
澪は顔を上げ、そして凍りついた。
そこに立っていたのは、彼女がよく知る人物――岡村蓮。藤原直哉の秘書だった。
心臓が跳ねる。彼女は慌ててエプロンを整え、落ち着けと自分に言い聞かせた。
そして、まるで初めて見る客かのように、自然な笑顔を浮かべた。
「おはようございます。ご注文は？」
「おはようございます。ええと……エスプレッソを。テイクアウトで」
うなずきながら、澪は胸の奥が締め付けられるのを感じた。内心、彼女の思考はパニックの嵐の中を駆け巡った。
（まさか……気づいた？緊張してるの、顔に出てる？お願い……このまま気づかずに出て行って。直哉に伝えないで……）
彼女は注文に集中し、目を合わせないようにして、余計な会話が生まれないよう徹底した。
数分後、カップを滑らせて差し出し、そっと「どうぞ」と声をかけた。
蓮は何も言わず、表情にも特別な変化はなかった。もしかしたら、本当に気づかなかったのかもしれない――
だが、その希望はすぐに砕かれた。彼が外に出た瞬間、その顔がきゅっと引き締まり、携帯を耳に当てるのが見えた。
「社長」蓮は興奮した口調で言った。
「見つけました……小野澪を見つけました」
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